【インタビュー】橋本祥平×北村諒「自信しかない」2本立て|舞台『ヴィンランド・サガ』開幕直前インタビュー

インタビュー

舞台『ヴィンランド・サガ』が、4月19日(金)より東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて開幕する。原作は講談社「アフタヌーン」連載中の同名漫画。西暦1000年前後の北欧を舞台に、実在したバイキングとその周辺を取り巻く歴史を細やかな人間描写とともに描く人気作だ。
今回の舞台化では、原作に惚れ込んだDisGOONie主宰の西田大輔が脚本・演出を務め、「海の果ての果て 篇」「英雄復活 篇」の2作同時上演に挑む。


メディアクトでは、橋本祥平、北村諒にインタビュー。今作への思いや見どころ、公演に向けての意気込みなどを聞いた。

――出演が決まった際の第一印象をお聞かせください。

橋本祥平(以下、橋本): DisGOONie初の2.5次元作品ということで、まずは参加できることが最高に嬉しく、光栄です。

北村諒(以下、北村):僕も、大切な作品のメインを祥平と僕の2人で担えること、とても光栄に思います。大きな信頼とともにプレッシャーもひしひしと感じていますが、期待に全力で応えたいです。

――西田大輔さんは多くの2.5次元作品を手掛けていらっしゃいますが、DisGOONieとしては初めての原作ものとなりますね。企画について聞いたときのご感想はいかがでしたか?

北村:あえてDisGOONieとして原作ものに挑戦する、というのはやっぱり驚きましたし、どんな作品なのか興味が湧きました。後から『ヴィンランド・サガ』と聞いて、「ああ、なるほど!」という納得感がありましたね。

橋本:うん、そうだね。『ヴィンランド・サガ』は海賊たちが描かれる物語。DisGOONieも船をモチーフに語られることが多いので、ぴったりハマるなという印象を受けました。

――現場の雰囲気として、今までのDisGOONieの稽古と異なる部分はありますか?

橋本:稽古内容として大きく変わったことはないんですが、西田さんが抱く原作への愛情、思いが毎日ひしひしと伝わってきています。原作の『ヴィンランド・サガ』は、ストーリーもキャラクターも濃密で見どころが多い作品です。それをワンシーン、ワンシーン、本当に丁寧に作り込んでいます。
原作に忠実でありながら演劇としての面白さもきちんと成立させるという、西田さんの気概を感じる毎日です。原作愛があるからこそ作れるお芝居であることは、きっと観客の皆さんにも伝わると思います。

北村:原作ファンの方には「あのシーンが3Dになって存在している」という感動を味わっていただけると思うし、未読の方には「原作も読んでみたい」と思っていただける、そんな舞台になっていると思います。そもそも、原作がめちゃくちゃ面白いので、それを忠実にお芝居に落とし込んでいる今作も必ず面白くなる!という手応えがあるんです。
お芝居は観る側の想像力に頼る部分が大きいので、「原作ではどう描かれているんだろう? 絵ではどう表現されているんだろう?」と気になるシーンも多いはず。原作を知っている方も、知らない方も、漫画と舞台とで2倍楽しめる作品になるはずです。


――ビジュアル撮影の際、西田さんから「こうしてほしい」といったオーダーはありましたか?

北村:それが、一切無かったんですよ。役作りで気になるところがあればその場で伝えてくださっていたと思うので、オーダーが無いということは大丈夫だったのかなとホッとしました。加えて、カメラマンさんやスタッフさんたちのことを信頼していることもあり、あえて何も言わずに見守ってくださったのかなと。

橋本:オーダーは無かったんですが、演出家さんがビジュアル撮影に参加されること自体が珍しいので、あの日は自分、すごく緊張してしまって。目にもカッと力が入っちゃいました。結果的に、トルフィンとして良い写真が撮れたようにも思います!


――2本立ての同時上演ということで、稽古もかなりハードなのではないでしょうか。

橋本:うーん、稽古に関してはわりといつもどおりの感覚でできていますね。稽古をじっくり進めている分、なかなか終わりが見えないところは確かに大変なんですが、物語の流れとしては2作が1本の時系列で繋がっている形になるので、稽古の段階ではそんなに意識していないかなぁ。

北村:僕は逆に「2本立てで良かったな」とも思っています。原作を丁寧に描こうとすると、物語が1つの盛り上がりを迎えるシーンにたどり着くまでにどうしても6〜7時間はかかってしまうんですよ。
もちろん、2作に分けた上で期間を空けて上演することも可能ですが、今作に関しては、1作目と2作目の間に空白期間が生まれてしまうのはすごくもったいないように思います。クライマックスまで一気に味わっていただくことで、濃厚で贅沢な時間になるんじゃないかと。
とは言え、祥平は体力面で大変だよね。トルフィンはずっと動いてるから。

橋本:そうね、確かに動きっぱなしではあるかな。DisGOONieといえば殺陣が見どころの1つですし、今回もアクション満載です。役によって扱う武器が変わりますし、舞台装置も大きく動かして迫力あるアクションシーンになっています。そこはお客様にぜひ楽しみにしていてほしいです!
僕が演じるトルフィンの武器は短剣なので、相手の懐に飛び込んでいく戦闘スタイルになります。今回はこのスタイルで身長差のあるキャストと戦うシーンが多く、とくにトルケル役の林野健志さんは身長193cmと大柄なので、トルフィンの言う「狙える急所の位置が高ぇ」(原作・第19話「ロンドン橋の死闘」)という感覚を稽古で痛感しています。

北村:身長差とリーチの差が凄いんですよ。傍から見ていると、本当にトルフィンとトルケルの戦いを目撃しているような迫力があります。トルケルはあの体躯で槍を振り回して戦うから、余計に大きく見えるし。

橋本:そこまで身長差があるアクションシーンは、演じる機会も見る機会もあまり無いと思うので、ぜひ楽しんでほしいですね。

北村:クヌートは戦闘シーンがほぼ無いので、僕は稽古場でもみんなの殺陣を見ながら、ずっと「すげえ、すげえ!」って言ってます。高さがあるセットで高低差を作ったり、奥行きを使って躍動感を見せたり。身長が高いキャストも、林野さんはじめたくさん揃っているので。
本当に興奮するアクションが盛りだくさんで、劇場に入って照明や装置、色々な演出が加わったらどんなことになっちゃうんだろう?って、想像が膨らみますよ。客席から見てみたい!
トルフィンの父・トールズ(演・中村誠治郎)のアクションなんてもう芸術の域で、改めて「上手いな……」ってため息が出ました。誠治郎さんの殺陣はもちろん昔から素晴らしいんですが、最後の共演から時間を経て、自分も色々な舞台を経験して少しは上達したからこそ、「ああ、こんなに凄かったんだ」と衝撃を受けましたね。

橋本:誠治郎さんは武器を使うシーンもかっこいいけど、何と言っても無手(素手)のシーンの迫力がね。こんな人がいたらそりゃあ「ヨームの戦鬼(トロル)」って呼ばれるわ、最強だわ、って説得力を感じます。

北村:トールズの無手のシーン、ほんとに見応えがあるよね。ちょっと悔しいくらい凄い。

橋本:さすが我が父上、誇らしい! お客様にもぜひ注目してほしいです。

――「海の果ての果て 篇」(以下、海篇)、「英雄復活 篇」(以下、英雄篇)に分かれる今作。原作を知らない場合、どのような順番で観るのがおすすめですか?

北村:ストーリーとしては、まず「海篇」があって、次に「英雄篇」という流れになります。なので、可能であれば「海篇」から先に観るほうが分かりやすいです。ただ、結局はどちらから観ても楽しめるような作りになっているので、そこはあまり考えすぎずどちらからでも安心して観ていただけたらなと。

橋本:「英雄篇」も回想シーンなど工夫して作られているので、どちらから観ても置いてけぼりにはならないかと思います。

北村:逆に、あえて「英雄篇」を先に観るのも、それはそれで面白いかも。「英雄篇」で「これはどういうこと?」と疑問を抱いた部分について、「海篇」を観て「なるほどそういうことか」と回収するような、そういう観方もできますね。

橋本:どちらから入ったとしても、1作見たらもう「1作も気になる!」って思うことは間違いないです。

北村:観る側も体力を消耗しそうなくらい重厚なストーリーなので、ぜひ万全の状態で劇場にお越しください。

――お互いの演じる役について、ご本人と似ていると感じる部分はありますか? 気心の知れたお2人ならではの印象を伺いたいです。

橋本:諒くんに関してはもう、まず美しさがクヌートそのもの。ビジュアル撮影で見かけたとき、びっくりしましたもん。「まんまじゃん」って。

北村:ウィッグとメイクは偉大なんです(笑)。

橋本:見た目の印象と内面の芯にギャップがあるところも、ちょっと似ているかも。クヌートって物腰がやわらかいし、最初はちょっと弱々しい印象があるけど、覚醒するとそこから芯が1本通ってくるじゃないですか。
諒くんも、こう、目元がとろ~ん、ふわ〜んとしていて、優しい印象を受けるでしょう。でもいざ一緒にお芝居をしてみると、内面に自分の強い芯を持ってて、スイッチが入ったとたんに決めるとこカチッと決めてくる。そういうギャップを感じさせるところは、クヌートと似ています。

北村:トルフィンの衣装を着た祥平の第一印象は、「野暮ったいのに、かっこいい」。奥にある良さを引き出すために、思わず手をかけて磨きたくなってしまうようなかっこよさが、まさにトルフィンだと思いました。
トルフィンは、親の敵討ちをするために1人の人物をずっと狙っていますが、祥平もどこかそういう空気をまとっていることがあります。復讐のためではないけれど、状況をじっと見て、チャンスを狙う一面があると思うんです。
お芝居や、人との関わり方、何事においても勝負の瞬間を虎視眈眈と見据えていて、そのときが来たらタイミングを逃さずガッと捕まえに行くというか。そんな嗅覚の鋭さが、トルフィンにピッタリだと思います。あとは、普段からすばしっこくて、ちょこまか動き回っているところも似ているかな。


――なるほど。では、ご自身の役を演じるにあたり、一番やりがいを感じるのはどんなところですか?

北村:クヌートについては、シンプルに「成長」を見せたいです。今回のお話、クヌートは序盤とラストで別人のような変貌を遂げるので、やっぱりそこに注目してほしくて。周りから受けた影響や受け取ったもの、自分で気づいたこと……様々な要因が積み重なって一気に変貌する様が、クヌートの見せ場だと思います。その変化、成長の部分をお芝居で明確に示していきたいです。

橋本:僕は、トルフィンを演じること自体がやりがいというか、今稽古が楽しくてたまらないんです。彼はまっすぐな男で、父上の敵討ちという1本の槍のような意志をずっと持ち続けている。だから、僕自身も常にまっすぐな気持ちで稽古場にいるようにしています。
トルフィンとアシェラッドの関係性もまた、良いですよね。アシェラッドという宿敵の船に乗って一緒に旅をしているけれど、トルフィン自身は馴れ合っているつもりはない、というのは凄く複雑で面白い。でも観客の皆さんから見ると、もしかしたら親子にも近いような絆を感じるかもしれない。そんなところにも惹かれます。その一風変わった関係性をどう表現していくか、試行錯誤している最中です。


――橋本さんは、演じるときに役の「目力」を大切にしていると伺いました。トルフィンでもやはりそこは意識していらっしゃいますか?

橋本:そうですね。原作を読んでいてとくに印象的だったのが、父上を喪った直後の幼いトルフィンの、復讐に取り憑かれたような眼差しです。純真な子どもだったトルフィンの目つきが一変した、あのシーンは読んだ瞬間鳥肌が立ちました。「目は口ほどに物を言う」ということわざがありますが、まさにそれですよね。
トルフィンは、戦いの際にカッとなって我を忘れてしまうこともありますが、それ以外はあまり感情を表に出さないタイプです。でもその分、目の表情や細やかな仕草などで、彼の喜怒哀楽をしっかり表現していきたいなと思っています。


――ありがとうございます。では最後に、公演を楽しみにしている方へメッセージをお願いします。

北村:DisGOONie初の原作ものであり、僕らにとって様々な覚悟と挑戦が詰まった作品です。でも、お客様には「ただ純粋に楽しんでほしい」と思いながら作っています。
演劇の醍醐味は、やはり物語に息づくリアルな人間の存在感や生き様を、直に感じていただけることだと思います。とくにこの『ヴィンランド・サガ』は、生と死の手応えを肌身で実感できるような作品。原作を知っている人も知らない人も、全ての方にそれを体感していただけたら嬉しいです。
己の欲望に忠実に生きる人間たちの生き様を、ぜひ劇場で感じに来てください。

橋本:原作者の幸村誠先生が稽古場に来てくださったとき、西田さんが「えりすぐりの精鋭たちが揃っています」と言ってくださいました。その一言を聞いてキャスト一同、士気が爆上がりしましたし、僕自身も最高のものを作らなければと改めて感じました。
約1ヶ月という限られた時間の中で、今まさに奮闘している最中ではありますが、「自信しかない!」というのが僕の正直な気持ちです。歴史に刻まれる大切な1作、この船の一員としての誇りを胸に、精一杯戦って、叫んで生き抜いて、頑張ります。僕たちの勇姿を劇場で見届けてくださったら嬉しいです!

取材・文:豊島オリカ/写真:ケイヒカル

舞台『ヴィンランド・サガ』あらすじ

―千年期の終わり頃、あらゆる地に現れ暴虐の限りを尽くした最強の集団、ヴァイキング。
最強と謳われた戦士の息子トルフィンは、幼くして戦場を生き場所とし、
幻の大陸"ヴィンランド"を目指す――

「海の果ての果て 篇」では、何故トルフィンが復讐鬼になっていったのか――
かつての記憶、アシェラッドとの出会い、父トールズへの想いを描き、
「英雄復活 篇」では、政権争いの過酷な王家の中で育ってきたために
臆病であるデンマークの第二王子、クヌートからの視点を中心に描く。
そしてトルフィンという人物、クヌートの人生、一人の青年と一人の王子の成長を追う
それぞれの作品が織り成す対比で、物語はより深みを増す。
激動の時代で巻き起こる、本当の戦士の物語サガ。

【公演概要】
舞台『ヴィンランド・サガ』

原作:幸村誠『ヴィンランド・サガ』(講談社「アフタヌーン」連載)
脚本・演出:西田大輔
企画・製作:舞台『ヴィンランド・サガ』2024製作委員会
主催:DisGOONie/講談社
出演:トルフィン/橋本祥平 クヌート/北村諒
トールズ/中村誠治郎 トルケル/林野健志 ビョルン/磯貝龍乎
フローキ/村田洋二郎 ユルヴァ/山崎紗彩 ※「海の果ての果て篇」のみ ラグナル/佐久間祐人
ヴィリバルド/林田航平 アスゲート/加藤靖久 アトリ/澤田拓郎
耳/本間健大 ハーフダン/書川勇輝
アシェラッド/萩野崇

※山崎紗彩の「崎」は「たつさき」が正式表記

公式サイト:https://disgoonie.jp/vinlandsaga
公式X(Twitter):https://twitter.com/disgoonie
権利表記:©幸村誠・講談社/舞台『ヴィンランド・サガ』2024製作委員会