島村龍乃介「坂道くんが見せてくれた、限界の先の景色を」|舞台『弱虫ペダル』小野田役:島村龍之介×今泉役:砂川脩弥×鳴子役:北乃颯希インタビュー

インタビュー

舞台『弱虫ペダル』Over the sweat and tearsが、8月31日(土)より東京・シアターHにて上演される。

原作「弱虫ペダル」(著者:渡辺航)は、『週刊少年チャンピオン』(秋田書店刊)にて連載中のロードレース漫画。孤独なアニメオタク少年の小野田坂道が、総北高校自転車競技部の仲間と共にインターハイを目指し、その中でライバル校である王者・箱根学園(ハコガク)や京都伏見高校らのメンバーと競いながら成長していく物語だ。

その原作「弱虫ペダル」を舞台化した、舞台『弱虫ペダル』シリーズ(通称「ペダステ」)は、脚本・演出を手掛ける西田シャトナー氏が生み出した表現技法"パズルライドシステム"と、1本のハンドルを用いた俳優によるマイムを掛け合わせ、舞台化不可能と言われていたロードレースを舞台上で見事に表現。演劇業界に新たな金字塔を打ち立てた。

2022年、10周年の節目に始動した「ペダステ」新シリーズは、今作、舞台『弱虫ペダル』Over the sweat and tearsにていよいよ最終公演を迎え、インターハイ最終日となる3日目の様子を描ききる。

メディアクトでは、約2年間にわたり総北高校1年生トリオを演じてきた島村龍乃介、砂川脩弥、北乃颯希にインタビュー。作品や役に込める思い、稽古場の様子、公演に向けての意気込みなどを聞いた。

小野田×今泉×鳴子「総北1年生トリオ」インタビュー

――今作「Over the sweat and tears」への出演が決まったときのご感想を教えてください。

島村龍乃介(小野田坂道役):素直に嬉しかったです。1日目・2日目と走ってきたインターハイ、3日目も小野田坂道として舞台に立たせていただけること、心から嬉しいです。キャストも第一弾の「The Cadence!」と同じメンバーで挑めることに感謝しかないですし、また走れることにワクワクしています。

砂川脩弥(今泉俊輔役):「The Cadence!」から始まった新シリーズも4作目。1つのシリーズにこれだけ長く出演させていただけるのは当たり前のことではないし、僕にとっては初めての経験となります。インターハイ3日目もこのメンバーでお届けできることがやっぱりすごく嬉しいし、「ペダステ」の最終公演と聞き、改めて「しっかりやらなきゃな」と身が引き締まる思いがしました。

北乃颯希(鳴子章吉役):僕は、シリーズが続いて自分がまた鳴子を演じられることの嬉しさと、最終公演と銘打たれていることに対する寂しさの両方を感じています。でも今は、「ペダステ」最後の鳴子章吉として舞台に立てる重みをきちんと背負い、ロードレースをしっかり楽しんで、お客様に熱い気持ちを届けたいです。

――ご自身が出演する前に、「ペダステ」と最初に出会ったときにはどんなことを感じましたか?

北乃:初めて観たときは「何だ、このすごい舞台は!」と思いました。「こんなの観たことない!」って。

砂川:最初は「役者さんがハンドルを持って走るんだな」と考えながら観ていたのに、いつのまにか引き込まれてしまい、本当に自転車に乗っている姿が見えてきて、表現力が物凄い作品だと感じました。

島村:僕は「The Cadence!」が初舞台・初主演だったこともあり、作品に対する感想以前に、不安な気持ちが強かったかもしれません。舞台未経験で主人公を演じさせていただく怖さもありましたし、レースのシーンでは体力的に大変なことも伝わってきました。当時は「本当に自分にできるのかな」と不安に思いながらのスタートだったのですが、脩弥くん、颯希くんをはじめ座組の皆さんが温かく支えてくださったおかげで、ここまで来ることができました。

――約2年にわたり総北1年生トリオを演じてこられた皆さんですが、「この3人で良かった」と思える、チームとしての強みはありますか?

北乃:強みかどうかは分からないんですが、「この3人の関係性って原作のまんまだな」という感覚は常々感じています。

砂川:ああ、そうだね。坂道くんがロード初心者の主人公で、りゅう(=島村)が初舞台・初主演で。

北乃:鳴子も僕も関西人で、脩弥くんはクールだし。

砂川:たしかに。僕はもともと自分から人に話しかけるタイプじゃないから、関係性としてはそのまんまかもしれないね。年齢的にも僕と颯希が同世代で、りゅうが少し離れた年下っていうところも、坂道くんのイメージに合っている気がします。実際のキャラクターたちは3人とも同い年だけど、関係性や雰囲気として、どこか近いものを感じますね。

北乃:総北は6人とも、キャラクター同士の関係性に似てるところがあるかもしれない。それをチームの強みとして考えたことはあんまりなかったけど、そうだなぁ……少なくとも稽古中に「ハコガクに負けた」と思ったことは、ただの一度もないですね!

一同:(笑)

島村:僕個人の感想にはなってしまうのですが、脩弥くんも颯希くんも、最初から同じ目線で話してくれたことがすごくありがたかったです。2人とも年の差を気にせず、稽古場に入った最初の段階から同じ役者としてフラットに接してくれるのが、すごく嬉しくて。まさに今泉くんや鳴子くんと接する坂道くんみたいで、「本当に話しやすい」っていつも思っていました。

――では、キャストとして改めて感じている「ペダステ」の魅力は何ですか?

北乃:一番はやっぱり、熱量の高さです。あとは、とにかく汗をかく作品でもあります(笑)。いろいろな意味で熱いですね。

砂川:演出の鯨井康介さんが稽古が始まる際に言ってらしたんですが、「この作品って本当にきついけど、きつくてたまらないからこそ、心からの言葉や声が出る」って。そのとおりだなって、しみじみ思いました。

北乃:うん、間違いない。セリフというより、身体の内側から言葉が湧き上がってきます。

島村:キャラクターの熱量を追体験できるんですよね。僕は原作の「弱虫ペダル」を読んでいると胸がワーッと熱くなるんですが、その熱さを演者としてここまでリアルに実感できるというのは、身体を使って実際に走る「ペダステ」ならではの魅力だろうなと思います。

――では、ご自身が演じるキャラクターの魅力は?

島村:坂道くんは本当にまっすぐで素直な性格で、やると決めたらやりきるところがすごくかっこいいなと思います。僕自身は坂道くんとはあまり似ていない性格なので、だからこそ憧れますね。それから、坂道くんは規格外の挑戦でもためらわずに即実行するし、どんどん限界突破していくところがやっぱりすごいです。

演じる僕も引っ張ってもらって、たびたび限界を超えてきたなぁと思います。坂道くんがいなければ、僕は100人抜きなんて「絶対無理だ!」って言って逃げてしまうと思うので(笑)。でも、そうして超えた先にある景色や達成感は、何ものにも代えがたいものでした。本当に演じがいのある人物だし、坂道くんには最初から今までずっと、背中を押してもらっています。

北乃:鳴子は、なんといっても派手好きなところがいいですね。僕自身も結構目立ちたがり屋なので、鳴子の派手好きなところに共感できるし、ド派手な言動が大好きです。あとは、苦しいときこそニヤッと笑ってみせるところ。あの粋な性格も、男前で本当にかっこいい! 舞台上ではそういう「鳴子らしさ」をとくに意識して表現できるように努めています。

砂川:今泉は、クールに見える反面、内側にずっと熱い炎を燃やし続けていて、それを一気に爆発させる瞬間があるのが好きです。そういうシーンは僕にとっても大きなやりがいになっています。それから今作に限って言うと、今泉の心が折れてしまったときにみんなが支えてくれる瞬間が描かれるんですが、そのシーンは演じていてすごく胸に沁みるものがあります。僕も今泉もみんなに支えられているんだなぁ、と感じられて好きなシーンです。

――ご自身の役について、演じながら新たに発見した部分や意外な魅力はありますか?

北乃:僕は最初、鳴子のことを「自分のことにまっすぐで、周りはあんまり気にしないタイプ」だと思っていたんですが、原作を読んだり舞台で演じたりするにつれ、その印象が変わりました。すごく仲間思いだし、じつはかなり視野が広い男なんだなと、今は思っています。

島村:坂道くんの場合、最初は「気弱な頑張り屋さん」のイメージが大きかったけれど、その裏側に秘められた「頼もしさ」の方をだんだんと実感するようになりました。総北メンバーが坂道くんの背中に元気づけられるシーン、すごく多いんです。とくに「THE DAY 2」で演じた、田所さん(田所迅/演:滝川広大)を引っ張ってチームに合流するシーンでは、坂道くんの頼もしさを強く感じました。そういう秘めた力強さは、坂道くん自身も気づいていない彼の大きな魅力だと思います。

砂川:今泉の意外な魅力はたくさんありますが、とくに今作のストーリーで感じるのは、「一見自分のためだけに動いているようで、じつは人のためにも戦える」という良さですね。ネタバレになってしまうので詳しくは言えないんですが、チームに自分の思いを託したり、逆にチームから思いを託されたり、という経験が今泉の中に積み重なっていく感じが、すごくいいなと思います。僕も演じていて「1人じゃないんだ、みんなで戦っているんだ」と感じられ、じーんとするシーンが多いです。

――今作の稽古場の雰囲気はいかがですか?

北乃:新キャストがとにかく面白いです! とくに熊沢学くん(井尾谷諒役)がムードメーカーで、初参加とは思えないくらい現場の空気を盛り上げてくれています。

島村:「初めまして」で稽古に入って、まだ何日もしないうちから盛り上げ役で、ベテランのような安定感がありますね。優作さん(川﨑優作/金城真護役)と同じレベルで雰囲気作りをしてくれているの、本当にすごいと思う。

北乃:優作くんも学くんも、そこにいるだけで自然と良い空気になるんですよ。あの魅力はちょっと真似できないですね。

――皆さんの様子から、楽しそうな雰囲気が伝わってきますね。

北乃:はい、めちゃくちゃいい雰囲気です!

――他に、稽古場での印象的なエピソードはありますか?

北乃:新キャストが入ると毎回、舞台上での自転車の漕ぎ方やポジションの移動の仕方を学ぶワークショップが開催されるんです。僕らは4作目なので、ワークショップも4回目なんですが、毎回新鮮にきつくて(笑)。3人で「なんでこんなに毎回きついの!」って泣きながら励まし合っています。

砂川:あのきつさはなんで変わらないんだろうね……。

北乃:もう全然変わりません。本当に一筋縄ではいかない作品です。

砂川:ただ不思議なもので、ワークショップだと息が上がってクタクタになってしまう動きでも、本番に入ると余裕で乗り切れることがあるんですよね。

――なるほど。とは言え、稽古動画を拝見すると、きつい稽古の中にも和気あいあいとした雰囲気が伝わってきます。その秘訣はどこにあるのでしょうか?

砂川:それはやっぱり、鯨井さんのおかげだと思います。

北乃:そうですね。我らの演出家・鯨井さんが、稽古場の士気をガンガン上げてくださるので、僕らもやっていて楽しいし「もっともっと頑張ろう!」と思えます。印象的なのが、鯨井さんって通し稽古が終わるたびに、毎回必ず「お前ら最高だ! ありがとう!」って言ってくれるんですよ。その言葉を聞くとすごく嬉しくなって、「ああ、この座組と出会えて良かったな」って思います。

――鯨井さんのお人柄が伝わってくるエピソードですね。

北乃:もしかしたら、鯨井さんご自身が「ペダステ」のキャストを経験しているからこそ、僕らの気持ちをより深く理解してくださっているのかもしれないですね。役者ファーストで稽古を進めたいという思いを、いつも感じています。

――そんな今作「Over the sweat and tears」ですが、演じる上で一番大切にしたいと思っていることは何ですか?

島村:「かっこつけないこと」です。坂道くんって絶対にかっこつけないキャラクターなので、ずっと演じていると反動でつい「かっこよさ」を出したくなってしまうときがあるんです(笑)。でもかっこつけてしまったら坂道くんの良さが失われてしまうので、そこはとくに気をつけながら稽古しています。あとは、僕自身が原作を読んで感じた思いを、お客様に届けるように、1つ1つのシーンやセリフを大切にして頑張りたいです。

北乃:僕が一番大事にしたいのは、鳴子として「チームのために」走ることです。自分が犠牲になったとしても「チームのために」と思う気持ち、「仲間を絶対に優勝に導く」という鳴子の熱い思いを大切に演じたいです。

砂川:僕は、「ペダステ」ならではの物凄い熱量を、100%、いや120%お届けするのが僕らの仕事だと思っています。悔いなく届けられるよう、めいっぱい熱く演じていきます。

――観客の方々にとくに注目してほしいポイントはありますか?

島村:インターハイ1日目、2日目、と走ってきて、3日目は序盤からテンションMAXの状態でスタートします。なので、最初から最後まで目を離さず、死ぬ気でゴールを目指して走る1人1人の姿を心に焼き付けてほしいです。

砂川:僕も、それぞれのキャラクターに注目してほしいですね。この作品はキャラクターひとりひとりがフォーカスされて描かれるので、観てくださる方も彼らに共感できる部分や「すごい」と感じられる部分がきっと見つかるはずです。だから全員に注目してほしいですし、今泉としても大切な見せ場があるので、ファンの方にしっかりお届けできるよう気合いを入れて務めます。

北乃:鳴子としてはやっぱり、鳴子劇場に注目してほしいです。あのシーンは僕も大好きですし、全力で総北を引っ張ります! それから、今まで3年生の背中を見て走ってきた1年生が、力を合わせて成長を見せる姿や、チーム総北全員が目指したゴールを切る瞬間を、お客様にも見守り噛み締めていただけたらと思います。

――ありがとうございます。最後に、今作への意気込みと、上演を楽しみにしている方々へのメッセージをお願いします。

北乃:僕らが出演するずっと前から「ペダステ」を応援してくださった方も、たくさんいらっしゃると思います。最終公演ということで、ファンの皆様もセンチメンタルな気持ちになられているかと思いますが、やっぱり「ペダステ」は、泥臭い高校生たちの"涙と汗の向こう側"の景色を見られる作品です。その景色を一緒に見ることができるラストチャンス、ぜひ劇場に足を運んで応援してください!

砂川:舞台『弱虫ペダル』を支え繋いできてくださった、先輩たちの思いも乗せて、締めくくりにふさわしい走りを見せたいと思っています。「ペダステ」に関わってきた全ての方々、応援してくださった全てのファンの方々の思いを全部背中に乗せて、この座組で最後のゴールを目指していくので、ぜひ劇場で見届けてください。よろしくお願いします!

島村:今作「Over the sweat and tears」は、締めくくりの作品であると同時に、進化した新たな「ペダステ」になっていることを稽古でひしひしと感じています。坂道たちにとってはインターハイ最終日、そして「ペダステ」にとっては集大成のゴールです。ずっと観てくださっている方にとっても、また初めて観る方にとっても、泣いて笑って楽しめる作品になっておりますので、ぜひ坂道くんと僕らのゴールを見届けにいらしてください!

舞台『弱虫ペダル』Over the sweat and tearsは、8月31日(土)~9月8日(日)まで東京・シアターHにて上演。9月8日を除く毎公演の終演後には、回替わりでスペシャルゲストが登壇する特別企画「ペダステボーナスステージ」も予定されている。

取材・文:豊島オリカ/写真:ケイヒカル

舞台『弱虫ペダル』Over the sweat and tears

◆公演日程:2024年8月31日(土)~9月8日(日)
◆劇場:シアターH https://theater-h.jp/

チケット一般発売 8/3(土)12:00~
ローソンチケット:http://l-tike.com/pedal-s/

出演
【総北高校】
小野田坂道 役:島村龍乃介
今泉俊輔 役:砂川脩弥
鳴子章吉 役:北乃颯希
巻島裕介 役:山本涼介
金城真護 役:川﨑優作
田所迅 役:滝川広大

【箱根学園】
福富寿一 役:髙﨑俊吾
荒北靖友 役:相澤莉多
東堂尽八 役:フクシノブキ
新開隼人 役:百成瑛、村上渉 ※全公演、2名で1役を演じます。
泉田塔一郎 役:青柳塁斗
真波山岳 役:中島拓人

【京都伏見高校】
石垣光太郎 役:鐘ヶ江洸
御堂筋翔 役:新井將

【広島呉南工業高校】
待宮栄吉 役:元木聖也
井尾谷諒 役:熊沢学

【パズルライダー】
パズルライダー監督:伊藤玄紀
パズルライダー:山口拳生 若林佑太/一瀬悠 河野智平

【舞台『弱虫ペダル』シリーズ最終公演記念特別企画「ペダステボーナスステージ」】
毎公演終演後、回替わりでスペシャルゲストが登壇予定。(※9月8日を除く)
※予告なく変更となる場合がございます。予めご了承ください。
※詳細は公式HPをご確認ください。

スタッフ
原作:渡辺航『弱虫ペダル』(秋田書店「週刊少年チャンピオン」連載)

脚本・レース演出メソッド創作/監修:西田シャトナー
演出:鯨井康介

音楽:manzo
劇中歌:舞台版『恋のヒメヒメ☆ぺったんこ』
作詞:渡辺航 作詞補佐・作曲・歌:桃井はるこ

レース演出協力:河原田巧也

◆公式HP:https://www.marv.jp/special/pedal/
◆公式X:https://x.com/y_pedalstage