【インタビュー】俳優・島田惇平の人生を原作としたノンフィクションの総合芸術LIVEパフォーマンス『森を、歩く』インタビュー
島田惇平新作公演『森を、歩く』が一回限りの作品として2024年12月15日(日)に東京・NOS Bar&Dining 恵比寿で上演される。本作は、舞台を主軸にパフォーマンスやダンスなど様々な活動を行って来た俳優・島田惇平の人生を原作としたノンフィクションの総合芸術LIVEパフォーマンスである。
メディアクトでは、島田惇平、岡山健二、YOUNG DAISに鼎談取材を実施。作品に賭ける思いや互いの印象などをたっぷりと語ってもらった。
――本作を上演することになった経緯を教えてください。
島田:23歳で役者を始めた時に、35歳までが土台作りと決めていました。今年その35歳を迎えました。今ようやくスタートラインに立って、「よーいドン」という気持ちでいます。
今回は一回限りの作品。舞台はとても刹那的なもの、瞬間的なものであるという点が惹かれるところではありますが、何か形に残るものとして残したいという目論見が生まれました。
――どのような形で残るのでしょうか。
島田:今作は、床に敷いた5mくらいのキャンバスの上で物語が展開します。物語が進むにつれてキャンバスには画材によって足跡などさまざまな軌跡が残されていきます。終演する時にはこのキャンバスに「人生」という作品が出来上がっている、という狙いがサブテキストとしてあります。僕自身もどういったものが描かれるのか、どのようにして具体化していくのかは終わってみて初めてわかるかと思います。
――本作の見どころを教えてください。
島田:この作品は、島田惇平という男が35年生きて来た人生が原作です。当然僕を知らない方もお客様にはいらっしゃいます。でも、生身の人間が目の前で文字通り裸一貫生きている姿というか、いろいろなものを削って燃えさかるエネルギーを浴びていただけたらなと。“人間の生命力”を感じて頂ける作品だと思うので楽しんでいただけたらと思います。
僕のことを知っている人にも知らない人にも、特別な時間になるのではと考えています。
――今作はお芝居はもちろん、音楽や芸術なども取り入れられていますが、作品としてはどういったジャンルになるのでしょうか。
島田:人間って、一言では表せないじゃないですか。単純なところもあればすごくごちゃごちゃしているしカオス的に理解できないところもあるし。でもだから人は必死に自分や相手を理解しようとするし或いは突き放そうとする。今回の作品もそれと同じです。メインとしてストーリーの様な軸はありつつも芝居や音楽、歌、踊り、ペイント、様々な表現方法を駆使して展開していく。ストーリーや表現としてわりやすくこういうことですよ、と全てを提示するつもりは無いので、ある種優しくはないかもしれませんが「え、さっきまでのあれは何だったの?」「今これ何が起きてるの?」「あ、さっきのあれはこういうことか!」とお客様は刹那的に思考していく事になるかと思いますし、そうなることを願っています。優しかったり優しくなかったり、だから作品のジャンルとしては『人間』かな。
――俳優をはじめ、ミュージシャンやラッパーなど、ジャンルに捕らわれない才能を持った出演者が印象的です。このメンバーは、どうして集まったのでしょうか。
島田:純粋に、僕が好きな人を集めました。「このジャンルの人を集めよう」という意識はなく、「この人にいて欲しい」という気持ちから声を掛けたメンバーです。僕の人生に影響を与えてくれた人、尊敬している人、信頼できる大事でかけがえのない存在を集めた結果、今のメンバーになりました。
たとえばDAISさんはラップがして欲しいからではなくて、DAISさんという存在にいて欲しい。あ、DAISさんにはラップという武器もあるな。岡ちゃんは役者には絶対に出せない確固たる岡山健二としての存在感と温かくて、でも何か得体のしれないものを孕んでいる佇まいがある。あそっか、岡ちゃんはドラムも武器だな。という感じでやりたいことのためにではなく、その人自身にいて欲しいからいて頂いてます。
――出演が決まった際のお気持ちなどをお聞かせください。
岡山:1年前に同じ舞台に出演しましたが、その時から「また何かやるんじゃないかな」という予感がありました。なので連絡をもらった時は「やっぱりそうなるんだな」と感じましたね。
JP(島田惇平)は、当時からとても印象深い人だったんですよ。僕は東京で随分と長く生活を続けていますが、JPは都会に住みつつも自然の空気みたいなものを纏っている珍しい人だな、と感じたんです。
舞台で一緒になった時に、JPは演技も身体表現もそれぞれの演者のウォーミングアップなども担っていました。体の動かし方のレクチャーもしていたので、僕もその時に素足でいることの大切さなどを教わりました。その考えが当時から息づいているんです。JPといると、取り繕うことなく普通の自分でいられるんですよ。こんな存在は稀にしかいない。声を掛けてくれた時はやるしかない、って思いました。
YOUNG DAIS:明確に、どのタイミングでオファーがきたかは定かじゃないんです。実はずっと一緒にいた時期があったんですが、その中のどこかのタイミングで「僕、今年で35周年なんです。節目となるこの年に、何かをやろうと思っている。DAISさん一緒にやろうよ」って言われていました。明確に何をするかは話してはいなかったのですが、今はその約束を果たしにきているという感覚です。
島田惇平の今までとこれからの境目を1回だけ共有できる、今までの自分を曝け出して次に向かう決意を表明する日だと思います。その瞬間に立ち会えることは友として光栄だな、と思いましたし、「俺が側にいた方がいいだろ!」と思いましたね。
――おふたりから見た島田さんは、どんな方でしょうか。印象深いエピソードなどはありますか。
岡山:先程もお話しましたが、僕は素足でいることの大切さを教えてもらったエピソードですね。やっぱり。
――素足でいる、とは?
島田:靴を履いていると安心するし安定するけど、素足でいることによってより大地を意識することができるんです。指も足の裏も踵も全部大地を意識すると、下から伝わってきたものが体全身のエネルギーになります。山や川で育ったからというのもあるかもしれませんが、僕は踏み締めるという行為を意識することが大事だとずっと思っていました。ある種それは自分自身の不安定さを理解するというか。それが身体の強さの源にもなっているし、足からダイレクトに情報を感じることが今の自分の「位置」を理解する上で大事なんです。
普段から稽古場でも裸足でいるので、いろんな大人に怒られます(笑)。その場では「すみません!」って履いて、またすぐ脱いでます。
岡山:自分も感覚として同じものを抱いていて、それをわかりあえた人はJPくらいだったんですよ。だから「たいした人がいるなあ」、というのが印象ですね。
YOUNG DAIS:比喩も形容するのも難しい人ですね。自然、野生児…。僕は北海道から出てきて仕事をさせてもらうんですけど、波長やリズムが心地よかったのがJPです。気が付いたら、一緒にいる時間が自然と増えていました。尊敬している部分もたくさんあるからこそ、本来であれば節度を保ってなかなか飛び越えられないようなところで付き合える人です。そうさせる自然な佇まいというか、彼そのものが自然だと思わされるところが大きな要因なのかなと感じています。
――今作を作るにあたって、意識しているところを教えてください。
島田:今作は僕が演出家という立ち位置にはなりますが、僕が用意するものはただの地図であって、それを基に皆さんの意思でクリエイションをしてもらってます。僕の人生を作品にしていると言いつつも、一人の人生なんてたかが知れていますし、一人の頭の中なんてすごく狭いですよね。今回、僕以外に集まった4名には僕のためにいろいろやる必要はないと伝えています。
DAISさんはある種の『表と裏』として、島田惇平を演じてもらう立ち位置にいますが「僕を演じる必要はなく、DAISさんでいて欲しい」と話しました。今作品はその人がその人である程、作品強度が増すと。既に当初の僕の想像から離れた場所まで作品がきています。セッションを大切にして、山を登っては降りてを繰り返しながら、筋肉の超回復の仕組みのように破壊と休憩と創造を繰り返し、更に高いところに登っていきたいですね。
――35歳が節目とのことですが、今後の展望などがありましたらお聞かせください。
島田:あるようでないですね。ただこの瞬間を精一杯に生きるということしかできないですね、今はまだ。60歳、70歳になった時にこういう死に方をしたいという未来は見えてくるかもしれないですけど、35年間そうだったように、ただただ必死にこの瞬間を走っていきたいと思っています。今は。
――本作への意気込みや、観客の皆さまへメッセージをお願いします。
岡山:ちゃんとやる、のみです。この場合の『ちゃんと』というのは真面目という意味ではなく、素の自分でいる、自分の世界に入り込みながら周りを見るという意味ですね
35年生きていると、誰しもいい時も悪い時もあると思います。シビアな問題も扱っていますので、35歳以下の方々にとっては生きるヒントになるかと思いますし、35歳を過ぎた方々にとっては、自分を振り返るものになるのではないかと思います。とはいえ人生におけるヒントだけを求める作品というわけでもありませんので、芸術表現も楽しんでいただければと思います。
DAIS:1回しかないという公演、すごくわくわくしています。そのための作業や準備を共有する時間をとても特別に感じるのか、それとも時が流れるがままに過ごすのか、さまざまな考え方があるかと思います。彼が自分の中でこの作品を節目だというのなら、それは絶対に特別な瞬間ですので、そこに立ち会えることが楽しみです。
今作は島田惇平の35年の軌跡を見に来ているだけではなく、島田惇平というフィルターを通して人生における問題提起もたくさんあります。観劇をした後には皆さんが物思いにふけって答え合わせをする時間があったら、彼が35年生きた意義にもなるかと思います。メッセージや疑問、確証を皆さんなりに感じ取って、楽しんでいただければと思います。
島田:実は、『森を、歩く』のベースは5-6年前に出来ていました。
2017年に右足のアキレス腱を断裂したことがきっかけで、当時決まっていたお仕事を何本も飛ばしてしまったんです。それに加えて生きることへのエネルギーが失われてしまった時期がありました。文字通り「歩けなく」なってしまったんです。でも人間というのは諦めが悪いもので、そんな中でも何かにしがみつきたくてもがいて気づけば必死に文章を書いていました。そういった状況下で、この作品が完成していました。そしてそれを上演することを死なない理由、生きる理由にしてようやくまた歩き始めたんです。当時はいろいろな事情があって公開は断念したんですが、今回遂に上演に至りました。
高尚なものをやっているつもりもまったくないですし、どうだこれがアートだぞなんていうつもりも全くありません。恐らく普通は他人には曝け出せない恥ずかしい事や嫌な事といった人間の素の部分を大いに出していますので、僕を皆さんの人生の材料にしてもらえたらなと。僕を見ているはずがお客様自身の写し鏡を見ているような、気が付いたら自分の未来や過去、現在のことを考えてしまっているような、そんな空間になれば嬉しいです。ふとした瞬間にこの時間を思い出して「あんなやついたなー」って、皆さんの人生に寄り添うような作品になればと思っています。
取材・文:水川ひかる/写真:ケイヒカル
公演情報
◆タイトル
『森を、歩く』
◆公演日程
12月15日(日)11:00開場/11:30開演
◆上演時間
約1時間半予定(作品の形式上前後する可能性あり)
◆出演
島田惇平/椎名琴音/市野美空/岡山健二/YOUNG DAIS
◆撮影
縣健司
◆チケット(https://peatix.com/event/4154807)
全席種ワンドリンク付き
S 席:8000 円
A 席:7000 円
スタンディング:6000円