【インタビュー】劇団鹿殺し「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」を振り返る対談取材(菜月チョビ・橘輝)

劇団鹿殺しによる3作同時上演が、11月30日から12月7日まで東京・駅前劇場で行われる。
劇団鹿殺しは今夏、スコットランド・エディンバラで催された「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」で初の海外公演を行った。上演した演目は、同劇団が日本各地で上演してきたShoulder pads「1 Shoulder pads -GALAXY TRAIN- Japanese musical theatre」。
チケットは初日から全日完売し、現地メディアはこぞって称賛を送った。さらにスコットランド最大の新聞社The Scotsmanからも絶賛され、異例の星4評価を得た。旗揚げ以降挑戦を続けてきた彼らの挑戦は、なおもとどまるところを知らない。
今回の3作同時凱旋公演では、エディンバラ公演を経験したオリジナルメンバーが実際の上演内容をそのままに、英語と日本語ミックスのオリジナル言語で上演する、劇団鹿殺し Shoulderpads 凱旋公演UK Version「Galaxy Train」(English Japanese Mix)(ほぼ英語なので、英語話者の方も全編字幕なしで楽しめます。)、日本語のみで上演される劇団鹿殺し 2Shoulderpads SP Japanese Version「銀河鉄道の夜」(Japanese only)という2バージョンを披露。このほかに、丸尾丸一郎が銀河鉄道の星の祭りからインスピレーションを得て創作する新作、劇団鹿殺しabnormals(アブノーマルズ)「銀河鉄道の朝」も上演される。
メディアクトでは、今回菜月チョビと橘輝に対談取材を実施。エディンバラ公演の振り返りや今後の展望など、長く劇団を牽引してきた2人ならではの話を語ってもらった。
――おふたりは長く劇団鹿殺しで共に活動してこられました。改めて、お互いの印象を聞かせてください。
橘: 2007年に出会った当時、僕はまだ大学生でした。「殺ROCK ME!!!!!!!~サロメ~」にアンサンブルとして出演したのが最初です。右も左もわからなくて、「まあ就職しなくてもいいかな」くらいの軽い気持ちで来ちゃったんですよね(笑)。
菜月: 今いるキャストの中では、輝とはいちばん長い付き合いになります。正式に団員を募集する前の公演に応募してくれたんです。
当時、私たちは上京してまだ2年目。そんな中で届いた輝の履歴書は、本当に輝いていました。志望動機もしっかり書いてあるし、もうダントツでよかった。「ちゃんとした子だ〜!」って(笑)。路上パフォーマンスも見に来てくれて、人との関わりの中で「あなたに興味があります」と誠実に示す姿勢にシンパシーを感じました。言葉にしなくても通じる部分がある、と。
橘: 当時の鹿殺しって、今よりずっと尖っていて、とにかくかっこよかったんです。ただ者じゃないというか、スター性があって。だから「気に入られたい」という下心は一切なくて、純粋に惹かれて路上パフォーマンスも見に行っていました。変な打算がなかったからこそ、自然に近づけたんだと思います。
菜月: そう、あの頃の私たちは最高に尖っていて…(笑)。演劇初心者が多くて、もともとの団員は少ない。そんな中必死に劇団を立て直していた時期で、稽古場はとにかくビシバシやり合っていたんです。
だから輝は最初、自分が認められているなんて思っていなかったんじゃないかな。でも私は最初から伝わるものがある、という安心感がありました。その信頼は今も変わりません。
橘: 最初は演出家と劇団員という関係でしたけど、人の入れ替わりや作品作りを経て、すごくいい友達になれた感覚もあります。
実は一度、劇団を休んで芝居を辞めようと思った時期があったんです。その時も「いい友達でいたい」と思っていました。もちろん今も尊敬していますし、稽古場ではちゃんと演出家として接しているんですけど。
チョビさんは昔、本当に尖りきっていたんですよね(笑)。劇団を引っ張らなきゃ、舐められちゃいけない、という責任感があったんだと思う。すごく不器用で、まっすぐな人です。稽古中も気を遣うんだけど、伝わりにくい部分もあるので、見ていてちょっともどかしくなることもあります。
菜月: それ、みんなに言ってよ〜。輝が代わりに伝えてくれたらいいんだから(笑)。
橘:(笑)。でもね、気は遣うけど絶対に曲げないんですよ。「大変だよね、難しいよね、わかるよ。でもやって」って(笑)。
誰かが「これは無理なんじゃ…」と言っても「やって」で押し通す。他の演出家さんは「じゃあできる方法を探そうか」という方法を取ることもあると思いますが、チョビさんはそうしないんですよね。
今回の「Shoulderpads」は特に身体表現が多くて、丸尾さんが「パフォーマンス劇」という言い方をしていました。芝居だけじゃ成立しないし、パフォーマンスだけでも成立しない。両方が必要なんです。その中でチョビさんも難しい要求をしているとは思うんですが、やっぱり誰も逃げられないんですよね(笑)。
菜月: この前、エディンバラ公演の打ち上げをJP(島田惇平)とたにやん(谷山知宏)と一緒にしたんです。2人にも「曲げないよね」みたいなことを言われました(笑)。
彼らは、こちらが伝えた中でわからないことや難しい部分があっても、そのまま挑戦してくれるタイプ。だからぶつかることはないんです。でも出来ないと言う人の気持ちを汲んで、別の方向を提示するのも演出家として必要だとも思うんですよね。
ただ私はちょっと違って、「あなたは向いてないと思ってるかもしれないけど、私は成功している姿が見えてるよ」って背中を押しちゃう。出来ると思っていなければ言わないし、「あなたは気づいていないだけで本当は出来るよ」とポジティブな妄想が捨てきれない。
本人が自身の可能性を信じきれていない時って、挑戦が怖いと思う。だけど私はできている姿が見えちゃうので、つい言い続けちゃうんですよね。
――エディンバラ公演では、島田さんと谷山さんはどんな存在でしたか?
橘: たにやんもJPも意図を汲んだ上で「じゃあ自分はこうします!」って前向きに提案してくれるので、こちらの想像を越える方向に広がっていって、稽古がすごく楽しかったですね。一緒に作品を作る喜びがありました。
菜月: 2人は今回の作品に参加してくれるだけあって、本当に探求心があるなと思いました。
こういう作品ってかっこよく見られたいという気持ちが邪魔してブレーキがかかる人も多いんですが、2人は迷わず挑戦しに行ってくれるタイプ。そういう人は多くないので、すごくありがたく、稀有な存在でした。

――改めて、エディンバラ公演本当にお疲れさまでした。現地で過ごした日々を振り返ってみて、いかがでしたか?印象に残っているエピソードなどを教えてください。
菜月: 日本の観劇スタイルとの違いを強く感じました。日本では物価高の影響もあって、観る作品を事前情報で絞り込むことが多いですよね。結果として知っている人が出ていたり、賞を取った作品に観客が集中しやすい。
でもエディンバラでは、前評判ではなく、お客さん自身の感性でビジュアルの作り込みや作品への姿勢を嗅ぎ取って選べる環境だと感じました。
私たちが上京した頃、鹿殺しは路上パフォーマンスをしていて、その場で感じたパワーを信じて劇場に来てくれる人が多かったんです。今回、20年近く前に味わったお客さんとの出会い方に近い感覚を久しぶりに思い出しました。
評価や情報を取っ払って「お前を認める」と目の前でジャッジしてくれるようなタイマン感があって、それがすごく嬉しくて。
正直、日本人が裸で踊っている面白い作品、という印象で終わる可能性もあると思っていたんです。でも蓋を開けてみたら、「生死を美しく描いていた」「演出のこだわりが伝わった」という声をたくさんいただきました。ちゃんと受け止めてくれていたことが、純粋に嬉しかったです。
世界に対して希望を持ち直せたし、「演劇って頑張る価値がある」「頑張り甲斐があって楽しい」と改めて思えた公演でした。
橘: 僕の印象に残ったのは、客席の客層です。思っていた以上に年配の方が多くて、その方々が声をあげて笑ってくれているのが新鮮で、すごく嬉しかったですね。
フリンジは世界中の猛者たちが演劇で競い合う場所というイメージだったんですけど、実際は町全体が文化祭のような雰囲気でした。
そんな中で、僕たちは前評判ゼロの状態で参加したのに、お客さんがしっかりと評価してくれた。フリンジの醍醐味って、ボロ市で100円のレコードをジャケ買いしたらめちゃくちゃ良かった!みたいな感覚だと思うんです。実際、そんなふうに受け取ってもらえて嬉しかったですね。
来年は今回の結果が判断基準として残るけれど、今年は完全なる未知の状態で新鮮な驚きを届けられた。それがよかったなと思います。
最初は不安も大きかったです。でも後半になるにつれて、「チラシの真ん中にいるのは俺だ!」って胸を張れるようになって(笑)。「観に行ったよ」と声をかけていただくことも増えて、自信につながりました。

――今後の海外公演の予定や構想があれば、ぜひお聞かせください。
菜月: エディンバラには、また絶対に行こうと思っています。ありがたいことに今回は星をいただけたので、2年目の挑戦になる来年は劇場の取りやすさもまったく違うようなんです。ここで試さないのは勿体ない、という気持ちがあります。
橘: 普通は何年も挑戦を続けて、やっと星がつくものみたいですね。初めて星をもらうまでに3年かかるのも珍しくないとか。
菜月: そう、数年続けてやっていると「様子見じゃないんだな」と判断されて、そこから評価が付いていくのが一般的らしいんです。そうやってヨーロッパツアーの対象などにもなっていったりするみたいで。
1年目で星を取れたという実績を持って行けるのは来年だけなので、次回もエディンバラフリンジに挑戦したいと思っています。
実はほかにも声を掛けていただきました。オーストラリアのアデレードフェスなどからも、とても前向きなお話をいただいたんです。
橘: 「で、いつ来るの?」みたいにね(笑)。
菜月: タイミングが合わずに実現は難しいんですが、歓迎してもらえているのは本当に嬉しいです。イギリスのブライトンからもお声がけがありました。フリンジは本来、自分たちで資金を出して挑戦するのがほとんどなんですが、「お金も少し出せるよ」と言ってくれたんです。他のメンバー編成で挑戦してみるのも楽しそうですよね。
――そんな中で、The Scotsmanの審査員が来られたのは異例のことだったのでは。来年は劇団が25周年を迎えますし、記念の年になりそうですね。
菜月: そうですね。劇場の方も驚いていました。劇団としても25周年の企画を進めています。来年から25周年イヤーとして、再来年には大きめの公演を予定しています。来年もお客さんとのイベントもやりたいですね。エディンバラ前の壮行会も、とてもほっこりしましたし。
橘: ああいう場、いいですよね。一人ひとりの顔がしっかり見られて。
――今回は3作品同時上演という、まさにお祭りのような挑戦です。3作品上演に踏み切った理由や、今作の魅力について教えてください。
菜月: 鹿殺しのメンバーとゲストで公演をしよう、というのはエディンバラに行く前から決まっていたんです。
エディンバラでの日々を経て、「Shoulderpads」の凱旋公演は絶対にやりたいし、駅前劇場なら新しい冒険的な作品もやりたい…という意見が出て、次々と形になりました。
本当は2作品だけの予定だったのですが、英語とのミックスではなくまっさらな状態で作品を知りたいという方もいるだろうと思い、日本語版の上演も決めました。
エディンバラで受けた刺激を、丸さんが「どうなるか知らんけど!」というテンションでぶつけてます(笑)。全体のバランスを見てアブノーマル版の運動量が調整されるのかなと思っていたら、まったくそんなことはなかったです。
水や客席をふんだんに使った、お客さん参加型の暴れん坊な作品になりそうです。
橘: アブノーマルズなんて、開始10分で僕は汗びっしょりですよ。廃墟でやるつもり? ってくらいの勢いがあります。でも、始まったら終わりまで突っ走るだけなので、全力でやりきりたいですね。
「Shoulderpads」についてはチラシだけ見たら、僕が主演みたいなんですよ。この前別の公演で一緒だった笹森裕貴くんにも「次は輝さんが主役なんですね!」って言われました(笑)。
日本語版は出演者も変わりますし、UK版でやりきれなかった部分をブラッシュアップした演出箇所が増えてます。エディンバラでは限られた時間内で片づけまで全部やらなければならなかったので、削らざるを得なかったところもあって。
今回はよりブラッシュアップした状態で届けられるので、ぜひ楽しみにしていてください。
――今後、劇団としても個人としても、目指したい未来や挑戦したいことを教えてください。
菜月: 海外にはまた行きたいですね。前評判がない状態だからこそ、自分たちの大事にしているものが伝わったかどうかがダイレクトに分かる。これはとても素晴らしい体験でした。
私は困っているというか、生きづらいというか…マイノリティ側だと感じることも多いんですが、今回たくさんの似た方々とも出会い作品を認めてもらえたことで、もっと世界に作品を届けたい、もっと多くの人に会いに行きたい、という気持ちが強くなりました。そうすることで、自分自身も生きる力をもらえるし、演劇を続ける理由にもなる気がしています。
そして、作品のお祭り騒ぎの部分だけでなく、私たちが持っているスピリットや美学の部分まで受け取ってもらえたことに安心しました。この感動は次の作品にも必ずつながると思いますし、もっと大きな規模の公演を世界各地に届けたいです。
それから、国内の外国人の方にもぜひ楽しんでほしいと改めて思いました。今はプロジェクションマッピングを使った大規模なショーに足を運びやすいと思うんですが、彼らにとってもっと気軽に演劇に触れられる場所になったらいいなと思います。
今回、UK版に外国の方がどれくらい来てくださるのかも楽しみです。日本のお客さんにも、観劇中に自分を開放して、笑ったりつまらない顔をしたり、いろんな体験をしてほしいですね。
橘: 今度は劇団員みんなで海外に行きたいですね。本当に楽しくて、良い経験ができたので。
考えてみると、僕はこれがやりたい!と決めて挑戦してきたというより、乗っかる形でいろんな楽しいことをみんなとやってきました。これからもそうやって楽しみたいですね。
――最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
菜月: 今回は3作品ということで、それぞれにしっかり魅力がありますし、3作品やるぞという鹿殺しの生きざまを体験しに来てほしいです。身近な英語圏の方がいたら、ぜひ一緒に座ってください。自分の観劇スタイルもぜひ壊してほしい。おしゃべりしたり飲み物を飲んだり、自由に気楽に楽しんでほしいです。
橘: 僕も、お客さんには気楽に観てほしいと思っています。こんな作品ですが、下ネタではなく、めちゃくちゃ真面目に演劇をしています。
大真面目にバカなこともふざけたこともやっているので、安心して観に来てください。固くならず、ゆるく楽しみに来てもらえたら嬉しいです。新しい演劇体験をお届けします。
取材・文、写真:水川ひかる
劇団鹿殺し3作品同時上演概要
期間・会場:2025年11月30日(日)〜12月7日(日)@下北沢 駅前劇場
1.Shoulderpads 凱旋公演UK Version
「Galaxy Train」 (English Japanese Mix)
◆原作 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
(北村想 作「想稿銀河鉄道の夜」からの⼀部引⽤あり)
◆脚本 丸尾丸⼀郎
◆演出 菜⽉チョビ
◆⾳楽 タテタカコ、伊真吾
◆振付 伊藤今⼈、浅野康之
◆出演
菜⽉チョビ、丸尾丸⼀郎、橘輝、浅野康之、島⽥惇平、⾕⼭知宏
上演時間は60分を予定しております。
2.Shoulderpads SP Japanese Version
「銀河鉄道の夜」 (Japanese only)
◆原作 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
(北村想 作「想稿銀河鉄道の夜」からの⼀部引⽤あり)
◆脚本 丸尾丸⼀郎
◆演出 菜⽉チョビ
◆⾳楽 タテタカコ、伊真吾
◆振付 伊藤今⼈、浅野康之
◆出演
菜⽉チョビ、丸尾丸⼀郎、橘輝、浅野康之、島⽥惇平、ゲスト1名
上演時間は60分を予定しております。
3.劇団鹿殺しabnormals (アブノーマルズ)
「銀河鉄道の朝」
◆脚本・演出 丸尾丸⼀郎
◆出演
橘輝、浅野康之、藤綾近、メガマスミ、川平花
/島⽥惇平、丸尾丸一郎、他ゲスト1名
/町⽥⻘、東美伽
上演時間は60分を予定しております。
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⼀般 3,900円 / パンフ付き 5,800円 / U-25 2,500円 / U-18 1,000円
(税込・全席⾃由・整理番号付・前売当⽇共通)
※U-25、U-18の受付は、11⽉9⽇(⽇)12:00より⾏う⼀般発売以降になります。
※先⾏販売特典、パンフレットは、公演当⽇に公演受付でお渡しをさせていただきます。
10⽉25⽇(⼟)12:00〜11⽉2⽇(⽇)23:59 公式・プレイガイド先⾏販売
11⽉9⽇(⽇)12:00〜 ⼀般発売開始
公式X : @shika564 お問い合わせ : ticket@shika564.com
特設サイト https://shika564.com/ekimae2025/



