【インタビュー】橋本真一✕前川優希「未知の角度から心に触れる」オムニバス。『末原拓馬奇譚庫』インタビュー

舞台『末原拓馬奇譚庫』が、1月22日(水)よりMixalive TOKYO B2F Hall Mixaにて上演される。
本作は劇団おぼんろ主宰の俳優・脚本家・演出家、末原拓馬の新作舞台。橋本真一演じる不思議な訪問者が奇譚庫を訪れるところから始まるオムニバス形式の公演で、おぼんろでの作風とは一風変わった末原拓馬の世界観を存分に楽しめる作品となっている。
キャストには、人気と実力を兼ね備えた橋本真一や前川優希に加え、深いキャラクター解釈で多面的な演技を披露してきた三上俊、劇団おぼんろで長年創作を支え、深い信頼関係を築いている藤井としもり、そして末原拓馬が出演。末原自身が選んだ感性豊かな実力派俳優たちを迎え、観客の記憶に深く残る物語体験を提供する。


メディアクトでは本作に出演する橋本真一、前川優希に対談インタビューを実施。作品に込める思いや公演に向けての意気込みなどを聞いた。
――まず、本作へのご出演が決まったときのご感想や印象について教えてください。
橋本真一:僕は、脚本・演出の末原拓馬さんとお仕事でもプライベートでも交流があり、「また、何か一緒にやりたいね」というお話をしていたんです。なので、今回正式にお話をいただいたときには「ついに実現できるんだ!」とワクワクしましたし、いただいた台本も「こういう形になったんだな」と噛みしめるような気持ちで読み込んでいきました。大好きな前ちゃん(前川)も一緒に出ると聞いて、それも嬉しかったですね。
前川優希:ありがとう、こちらこそだよ。僕は知人を介して出演のオファーをいただいたんですが、そのときの拓馬さんの誠実さが印象的でした。拓馬さんは、「ぜひ一緒に作品をやりたいのだけど、初対面の相手にいきなりそんなことを言われてもびっくりしてしまうと思うので、まずは僕のことを話させてほしい」と言って、ご自身が取り組んできたお芝居のことや、これから挑戦してみたい作品のこと、お芝居に対する思い……といったことを丁寧に話してくださったんです。お話を聞いているうちに僕自身すっかり魅了されてしまって、「この人と一緒に作品づくりをしてみたいな」と思ったところに、「ちなみに橋本真一くんも出ます」と言われて、もう前のめりで「やりたいです!」と(笑)。
ただ、稽古の時期に僕自身のスケジュールが立て込んでしまっていたため、「カンパニーにご迷惑をおかけしてしまうのではないか」という不安もありました。それを正直に伝えたところ、「今回は短編オムニバスなので稽古の調整もしやすいし、とにかく真一くんや優希くんと一緒に芝居が作れたら嬉しい」と言ってくださって。そこまでの言葉をかけてくださるのであれば、その熱量にお応えしたいし、繋がったご縁を大切にしたいと思い、出演を決めました。
橋本:じつはね。僕は拓馬さんと「いいものを一緒に作れる仲間が見つかったら教え合おうね」という話をよくするんだけど、その際に前ちゃんのことを何度も話題に出していたんですよね。
前川:そうなんだ!?
橋本:もちろん、僕が言わなくても拓馬さんは拓馬さんで、前ちゃんという存在を見つけ出していたんじゃないかと思うんです。でも、「前川くんっていう人がいて、すごく素敵な役者さんなんですよ」っていう話を普段からしていたので、今回、拓馬さんの作品で共演できると聞いて本当に嬉しかったです。
前ちゃんとは約2年のお付き合いになりますが、舞台作品での共演回数は意外と少なくて。今回が2度目なんですよね。
前川:前回ご一緒した作品では、師弟関係にある役柄を演じていたこともあり、お芝居に対する話し合いを重ねるうちに仲良くなりました。その後も真ちゃんが配信に呼んでくれたりして、個人的に接する機会はたくさんあったんです。でも、お仕事では2回目だね。
橋本:2回だけって感じは全然しないよね。前ちゃんとはすごく波長が合うというか、お芝居を通してのコミュニケーションがとても心地よく感じるんですよ。お互いに信頼できるし、良い意味で影響し合いながらお芝居をできる感覚があって。前ちゃんと作るお芝居は、すごく楽しいんですよね。


――確かに、今お話を伺っているだけでも温かい関係性が伝わってきます。
橋本:お互いに「先輩っぽさ」や「後輩っぽさ」を意識しないでいられるところが良いのかも。年齢的には僕の方が年上ですが、完全に僕が前ちゃんに甘えています。
前川:逆に、真ちゃんが上手に甘えてくれるから、自然と良い関係が築けたんだと思います。先輩・後輩の関係性って無数にあって、兄のように慕うことができる先輩も素敵だけれど、真ちゃんはまた別のベクトルなんですよね。友達とも違うし、なんて呼んだらいいんだろうなぁ。
真ちゃんのことは、お会いする前に色々な方から「すごくいいヤツだよ」というお話ばかり聞いていたんです。で、初めてご挨拶したときに「おお、なるほど」と思うお人柄だったんですよね。親しみやすさというか、甘えてもらえるとむしろ嬉しくなってしまうチャーミングさがあって。僕が何かするたびに「あっ、前ちゃん◯◯やるんだね。がんばってね!」って応援してくれるし。「あれ、真ちゃんってオレの彼女だったかな……?」って錯覚してしまうような(笑)。
橋本:(爆笑)。
前川:相手が持っている心の鎧というか、色々なものをほどくのが上手な人なんだと思います。愛嬌もあるし、根っからの素直さが滲み出ているから、「この人の前で、気張ったり取り繕ったりしてもしょうがないな」と肩の力を抜かせてくれる人なんです。
橋本:そんなふうに言ってもらえて、嬉しいです。


――そんなお二方が共演される、今作『末原拓馬奇譚庫』ですが、どのような作品なのでしょうか?
橋本:たくさんの短い物語がオムニバス形式で登場する作品で、全体を貫く縦軸として、奇譚庫を訪れる「庫訪者」といった役柄が出てきます。
台本を読んで強く感じたのは、「今までにない作品だな」という驚きでした。演劇作品はエンタメでもあるので、より多くの方に共感してもらえるように、メッセージ性を織り込んだりストーリー展開に工夫を凝らしたりするのが一般的だと思います。これはあくまでも僕の印象ですが、拓馬さんがこれまで作り上げてきた作品も、拓馬さんの中から生まれてくるたくさんの物語の中から、メッセージ性やストーリーを精査・ピックアップして、「どうしたらより多くの人に伝わるか、共感してもらえるか」といったことを意識しながら練り上げてこられたものだと思うんです。
でも今作の『末原拓馬奇譚庫』に登場する物語たちは、そうした加工がされていない状態というか。拓馬さんの心からぽん、ぽん、ぽん、と生まれてきたばかりの、ありのままの姿の子どもたちのような物語、という印象を受けました。
前川:わかります。
橋本:そういった物語は、なかなか世の中に出るものとしては選ばれない。だからこそ今回、そんな物語たちに愛情を注ぐことに意味があるのかなと。ありのままの物語たちをお客様のもとへ届けるため、どう色づけたら良いかを考え、その物語たちが生まれた意味を証明していく……というのが、今回の僕らキャストの使命なのかなと思います。
前川:拓馬さんの他の作品を拝見すると、背景に圧倒的な感性を感じさせつつも、観客にきちんと伝わるように整えられているところが魅力的だと思うんです。でもこの作品に関しては、あえて整えないことで何かを伝えようとしている印象を受けます。
たとえば、お店でカステラを売るときには、端っこを切り落とすことで見た目や味わいを整えるじゃないですか。でも、じつは端っこって美味しかったりしますよね。整えられたカステラもいいけど、あえて手を加えない状態でしか味わえない良さもある。今回の『末原拓馬奇譚庫』は、「整える」工程をまるごと省いて、あえてそのままお出しする物語なんだと思います。
まだ形にすらなっていない、概念のような、ぼやぼやとしたもの。ランプも光源もなく、物理法則を無視して漂っている光のような、輪郭のない物語。そうしたものって、この三次元を生きている僕らには触れられないのが普通です。でも、輪郭のないそれに輪郭を与えて、1つの物語として「伝える」ことが、今作で役者が果たすべき役割なんだろうと思っています。


――なるほど。お芝居へのアプローチもかなり独特なものになりそうですが、稽古場の雰囲気はいかがですか?
橋本:稽古場はとても良い雰囲気です。拓馬さんの演出はいつもユニークなんですが、そこがまた素敵ですね。
前川:拓馬さんって、演出をつける際にキャストと一緒に動きながら作り上げていくんですよね。そういったスタイルの演出家さんは初めてで、びっくりしました。とにかく足を動かす方というか、椅子に座っている時間がとても少ない。全体を俯瞰するだけでなく、キャストと一緒に立って動いて、色々な角度から作品を確認しつつ作り上げていくんだなと。今回僕は初めてご一緒するので、新鮮なことがいっぱいあります。
橋本:拓馬さんご自身が出演者であることも関係しているかと思いますが、もともとご本人がそういう演出スタイルなんですよね。今回はとくに、動きながら一緒に作るというフォーカスの仕方が強いように思います。
そんなふうに多角的な視点や感覚を持っているところは、僕にとってすごく魅力的だし、不思議な方だなと思います。物語を生み出す瞬間は「感覚派」というか、研ぎ澄まされた感性を発揮する天才肌の印象が強いんですが、演出の付け方は非常にロジカルだったりもする、本当に多面的な魅力を持つ方なんですよ。その拓馬さんの醸し出す空気が、稽古場にも浸透しています。演出家の目線と、プレイヤーの目線と、感性とロジックと、色々な色が混ざり合っていてとても刺激的です。
前川:僕自身、一昨年から昨年にかけて2作品の舞台の脚本・演出・プロデュースを担当させていただいたんですが、そのときには自分の中で「理想の演出家」像を描いて、それを体現しようと努めていました。俳優側の気持ちが分かるからこそ、「演出家にはこうあってほしい」「こんなふうにコミュニケーションをとれたらいいな」というキャストの気持ちに応えようと頑張っていたんですよね。
でも拓馬さんを見ていると、「もっとこういう姿でいれば良かった!」と思う瞬間があります。もちろん、真似をしようとしても難しいと思うんですよ。でも思わずそう感じてしまうくらい、魅力のある方なんです。
なんというか、拓馬さんのカリスマの由来って「感性」や「ロジカルさ」とともに、絶妙な「隙」にもあるんじゃないかと思っていて。

――「隙」ですか?
前川:そう、すごく素敵な「隙」……言い換えると、「可愛らしさ」があるんですよ。そこに心をギュッと掴まれてしまう。拓馬さんの演出を見ていると、「自分はなぜあんなに気を張っていたんだろう?」「仲間と一緒になって夢中で作品づくりができる、こんなに楽しいことは無いじゃないか」って、ひしひしと感じます。
今作では、そんなカンパニーの一員として「良い仲間」でありたいなと思って。演出家さんにとっての「理想の俳優」ではなくて、末原拓馬さんという人間にとっての「こんな仲間であってほしい」という期待を裏切らないような作品づくりがしたいです。


――なるほど。そんな末原さん渾身の書き下ろしである今作、観客にとくに注目してほしいポイントはどこですか?
橋本:やはり、オムニバスならではの良さや楽しさを味わっていただけたらいいなと思っています。やはり普段演じている長いストーリーとはお芝居の作り方が違うというか、ゴールに向かっての道のりや歩き方が異なるので、普段とは違う技術を使って表現していくことになりそうです。普段のお芝居が1つの大きな山を登る行為だとしたら、今作はいくつもある山や谷を1つ1つ超えていくような感覚でしょうか。普段と違うアプローチが求められるので、難しい部分や大変さもありますが、その分たくさんの刺激を詰め込んだジェットコースターのような楽しさをお届けできそうです。
普段僕らが思い描く「演劇」の枠からはみ出るような作品ですので、衝撃も味わっていただけるかと思います。末原拓馬作品に初めて触れる方には、独特の世界観を堪能していただけますし、「おぼんろや末原さんが大好きだよ」という方にも、これまでに無い作品をお見せできるという手応えがありますので、色々な方にそれぞれの視点から楽しんでいただけると嬉しいです。

前川:本当に、役者それぞれが今まで見せたことのない表情や表現に日々挑戦しています。僕自身もオムニバス、ましてや奇譚ファンタジーのような作品はあまり経験がないので、1つ1つの表現を手探りで掴んでいっているところです。他の作品で僕を見たことのある方や、普段から応援してくださっている方にも、今まで見せたことのない表現をお届けできると思います。楽しみにしていてほしいです!
今作の台本を読んでいると、拓馬さん御本人を前にしたときとよく似た感覚になります。この剥き出しの物語たちは、寓話のようでもあり、「鏡」のようでもある。その鏡には、末原拓馬という人間の感性がアウトプットされているけれど、演じ手である僕らや、観てくださる方一人ひとりの内面も映り込んで反映されると思います。
1つ1つの物語に対して、「美しい」と思うかもしれないし、「気味が悪い」と感じるかもしれない。拓馬さん色に染め上げられた鏡が、自分の心をどんな色合いで映し出すのかを堪能してほしいし、僕自身も早く形にしてお届けしたい気持ちで、今はいっぱいです。

――ありがとうございます。最後に、今作を楽しみにしている方々へのメッセージをお願いします。
前川:役者をやっていて夢中になれる瞬間というのは、やはり「剥き出しの何か」に触れたときです。剥き出しの感情や、剥き出しのやりとり、剥き出しの表現、物語……。今作では、観てくださるあなたにもぜひ、この剥き出しの世界に一緒に没入していただけたらと思います。
ある意味、「お客様」のままでいるのはもったいない作品です。観るという感覚を超えて、消えゆく物語に触れる一人の人間として、感性の海にザブザブに浸かっていただきたい。鏡のような物語たちに触れ、自分だけの感想を見つけに、ぜひ劇場にお越しください。
橋本:世の中には数え切れないくらいの演劇作品があり、それぞれが観る方の心のどこかに触れ、刺激を与えるものだと思います。その中でも、『末原拓馬奇譚庫』とその作中で描かれる物語たちは、心の中の未知の部分に、今までにない角度から触れていく作品になるんじゃないかと感じています。作り手である僕らも、その新鮮な感覚を楽しみながら作っています。
1つ1つの物語が持つ力だけでなく、「物語」という概念そのものが持つ力や存在する意味に対して、信頼を寄せ、期待し、大切にして作り上げている作品です。拓馬さんと僕らがめいっぱい愛を込めて作ったこの一作を、物語を愛するすべての方と共有できたらと思います。あなただけの「奇譚庫」を、劇場でぜひ楽しんでください!

取材・文:豊島オリカ/カメラ:ケイヒカル















<公演概要>
舞台『末原拓馬奇譚庫』<日程>
<日程>
2025年
1月22日(水) 19:00
1月23日(木) 14:00/19:00
1月24日(金) 14:00/19:00
1月25日(土) 12:00/16:00
<会場>Hall Mixa
〒170-0013 東京都豊島区東池袋1-14-3 Mixalive TOKYO B2階
https://hall.mixalivetokyo.com
<脚本・演出>
末原拓馬(おぼんろ)
<出演者>
橋本真一
前川優希
三上俊
藤井としもり
末原拓馬(おぼんろ)
<チケット>
◯チケット価格
入庫証 8500円(税込)
特典:奇譚符札
※奇譚符札とは・・・ 回替わりの短編音声物語がダウンロードできるボイスカード。
出演者たちの声によるこの物語たちは、本編と関連するスピンオフとして、帰宅後も想像の中で物語が持続するアイテムとなります。
○一般発売
受付URL:https://l-tike.com/sueharatakumakitan/
店頭販売:ローソン・ミニストップ店内Loppi (Lコード:35039)
チケット取り扱い:ローソンチケット
特設サイト:https://hall.mixalivetokyo.com/information/takuma_kitanko/
公式X:@takuma_kitanko
♯末原拓馬奇譚庫
<公演に関するお問い合わせ>
Mixalive TOKYOお問い合わせフォーム
https://www.mixalivetokyo.com/contact
企画・制作:講談社
主催:講談社