【インタビュー】オーストリアのベストセラー小説を、作者自らが戯曲化した舞台『キオスク』主演・一色洋平に聞く

オーストリアのベストセラー小説を、作者自らが戯曲化した舞台『キオスク』が、2025年12月5日(金)~10日(水)に東京・パルテノン多摩で上演される。日本ではリーディング公演、ストレートプレイ公演を経て4年ぶりの上演が注目を集めている。
物語の舞台は、1937年にナチス・ドイツへ併合される直前のウィーン。キオスク(新聞タバコ店)で働くことになった17歳の青年・フランツが、大人たちとの出会いや初恋を通して成長し思いもかけない結末を迎える一年間が描かれる。
メディアクトでは、主人公フランツを演じる一色洋平にインタビューを実施。初日を目前に控えた率直な心境、作品に込めた思い、そして共演者との印象深いエピソードまで、たっぷりと語ってもらった。

――本番まであと一週間となりました。現在の心境をお聞かせください。
2日ほど前の稽古中に、演出の石丸さち子さんから「洋平のフランツが見つかったね」と言っていただけたんです。原作を読んだ時点からハードルの高い作品だなと感じていたので、その言葉が素直にとても嬉しくて。
まだ試してみたいことが2~3個ほどあるので、今日の衣装つき通し稽古で挑戦してみたいと思っています。それがうまくいくのかという緊張感もありますし、そうした緊張は千穐楽まで続くもの。でも、「ここから走っていける」という大きなレールを見つけられたのは、この作品ならではの喜びです。
――一色さんが演じるフランツの人物像について教えてください。
フランツは、RPGの世界に出てくるような大自然の中で育った少年です。原作では都会に2度ほど行ったことがある設定ですが、舞台ではほぼ初めてという感覚でいいのではと思いました。
路面電車を見たことがなかったり、都会の空気をまったく知らなかったり……そうした舞台版ならではのフランツ像を、共演者の皆さんと一緒に作ってきました。
小説版・舞台版とも共通するのは、彼が真っ白なキャンバスを持っている存在だということです。ウィーンの街に出稼ぎに来て、騒がしさや匂いにまず圧倒され、そこから出会う人々に絵具を塗られ、時には塗りたくられ、汚されていく。でも最終的には、自分の意志で「この色を使う」と決めていく。
その一年間の変化を通して、フランツが自分の色を掴み取っていく姿に心を動かしていただけたら嬉しいです。

――役に入る前後で感じた変化はありますか?
稽古に入る前から、役に合わせて体重を5kgほど落としました。フランツと同じ17歳の頃の55kg台に戻そうと思ったんです。でも、今は骨格も違うので、同じ体重でもやつれて見えることがあったりして、見栄えのバランスを整えることが難しいと実感しました。ただ、そうした調整ができるのも役者の面白さの一つだと思います。
劇中ではフランツが母から「ちゃんと食べてる?」というような手紙をもらう場面がありますが、今の自分はその一言が刺さるんです。母親って、状況を察したような言葉をくれるじゃないですか。体重のことだけでなく、母の優しさにも敏感になりました。
同時に、大人たちの背中がより大きく見えるようになりました。石黒さんのオットー、山路さんのフロイト。その存在の大きさを強く感じられるようになったのは、この作品に真摯に向き合ったことで、17歳の心を取り戻しつつあるからなのかもしれません。

――17歳の頃はどんな高校生でしたか?そして現在34歳。一色さんが17年後のご自身に望むこととは?
当時は、「自分はどうやってお金を稼いでいくんだろう? 何を仕事にするんだろう?」という不安が常にありました。街を歩けばいろんな大人がいるけれど、自分はどうなるのか想像できなくて。目の前にブラックホールがあるような感覚でした。
18歳で初めて役者になりたいと思いましたが、そう思ったところで未来が見えるわけではなく、でも「やりたい」という気持ちだけで新しいブラックホールに飛び込んでいきました。
17歳のブラックホールは不安しかないものでしたが、18歳のそれはやりたいことがある黒い渦。中身がどれだけ果てしなくても、その旅を楽しめるようになったんです。不安にも色があるんだ、と知りました。
役者を続けてきた中で、思い通りにならなかったことも、うれしい誤算もたくさんありました。だから今は目標を立てないようにしています。17年後の自分は、きっと今は想像もつかない場所にいる。未来の自分に何かいいプレゼントが渡せるように、今回の作品も含め、今を一生懸命頑張りたいと思っています。

――稽古期間を振り返って、印象的だった出来事や共演者の皆さんとのエピソードを教えてください。
まず、山路さんのフロイトがこれまでの稽古とはまったく違う雰囲気だったこと。山路さんがフロイトを演じるのは今回で3回目で、つまり3人のフランツを見てきた方でもあります。
昨日の通し稽古を経て、「山路さんは僕というフランツを見てフロイトを作ってくださっている」と強く感じた瞬間がありました。もし違っていたらすみません(笑)。でもそう感じられたことが、おこがましいながらも嬉しくて、深く感動しました。
役作りは個人作業が基本ですが、現場では誰かとの掛け合わせになる。山路さんは、その掛け算の素晴らしさを演技で示してくださる方です。
石黒さんは、本当に少年のように無邪気で素敵な方。目がずっと少年のままなんですよね。劇中ではフランツに厳しく接する場面もありますが、その奥に必ず優しさがあるんです。叱るシーンでも、目の奥が笑っているんですよ。
芝居は人間が出る。人間力が土台にあってこそ芝居が成立する、ということを改めて実感しました。
一路さんも圧倒的です。膝枕をしてもらうシーンでは、100%母親だと思えてしまう。一色洋平としてもフランツとしても、まったく力まずに親子の時間が成立しているんです。
他のキャストの皆さんは10役近く演じられる方もいて、その姿がまさに激動の時代を体現しているよう。皆さんの技の応酬に本当に支えられています。

――フランツは多くの縁に支えられながら成長していきますね。一色さんご自身が“縁”を感じた出来事はありますか?
まず大きいのは家族の存在。そしてもう一つは、中学の陸上部の顧問の先生です。その先生は、フランツにとってのオットーのような人。人としてどう向き合うべきかを教えてくださった方で、僕は今でもその言葉を大切にしています。
先生が「気づき力」という話をされていました。視野を広く持ち、困っている人がいたら本能的に駆け寄れる人になりなさい、と。それがすごくかっこいいと思いましたし、今もずっと影響を受けています。
役者としてのご縁でいえば、演出の石丸さち子さんです。ひな鳥が初めて見る相手を親と思うように、僕にとって演劇界の“親”は石丸さんです。だからこそ、さち子さんに褒めていただけると特別な嬉しさがありますね。
――最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。
まだ、いい意味で最後のシーンがどう見えるのか自分でもつかみきれていません。オーストリアがドイツに併合され、一度国がなくなるまでの激動の一年間を、フランツは懸命に駆け抜けます。その先に絶望を見るのか、闇の中で一筋の光を見るのか。僕はお客様へメッセージを届けたいと思う一方で、お客様からのメッセージも受け取りたいと思っています。
舞台は総合芸術と言われますが、その総合にはお客様も含まれていると感じています。観客がいて初めて舞台は完成する、これが嘘偽りない真理です。この作品を通して、僕は闇の中の小さな光を探し続けますし、その光にはお客様の存在も含まれています。
ぜひ一緒に作品を育てる気持ちで劇場に足を運んでいただけたら、ひとりの演劇人として何より嬉しいです。よろしくお願いします。
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一色が紡ぐ言葉は、どれも澄んでいてまっすぐだ。17歳の少年のような純粋さと、これまで重ねてきた人生や役者としての揺るぎない芯の両方が静かに共存している。
「芝居は人間力という土台の上に成り立つもの」。そう語った彼の前に広がる『キオスク』という物語は、その人間力があるからこそ立ち上がるのだと強く思わされる。
激動の時代を必死に生き抜いた人々の姿は、いまを生きる私たちの胸にもきっと深く届くはずだ。いかに生きるのか、人とのつながりとは何か――舞台と観客が呼応し合うこの作品に、ぜひ足を運んでほしい。






取材・文:水川ひかる/写真:ケイヒカル
公演情報
『キオスク』
作 ローベルト・ゼーターラー
翻訳 酒寄進一
演出 石丸さち子
出演
一色洋平 石黒 賢
壮 一帆 陳内 将 内田健司 小石川桃子
一路真輝 山路和弘
公式サイト https://www.kiosk-stage.jp
日程 2025年12月5日(金)~10日(水)
会場 パルテノン多摩・大ホール
※初日ご来場特典
12月5日(金)ご来場のお客様から抽選で200名様に公演中に販売するパンフレットを贈呈
(当日ロビーで当選者のお席番号を掲示)
※アフタートーク
・12月6日(土)14:00公演 終演後
石丸さち子、一色洋平、石黒賢、一路真輝、山路和弘
・12月7日(日)14:00公演 終演後
石丸さち子、壮一帆、陳内将、内田健司、小石川桃子
・12月8日(月)18:00公演 終演後
石黒 賢、壮一帆、陳内 将、内田健司
・12月9日(火)18:00公演 終演後
石丸さち子、一色洋平、一路真輝、山路和弘
・12月10日(水)15:00公演 終演後
スペシャルカーテンコール
出演者全員がコメントさせていただきます。
チケット
パルテノン多摩公式HP https://www.parthenon.or.jp/event/202512kiosk-stage
イープラス https://eplus.jp/sf/detail/4395320001-P0030001
チケットぴあ https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2533204
料金 ¥10,000(全席指定・税込)
取扱い パルテノン多摩/イープラス/チケットぴあ
お問合せ先 パルテノン多摩共同事業体 042-376-8181(10:00~19:00休館日を除く)



