宮原奨伍プロデュース つかこうへいを知る旅「熱海殺人事件」「売春捜査官」開幕!

宮原奨伍プロデュース つかこうへいを知る旅「熱海殺人事件」「売春捜査官」が、2月4日から8日まで東京・紀伊國屋ホールで上演される。
「つかこうへいを知る旅」は、つかこうへいの人生や作品、その根底に流れる哲学に迫ることを目的とした企画だ。上演までの約一年間、関係者との対談や資料の紐解き、そして宮原自身の視点を通して、つかの創作を突き動かした情熱と葛藤が丁寧に掘り下げられてきた。
今回メディアクトでは、初日に先立って行われた「熱海殺人事件」のゲネプロの模様をレポートする。



上演開始20分前には主演の宮原による前説が行われ、ロビーには撮影スポットも設けられるなど、開演前から楽しめる仕掛けが満載だ。ぜひ早めに劇場へ足を運びたい。
本作は1973年につかこうへいが発表し、翌1974年には最年少で岸田國士戯曲賞を受賞した、言わずと知れた伝説的戯曲である。
物語は、熱海で発生したある殺人事件を軸に展開していく。
チャイコフスキー作曲『白鳥の湖』が大音量で鳴り響く中、幕が上がる。警視庁きっての切れ者にして変わり者、木村伝兵衛部長刑事(宮原奨伍)が登場。彼のもとに配属されたのは、富山からやってきた若手刑事・熊田留吉(潮見勇輝)だ。婦人警官のハナ子(広山詞葉)とともに、彼らは熱海で起きた殺人事件の捜査にあたる。
容疑者は田舎育ちの工員・大山金太郎(丸山正吾)。被害者は彼の幼なじみだ。しかし伝兵衛はこの一見地味な事件に納得がいかず、大山を凶悪な犯罪者に仕立て上げようと荒唐無稽な手法で取り調べを進めていく。
一見するとサスペンス調で令和の時代にはそぐわない理不尽さも感じさせる展開だが、テンポの良い応酬や捜査中に歌い出したり小芝居を挟んだりと、エンターテインメント性の高さも楽しめる。つか作品ならではの独特な言い回しとリズム感も冴えわたっていた。
登場人物4人の台詞量は膨大で、幕が上がってから下りるまでほぼ話しっぱなしの状態が続く。馴染みのない言い回しや怒涛の勢いで押し寄せる熱量に最初は戸惑う観客もいるかもしれないが、芝居が進むにつれて自然と世界観に巻き込まれていくはずだ。逸見輝羊による巧みな演出のもと、俳優陣の熱量は奇跡的な緻密さで練り上げられている。
魂のこもった芝居によって、乱暴すぎると感じた言葉が逆に深く胸に残り、その奥に潜むつかこうへいの愛情や優しさが浮かび上がる。時代を越えて刺さる言葉ばかりなので、つか作品が初観劇という人も、難しく構えず物語に身を委ねてほしい。



宮原は冒頭から怒涛の台詞量と圧倒的な熱量で、舞台上に強烈な存在感を刻みつける。木村伝兵衛という男が内包する激情や正義感を、全身全霊で体現。理不尽さや暴力性すらも、どこか愛すべき人間くささとして立ち上がらせる手腕は見事だ。観客の感情を掴んで離さない牽引力は、主演としての覚悟と説得力に満ちている。
地方から赴任してきた新任刑事・熊田留吉を演じる潮見勇輝は、型破りな伝兵衛の捜査に翻弄されながらも事件と向き合う姿が実直に伝わってくる。一方で、緊張感の続く物語の中に差し込まれるコミカルな場面では、空気を一変させる柔軟さも発揮。その振れ幅の大きさが、舞台全体に心地よいリズムをもたらしている。
婦人警官ハナ子を演じる広山詞葉は、紅一点として男所帯の世界に鮮やかな彩りを添える存在だ。劇中では殺人現場再現の被害者・アイ子も演じ分け、役柄ごとの空気感を的確に切り替えていく。凛とした佇まいの中に垣間見える愛らしさ、そして舞台上で放たれる確かな存在感が、物語に奥行きを与えている。



大山金太郎役の丸山正吾は、田舎育ちの純朴さと、殺人の動機に潜む狂気、その紙一重の危うさを説得力をもって表現する。なぜ彼は凶行に及んだのか、その理由が徐々に明らかになっていく過程で見せる眼差しは、熱気に満ちた劇場の空気を一瞬で静謐へと塗り替える。
つかこうへいの遺書は、「思えば恥の多い人生でした」という言葉から始まる。彼が何を恥と捉えていたのかは分からないが、本作を観終えた後には、自分自身の生き方を恥だと思わなくてもいいのではないかという勇気をもらえるようにも感じた。言葉がぶつかり合い、感情が剥き出しになり、人間の奥底を容赦なくあらわにする本作は、初演から50年以上にわたり上演され続けている。時代を越えて人を惹きつける確かな力があるからこそ、誰にとっても刺さる瞬間が存在するのだろう。
上演時間は、休憩なしの約2時間。長年多くの劇場で上演されてきた「熱海殺人事件」だが、紀伊國屋ホールはいわばつかこうへいの聖地とも言える場所である。ぜひこの劇場で、ひとつの旅の終着点を見届けてほしい。
取材・文、写真:水川ひかる




















■公演概要
宮原奨伍プロデュース つかこうへいを知る旅「熱海殺人事件」「売春捜査官」
日程:
2026年2月4日(水)~2月8日(日)
- 2月4日(水)19:00
- 2月5日(木)19:00
- 2月6日(金)14:00/19:00
- 2月7日(土)13:00/18:00
- 2月8日(日)14:00/18:00
※開場は開演の30分前
※受付開始は開演45分前 - 出演:
『熱海殺人事件』
宮原奨伍/広山詞葉/潮見勇輝/丸山正吾
『売春捜査官』
広山詞葉/宮原奨伍/前田剛司/宮本大誠
スタッフ:
脚本:つかこうへい
演出:逸見輝羊
音響:山本能久
照明:宮崎晶子
舞台監督:神林貴幸
宣伝美術:岩井亜矢子(M-rep)
制作:日野祥太
企画・主催:宮原奨伍プロデュース


