【インタビュー】ミュージカル「NO.6」「僕たちがキャスティングされた意味、生身の人間が演じる意味」紫苑役の今牧輝琉、ネズミ役の古田一紀インタビュー

インタビュー

11月8日(金)、ミュージカル「NO.6」が東京・天王洲 銀河劇場で開幕する。本作は2003年から2011年にかけて発行された、あさのあつこによる人気ディストピア小説『NO.6』のミュージカル化作品。理想郷と呼ばれる『NO.6』に住むエリート少年・紫苑と、謎の少年・ネズミの出会いから始まるストーリーだ。

メディアクトでは、紫苑役の今牧輝琉とネズミ役の古田一紀に対談インタビューを実施。舞台では初共演となるお互いへの印象や、相手に聞いてみたいこと、ミュージカル『テニスの王子様』にて同じ越前リョーマ役を演じた2人だからこそ感じるお互いの共通点などについて話を聞いた。

――はじめに、本作へご出演のお話が来たときのお気持ちから教えてください。

今牧輝琉(紫苑役):お話をいただいたとき、あさのあつこさんが書かれた作品の舞台化と伺って「あっ、学校の図書室の『人気図書コーナー』でよくお名前を見た作家さんだ!」と思い出して。その人気作家さんの人気小説の、まさか主人公のお話をいただけるなんて! 僕でいいのかな? と思いましたし、人気作ということでプレッシャーと緊張感はありますが、この作品と役に向き合う覚悟は徐々に出来あがってきています。

古田一紀(ネズミ役):自分が本作に初めて触れたのは、学生時代のころに見たアニメでした。お話をいただいてから、アニメを見ていた当時の記憶を引っ張り出して、ビジュアル面から「紫苑役かな?」と思ったんです。でも、よくよくお話を聞いてみたらネズミ役だと。そこで改めて原作小説を読み込んでみたら「…なるほど、確かに自分にぴったりだ」と納得しました。

――相手役としてお互いのお名前を知ったとき、どのように思いましたか?

今牧:「うそでしょう!? え、一紀さん!? やったぁ!」でした!(笑) 一紀さんに初めてお会いしたのは、3年前の9月にあった映画の舞台挨拶のときでした。まさか舞台で共演できるなんて思いもしなかったので、びっくりです。

古田:俺は、「なるほど、そうきたか(笑)」と思いました。その役としてぴったりだということに加えて、“この2人”が相手役としてのキャスティングは話題を呼びますよね(笑)。でもそれは悪いことではなくて、「より多くの人に物語を届ける」という意味ですてきな選択だと感じています。原作をまだ知らなくても、つながりのあるこの2人が同じ舞台に立つのだったら観たい、と思ってくださる方もいらっしゃると思いますから。

つながりと言えば、例えばイヌカシ役の日暮誠志朗くんは、俺がゲームで声をあてた作品の舞台版で、俺と同じ役を演じてくれました。そういった、縁のある方たちが集まっている舞台なんだ、と自分の人生を振り返るような気持ちにもなっています。

――古田さんは久しぶりの舞台ご出演になりますね。本作への意気込みはいかがですか?

古田:ネズミは、その場に1番適した声色で喋る人物だと思うんです。だから、もし俺が声優の仕事をせずにずっと舞台で役者を続けていたとしたら、今作のお話をいただいても声の使い分けができなかったんじゃないかな、と。声優としての経験を積んできたからこそ、声の持つ音に対して神経を張り巡らせながら芝居ができます。今この役を演じられるのはとてもタイミングがいいと感じますし、「今求められている音は何だろう?」と考えながら、声でも説得力を持たせられるようにしていきたいです。

――声と言えば、紫苑も作中で数年の年齢を重ねます。今牧さんは、紫苑の年齢や考え方の変化を、声やお芝居でどのように表現していこうと考えていますか?

今牧:12歳と16歳の紫苑を演じるので、ちょうど思春期の移り変わりを表現することになるんですよね。僕は、地声が12歳の男の子を演じるのに向いているような声質なので(笑)、落ち着いた声や表情を意識しながらお芝居で表現していこうと思っています。

――原作の小説を読んでみていかがでしたか?

今牧:これまで、小説や漫画に多くは触れてこなかったんですよ。学校でも、学級文庫にある絵本を読んでいたくらいで(笑)。でも、やるとなったら本気で挑もう! と思って原作の小説を読み始めました。ありきたりな言葉になってしまうのですが、ページをめくるたびに先が気になって仕方がない! 今までは、セリフ以外の“地の文”に少し抵抗があったのに、「小説っておもしろい!」と初めて思えて。これをきっかけに、今後小説もたくさん読んでいきたい、と思えるようになりました。こんな体験をさせてもらえる小説の主役を演じられるのは、本当に貴重なことです。「No.6」の世界にどっぷり浸りたいですね!

古田:俺は逆に、小説がとても好きなんです。もちろん漫画もアニメも好きですが、小説は1番慣れ親しんでいる媒体と言ってもいいかもしれません。シーンとシーンの間にあるものを空想しながら、ネズミとしての感情を積み上げて役を作っていきたいです。

今牧:原作を読みこむほどに、一紀さんはネズミにぴったりだと思いました。僕の知らないことをたくさん知っているし、引っ張っていってくれる存在だとすでに感じていて。これから、いろいろな気になることが出てきたらどんどん聞いていきたいですし、ついていきたくなる人ですね。紫苑の考えを借りて言うなら「惹かれてしまう」感じです!

古田:紫苑はとてもセリフが多いし、演じる上で必死にならないとできない役なんじゃないかなと。輝琉くんはこの役に必死にくらいついていくんだろうなと思いますし、そういう点が紫苑にも合っていると感じています。

――次に、お互いについてお話をうかがっていきます。おふたりは、ミュージカル『テニスの王子様』で同じ越前リョーマ役を演じられています。同じ役を経験しているということは、さまざまな面で“同じ要素”があるのではと感じているのですが、お互いを見て「自分と似ている」と思う部分はありますか?

今牧:“自信”を持っていることかなぁ…。でも、僕は自信があってもそれを外に出して伝えるのは上手ではありません。それに対して一紀さんは、初めてお会いしたときも本作のビジュアル撮影のときも、自信に満ち溢れていてとにかくかっこいいです。尊敬しています。

古田:似ている点か…。ハートの強さですね。「自分がこの座組の中で1番頑張る!」という強い意志と気持ちを持っていること。

――作中、紫苑はネズミのことを何でも知りたがるようになりますが、お互いに今聞いてみたい“知りたい!”ということはありますか?

今牧:一紀さんは今、声優のお仕事を多くされていますよね。もともと声優に興味があったのか、それから、どうやって舞台の世界に興味を持ったのか知りたいです!

古田:最初から声優の仕事を考えていたわけではなくて、この世界に興味を持ったのは舞台から。初めて舞台を観たのが中学生のころで、当時好きだったハロプロの舞台「ゲキハロ」だったんですよ。それがものすごい熱量で。俺もこういうふうになりたい!! と思って、しばらくはストレートプレイの舞台作品に出演していました。この感じでずっとやっていくのかなと思っていたところ、学校の授業で石丸幹二さんがトート役で出演されていた「エリザベート」を観る機会があって「ミュージカル、すごい!」と衝撃を受けたんです。それからは目指す道はミュージカル。2015年には『テニミュ』に出演できることになりました。

今牧:行動力がすごい! 声優にはどうして?

古田:2017年に出演した『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』(ライナス役)で、声優の高垣彩陽さんのお芝居に衝撃を受けて、また「こういうふうになりたい!」(笑)。振り返ってみると、俺はいつも誰かに影響を受けて道を志して、それを全部かなえてきたんだなぁって。確固たる“自分”というものが無いのかな? と考えることもあるけれど、そうやって道を志せるくらいに憧れる方と出会えているのはありがたいことです。逆に輝琉くんは、どうやって舞台の世界に入ったの?

今牧:僕は3歳からダンスを習っていて、小学校6年生の時に、親が劇団四季のライオンキングのオーディションに申し込んでいたんですよ。残念ながら惜しいところで落ちてしまったんですけれども、逆にそれでスイッチが入ってミュージカルのスクールに入りました。

古田:3歳から? それはすごいなぁ。俺は芸ごとには全然触れてこなかったんだよね。ダンスを本格的に始めたのも高校生の終わりごろからだし。ひとつのことを長く続けている人は本当にすごいと思う。短期間で何かを身につけられる人ももちろんすごいけれども、俺はやっぱり、長く努力を積み重ねている人を尊いと思うし好きだな。俺から輝琉くんに聞いてみたいのは…怒ることってあるの? 全然怒らなさそうで。

今牧:いや、怒らないですね! 自分の中にちょっと怒りの感情がわいてきてしまっても、それを外に出したり人にぶつけたりはできなくて…。例えばアニメを見ていて、主人公が悪役にひどいことをされている時は主人公をかわいそうだと思う。でも逆に、その悪役が主人公にやられてしまっているのを見ても「やった!」とは思えない。悪役に感情移入しちゃうんですよ。自分に対して怒ることはあるけれども、負の感情を外に出せないタイプです。

古田:例えば『テニミュ』だと、あれだけの大勢の人たちを強い力で引っ張っていかないといけないときも、どうしてもあるじゃない。そういう時はどうしてたの?

今牧:さっき一紀さんが言ってくれていた「自分が1番頑張る」をやっていました。少し気持ちが下向きになってきてしまっている人がいたとしても、僕が誰よりも1番頑張っていればその姿を見てくれるだろうと思って。そうやって今までやってきたのですが、これが絶対に正しいかは分かりません。でもいつかは、ちょっと強い言葉で引っ張ってみたくもあります!(笑)

――次に、本作のキーワードにまつわることをお1人に1つずつお聞きしていきます。まず「破壊と再生」について。今牧さんは最近“破壊と再生”を実感した経験はありますか?

今牧:今までの自分を壊して、新しい自分になったな…と最近よく考えています。去年から、自分を変えたいと思って自己啓発の本を読み始めたんですよ。人と意見が違っても、その人を否定せずにいたい。自分の意見を押し付けたくない、そう思って。読み終わった瞬間に本に書かれていることを実行するタイプなので、友達からは「前よりももっと優しくなったね」とか「神様みたいになった(笑)」って言われたりもしました(笑)。

読み始めるにあたっては「カフェで本を読むのってかっこいいな!」という気持ちもちょっとあったのですが(笑)、本を読み始めて、そして実践してよかったなと思っています。

――「再会」については古田さんにお聞きします。これまでで印象に残る“再会”エピソードがあれば教えてください。

古田:俺をミュージカルの世界にいざなってくれた、石丸幹二さんとの再会ですね。とは言っても、石丸さんからすれば再会ではないのですが(笑)。『きみはいい人、チャーリー・ブラウン』に出演したのをきっかけに、その作品のチームでシアタークリエ10周年記念コンサート「TENTH」(2018年)に出演することになったんです。舞台上で石丸さんと直接の絡みはなかったのですが、終演後にご挨拶をさせていただいて。「石丸さんのお芝居を見てミュージカルに出たいと思いました」とお伝えしたら、ものすごく喜んでくださったんですよ。俺がミュージカルという道を志すきっかけになった方との、忘れられない再会です。

先ほど言ったことと重なってしまいますが、俺はいろいろな方に影響を受けてこれまでさまざまな新しい場所に飛び込んできました。実は、次にやりたいこともあるんですけれども…今はまだ内緒です(笑)。

――古田さんの目指す新しい道、気になりますね! では最後に、本作を楽しみにしているファンの皆さんへメッセージをお願いします。

古田:今、俺のファンでいてくれる方たちは、舞台を観て好きになってくださった方が多いと思います。でも俺は、いったん“舞台の世界”から少し距離を置いてしまいました。それでも俺を好きで、ファンでい続けてくれている人たちが見たいであろう古田一紀を、本作ではお見せしたいと強く思っています。

声優をやりながら、ダンスのレッスンに通い、格闘技もやり、アクロバットの練習もずっと積み上げてきました。それらは声優の仕事には直接使うことはない…とは思っても、俺がやりたかったから続けてきたんです。その頑張ってきたことを、やっとすべてお見せできる作品です。努力してきた意味があったと今強く感じていますし、それらを全部この作品のために使いたいと思っています。ぜひ楽しみにしていてください!

今牧:大人気小説ということで、国内はもちろん、海外の方からもSNSで大きな反響をいただいています。最近発行されたわけではない、少し前の小説ですが、それが2024年の今上演される意味、僕たちがキャスティングされた意味、生身の人間が演じる意味…さまざまな意味をしっかりと考えて、稽古に臨んでいきます。紫苑の1番の理解者になるつもりで、必死に向き合っていきます。劇場でお待ちしています!

取材・文:広瀬有希/写真:ケイヒカル

ミュージカル「NO.6」

原作:あさのあつこ「NO.6」(講談社)
脚本・演出・音楽:浅井さやか(One on One)
ステージング・振付:當間里美

期間:
【東京】 2024年11月8日(金)~11月17日(日)
【大阪】 2024年11月22日(金)~11月24日(日)

チケット:
9,800円(全席指定/税込)
サイドシート:9,800円(全席指定/税込)
ローソンチケット https://l-tike.com/play/mevent/?mid=730010
銀河劇場チケットセンター https://www.gingeki.jp/

キャスト:
紫苑   今牧輝琉
ネズミ  古田一紀

沙布   熊谷彩春
イヌカシ 日暮誠志朗
楊眠   泰江和明
白衣の男 藤原祐規

<アンサンブル>
元榮菜摘 山﨑感音/池田航汰 石野滉貴 田代 明 松島朱里 村田一紗 山川大智

火藍   入絵加奈子
力河   吉野圭吾

協賛:ローソンチケット

美術:久保田悠人
照明:大波多秀起
音響:門田圭介(K2sound)
映像:O-beron inc.
衣裳:ヨシダミホ
ヘアメイク:瀬戸口清香
歌唱指導:カサノボー晃
アクション指導:六本木康弘(ジャパンアクションエンタープライズ)
舞台監督:久保健一郎
技術監督:堀 吉行
編曲:関向弥生
演出助手:長谷川 景
制作協力:アンデム
票券:Mitt
宣伝美術:江口伸二郎/奈良友里花
宣伝写真:川面健吾

主催:ミュージカルNO.6製作委員会(ネルケプランニング・講談社・アイア)