【インタビュー】ヘタミュ「イタリア・ドイツ・日本」の3人が語る「ヘタミュが僕たちにくれたもの」長江崚行・上田悠介・植田圭輔 特別インタビュー
2月17日(土)、ユナイテッド・シネマ アクアシティお台場にて、ミュージカル「ヘタリア~The Fantastic World~」(ヘタミュFW)舞台挨拶付き応援上映会・東京の部が開催され、長江崚行(イタリア役)、上田悠介(ドイツ役)、植田圭輔(日本役)が舞台挨拶に登壇した。 メディアクトでは、舞台挨拶を終えた3人にインタビューを実施。応援上映の感想からFW公演時の思い出、強い信頼関係で結ばれているお互いについてどう感じているか、ヘタミュが自分に与えてくれたものについてなど、たっぷりと語ってもらった。
――登壇お疲れ様でした! 舞台挨拶を終えて、今の率直なお気持ちをお聞かせください
長江:感動しました! 上映中に控室にいるとき、皆さんが笑ったり感動している声が聞こえてきたんです。それを聞いて「僕の好きだったものが戻ってきた!」とうれしくなりました。声を出せずに、思い切り盛り上がるのも躊躇(ちゅうちょ)してしまう時期が長かったですからね。皆さんの気持ちがリアルに伝わってきましたし、リリースイベントなどの他のイベントとは違った方向で、より親密に熱量の交換ができたと思っています。
植田:1部の後と2部の前では、場内の雰囲気がまったく違って興味深かったです。1部の後は、応援上映で声をたくさん出した後なので場内もすでにあたたまっていましたし、2部の前は「これからだ!」「どうなるんだろう?」と皆さんがわくわくされているのが伝わってきました。長く愛していただいているこのコンテンツに、新しい形の楽しみ方が増えましたね。
上田:素晴らしい景色でした! 皆さんの笑顔から「全力で楽しむ!」という気持ちが伝わってきましたし、自作のパネルやうちわやペンライトも「今日のためにずっと前から準備してくださったんだろうな」と思うと、うれしくて愛おしくて。ヘタミュの応援上映という文化がさらに日本各地に広がったらいいなと思います。
――公式グッズのフラッグを持った方もたくさんいらっしゃいましたね
長江:皆さんが旗を振る音がしっかりと聞こえて、あらためて「グッズにフラッグがあるのはいいなぁ」と…。今日のようなイベントや公演でも思うのですが、笑い声や拍手は、僕たちから発信したものへのリアクションであるのに対して、旗を振るのは「歩幅を合わせて一緒に歩いて行く」という皆さんの意思表示のように感じているんです。
植田・上田:もう、それ以上のコメントは出せない!(笑)
――今回のような“応援上映”は、映画作品も含めるとここ数年で急激に増えてきています。応援上映についてどのようなイメージを持っていましたか?
長江:僕は参加経験があります。出演した舞台の原作映画の応援上映だったのですが、体験を共有することで、周りの人と心が繋がる感覚がありました。それから、ものすごくセンスのいい掛け声が飛ぶと、うれしくなると同時に「やられた!」と、ちょっと悔しさを覚えたり(笑)。ひとりで観ているよりもさまざまな見方ができるので、視界が広がるような気がします。
上田:僕はこれまで、応援上映に参加したことはないんですよ。だから今回初めてその空気感を味わわせていただきました。崚行の言うように「隣の人も味方だぜ!」という気持ちになりますね。
植田:暗い場内でひとつの画面を一緒に観ているからこそ成立しているのかな、と感じます。明るかったら声掛けも委縮してしまうかもしれません。今後もし何かの応援上映に参加するとしたら、後方の席で楽しみながら、洗練された突っ込みを入れたいです(笑)。
――その突っ込み、ぜひ聞いてみたいですね。ではここから、「The Fantastic World(FW)」での、公演や稽古での思い出などについてうかがっていきます。今作は、前作シェスタ(お休み)だったドイツ役の上田さんが参加されて3人がそろいましたね。
長江:そうですね! また3人がそろったので、キャラクター同士としても役者としての僕たちの関係性も、両方とも再認識できて。この2人がいてくれないとしんどいことがたくさんある…と改めて感じました。
上田:久しぶりの現場はだいたい緊張するものなのですが、ヘタミュの現場はまったく緊張しなかったです。「帰って来た」という感覚すらありませんでした。周りも「おう」とそのまま受け入れてくれましたし(笑)。はじめましてのイソ(磯野亨/オランダ役)に対しても「はじめまして!」という感じではなかったです。不思議な作品ですね。
植田:イソもはじめから馴染んでいましたね。稽古中、崚行がイソに先輩風を吹かせているのを、寿里(フランス役)さんと一緒に遠くからニヤニヤしながら見ていました。崚行が背伸びしている様子がかわいくて「やってるなぁ」「お兄ちゃんがんばってますなぁ」って(笑)。
長江:だってイソに尊敬されたいじゃない!(笑) 僕自身がかっこいいお兄ちゃんたちを見て憧れてきたように、イソにもそう思ってもらいたくて。でも、僕はまだ“先輩歴”が浅いので、どうしても“歴”のある先輩たちの方が魅力的に見えちゃうかもしれないですよね。それでも、周りのみんなが「この座組の最年少は、いつまでも崚行だよ」と言ってくれているので、それに甘やかされていきたいです!(笑)
――では次に、そんな皆さんの関係性についてお聞きします。お互いについてどう思っているか教えてください
長江:お互いに思いやれる関係だと感じています。誰も無理していなくて、いごこちがいいから一緒にいる。例えば、僕自身としてもイタリアとしても、ふたりに思い切り絡んでいっても嫌がっている空気は感じません。そして、ふたりが僕に返してくれるものもまったくイヤではなく心地いいです。なるべくして一緒になった3人なんだ、と。
植田:今作は特に、ふたりがただ隣に座ってくれるだけで心に染みました。ストーリーを追って振り返ると、このふたりと再会できるのは後半になってからなんですよ。だから、また3人が集まったときは「ここまで来た」と感じましたし、エネルギーをもらってまた日本が立ちあがっていく印象深いシーンになりました。
僕たちが再会したシーンで歌っているとき、悠介がものすごくいい顔をしていたんです。悠介からは、いろいろな発見や驚きをもらいました。悠介からのアプローチで自分の動き方が変わったので、視点が変わりましたし考え方の幅が広がったと感じています。たくさんのものを与えてもらって、支え合いができる関係ですね。
崚行はね、大人になりました。小さい頃からこの世界で仕事をしている人には“特有のもの”があると僕は感じているのですが、崚行はそれを何とかしたいと今までずっともがいていたように見えたんです。そしていろいろな人に出会ってたくさんの経験を積んで、悩んで成長して…。崚行の成長を近くでずっと見てきたのですが、最近「あ、大人になったな」と感じました。
長江:お互い、いろいろな面をずっと見てきているからね。圭輔さんは、僕が悩んでいるとすっと現れて「こういうことで悩んでいるんだよね?」とストレートな言葉をくれます。悠介さんは今回あらためて「やっぱり優しい人なんだな」と心から思いました。圭輔さんが言っていたのと同じシーンで悠介さんの表情を見て「いい顔するなぁ」って。
上田:奇跡的に空気が埋まる関係性なんですよね。この3人が一緒にいると、クリエイティブになれるんです。一緒にいてまったくストレスがない。逆に、ふたりがいないと不安になるくらいです。さりげなくアドバイスをくれる圭輔、「力が入ってない?」と声をかけてくれる崚行。役として舞台の上で生きている関係性と、実際の僕たちの関係性がシンクロしているようにも感じますし、ディスカッションをしていても空気のようにいごこちのいい存在ですね。
――3人によるわちゃわちゃとしたアドリブのシーンは、ある程度打ち合わせをしているのでしょうか?
長江:基本的に打ち合わせはしていないです。3人でやるアドリブのシーンは、ドイツが困るものが多いのですが、悠介さんが本当に困っているのがおもしろくて(笑)。今回もいろいろと楽しいシーンがありましたよね。
植田:そうだね。新鮮味がなくなってしまうから、あえて打ち合わせをせずに楽しんでいるのもあります。僕と崚行は、本線に戻すのが得意なタイプです。“落ちているもの”をさらっと拾ったりね。僕と崚行が仕掛けて悠介に困ってもらって、すっと元に戻す。その役割ができているように思います。
上田:僕は、波風が立てばたつほど楽しくなるタイプですね。ハプニングは大好きです(笑)。特にこの3人でいるときは、心地いいと同時にとても分かりやすいんです。
長江:分かりあっているからやりやすいし、でもまだお互いに見せていない手札もあるでしょうから、「次は何をしてくるんだろう?」とわくわくする気持ちもあります。
上田:板の上で、お芝居をしながらゲームをしている感覚です。僕たちもこのやりとりを楽しんでやっているので!
――3人の息の合ったやりとりが本作にもたくさんありましたね。また、FWはクライマックスでのプロジェクションマッピングによる場内いっぱいの花火が大変印象的な作品です。このシーンのことをお聞かせいただけますか?
植田:「花火が打ちあがるよ」とは聞いていましたが、実際に見るとやはりすごかったですね! 本編中はいつもどおりアナログで、あの花火とエンディング“だけ”映像を使用したのがよかったし、それは吉谷(晃太朗/演出)さんのこだわりなのかなと思います。
上田:役を背負いながらも、花火を見て「きれいだな」と素直に思いました。役であるけれどもお客さまと同じ気持ちになれたというか…。不思議な気持ちでしたね。
長江:僕たちが客席に降りる瞬間に、プロジェクションマッピングが客席にまで広がる。そのタイミングがものすごく好きです。僕たちはキャラクターとしてこの世界に存在しているけれども、ふだんはあくまでも「舞台上にいる、話の中の登場人物」なんですよね。でも、映像が広がった客席に僕たちが降りたあの瞬間、お客さまはいつもよりもさらに「2次元から飛び出してきた!」と感じてくれたんじゃないかと思うんです。映像によって劇場内がひとつの空間になったというか…。
――花火のシーンでお客さまの顔は見えていましたか?
長江:ばっちり見えていました、花火で明るいので(笑)。皆さんが感動されているのを見て、自分が小学校6年生の頃のことを思い出しました。テーマパークで、華やかなパレードとそこで踊るダンサーさんたちを見て「なんてすごいんだろう!」「これがエンターテインメントか!」と感動したと同時に「この世界、いいな」と思ったんです。皆さんがそのときの僕と同じ顔をしていたので「僕は、ちゃんとエンターテインメントに関わる人間になれているんだ」と感動しました。
植田:いいこと言うね! FWは僕にとってハードな公演だったので、毎公演、お客さまのそのときのお顔を見るために頑張れていたように思います。本当に背中を押していただきました。
上田:皆さん、どこを見たらいいのか忙しそうでしたね(笑)。客席にはキャストたちが、舞台上にはすばらしいダンサーさんたちが、でも花火もきれいだし…と、ポジティブに混乱されているなと。「目が足りないとはこういうことか」と思いました。
長江:場内がひとつになったあのシーンは、エンターテインメント「ヘタミュ」の到達点のひとつだと感じています。でも、吉谷さんは次の作品ではまた違ったものを探さなければいけないから大変だと思います。あの方の“生みの努力”はすごいですね。
――長く続いている「ヘタミュ」のシリーズに出演していて、本シリーズがご自分に与えた影響や受け取ったものを改めて教えてください。
植田:僕にとって、大きな転換のきっかけとなった作品です。デビューして間もないころに“歌絵巻”の作品に出演させていただいたのですが、それ以来“ミュージカル”と銘打たれた作品にはずっと携わっていなかったんです。今思えば「芝居だけをやっていたい」と、凝り固まった考え方で過ごしていて…。でも同時に「この先も役者を続けていくのなら、考え方を変えなくてはいけない」とも思っていたんですよね。
そんなときにヘタミュのお話をいただいて「歌やダンスが苦手でも関係ない。飛び込んでみよう」と。この現場で歌やダンスに向き合ってさらに努力できましたし、何かひとつのことを極めている人たちを見て「世界は広い!」とも実感しました。だから今こうして仕事を続けさせていただいているのは、ヘタミュのおかげだと言えます。
上田:僕は特殊な形での参加だったので、“2代目”の概念に苦しんだときもありました。でも、このふたりをはじめとした座組のみんな、そしてファンの皆さんが僕を受け入れてくれて、落ち着く場所を見つけられました。ヘタミュは、強い個性がぶつかりあってできている作品です。それぞれが他の現場で得たものをここに持ち帰ってきて、新しい表現を楽しむ。個性によって世界が繋がっていることを、ヘタミュが教えてくれました。
初代ドイツの近江陽一郎くんは、熱い言葉をそのままストレートに言ってくれる人です。「ドイツはもうお前のものだよ」なんてことも言ってくれました。でも、僕の中に彼のドイツはずっと存在しているんです。それは決して消えることはありません。今は、“2代目”の概念に苦しんではいませんが、彼の熱い言葉を大事にしながらこの役を演じていきたいと思っています。
長江:彼とは今は別々の道を歩んでいますが、たまに連絡を取り合っていますし、この絆はこの先もずっと変わらない自信があります。僕も、例えば僕がどんな僕になってもみんなは僕を愛してくれる、と信じているんです。何年たってもずっと笑っていられるすてきな関係ですし、僕もこの先も変わらずずっとこの仲間たちを愛しています。
僕は、自分らしく生き続けるにはどうしたらいいか? ということを、ヘタミュを通して考えるようになりました。17歳でこの作品に初めて携わったとき、「いろいろな人がいる!」と驚いたんです。いろいろな生き方をしている個性の強い人たちが集まって舞台ができている。じゃあ、僕はどうしたらいいんだろう? 何を言いたいんだろう? と、ヘタミュの中のさまざまなシーンと照らし合わせて考えるようにもなりました。
特に今作FWで言えば「やってみなきゃ分からない」というイタリアのセリフが強く心に残っています。イタリアって、たまに核心をつくことを言うんですよね。まだやったことがないのだから、どうなるかなんて分からない。失敗したら「失敗した」と分かる。僕はあのセリフがすごく好きで、その言葉を「長江崚行として圭輔さんに届けたい」とも思いました。
稽古を思い返してみると、そのシーンだけは吉谷さんからダメ出しをもらっていないんです。自分の中で確固たる何かがあったからかもしれません。
植田:うん、あのセリフは僕の心にも強く響いてきたよ。あの言葉を役者として理解しつつ、でも“演じて”いないから、吉谷さんも何も言うことはなかったんじゃないかな。イタリアとしても長江崚行としても100点でした。
長江:うれしいなあ。自分の人生観とも照らし合わせて深い場所に届く言葉だったので、早いうちから理解できたのだと思っています。僕の人生の岐路には、いつもヘタミュがありました。進路について考えていたときも、いろいろなことに悩んだときにも…。でもやっぱり、何ごともやってみなければ分からないんです。あのとき思い切ってやってみなければこの景色は見えなかった、と思うことが今もたくさんあります。
うまくいかないこともあるけれど、人とも事象とも真剣に向き合っている。そんなイタリアが口にしたあのすてきなセリフを、これからも大事にしていきたいです。
――それでは最後に、長く続いているこのシリーズのファンの皆さまにメッセージをお願いします!
植田:前シリーズの初演から通算して、長い時間が過ぎました。周りのみんなを見ていて「いい年の重ね方をしている」「いろいろな世界を見てきたんだろうな」と感じています。ヘタミュは、僕たちが得てきたものを持ち寄って生かしながら作っていく場でもあるので、その分、感覚を研ぎ澄ませて踏んばらないといけないときも多くあります。これからも、みんなで支え合い、楽しみながら続けていきますので、新シリーズのヘタミュを楽しみにしていてください。
上田:ヘタミュは、この世界が続く限り続いていくコンテンツだと思っています。次回作はどのキャラクターがお話を引っ張っていくのか楽しみにしながら、一緒にシリーズを盛り上げていってください!
長江:ヘタミュは、毎公演「伝統芸」と「新しい挑戦」が詰まった作品です。決してその場にとどまらず、常に新しいものを探しながら前に進んでいます。話の中心になるキャラクターによって他のキャラクターの見え方も変わります。多角的であり、層にもなっているんですよね。今後もお客さまに楽しんでいただくために、さらに気を引き締めて頑張っていきます。僕たちと一緒にヘタミュを楽しみましょう!
取材:広瀬有希/写真:ケイヒカル
“ヘタミュ”新シリーズ第3弾公演となるミュージカル「ヘタリア~The glorious world~」の上演が、2024年8月に決定!
◆公演タイトル:ミュージカル「ヘタリア~The glorious world~」
◆日程:
[京都公演] 2024年8月9日(金)〜12日(月祝)
[大阪公演] 2024年8月17日(土)〜19日(月)
[東京公演] 2024年8月24日(土)~9月8日(日)
◆会場:
[京都公演] 京都劇場(京都市下京区烏丸通塩小路下ル 京都駅ビル内)
[大阪公演] 森ノ宮ピロティホール(大阪市中央区森ノ宮中央1-17-5)
[東京公演] 日本青年館ホール(東京都新宿区霞ヶ丘町4-1)
◆原作:「ヘタリア World★Stars」日丸屋秀和(集英社「少年ジャンプ+」連載)
◆演出:吉谷晃太朗 ◆脚本:なるせゆうせい
◆キャスト
イタリア役:長江崚行、ドイツ役:上田悠介、
アメリカ役:磯貝龍乎、イギリス役:廣瀬大介、フランス役:寿里、ロシア役:山沖勇輝、
プロイセン役:高本学、ロマーノ役:樋口裕太、オランダ役:磯野亨 他
◆企画制作・プロデュース:4cu(Frontier Works Inc.)
◆制作:株式会社FAB
◆主催:ミュージカル「ヘタリアGLW」製作委員会
【公式サイト】https://musical-hetalia.com/
【公式X】@hetamu_official https://x.com/hetamu_official ©日丸屋秀和/集英社・ミュージカル「ヘタリアGLW」製作委員会