【インタビュー】谷佳樹・泰江和明 運命の「糸」がつなぐ縁と関係性『俺がお前で、オマエがオレで~芥川龍之介・蜘蛛の糸』

2月11日から2月15日まで新宿・シアターモリエールにて舞台『俺がお前で、オマエがオレで~芥川龍之介・蜘蛛の糸』が上演された。本作は、プロデューサー・原案の谷佳樹と泰江和明による二人芝居。芥川龍之介の名作「蜘蛛の糸」をベースとし、人の業や心の奥底にある本音を赤裸々にあばき出している。盛況のうちに舞台は終了、公演の様子はBlu-rayとして映像化される予定だ。
メディアクトでは、公演中の谷佳樹と泰江和明にインタビューを実施。役作りや作品に向き合うためにおこなった苦労、工夫から、舞台上で感じていること、お互いについてなどをたっぷり語ってもらった様子をお届けする。
(作品・登場人物の核心部分にも触れています。公演未観劇の方はご注意ください)


――本作が生まれたきっかけと経緯を教えてください。
谷 佳樹(プロデューサー・原案/犍陀多(カンダタ)役):お客さまと一緒に文学に触れながら読み解いていく機会を持ちたいと思って、1年と少し前から「四季の朗読会」という春夏秋冬をモチーフとした朗読会をやっています。幸いご好評をいただいていて、その前身となる「古民家朗読会」(2024年11月)から一緒にやっている多田 滉と「これからもやっていこう」としながらも同時に、朗読だけではなくひとつの作品として届けるものも作りたい、とも思ったんです。
そのためにはどうしたらいい? と考えていたところ、前身となる「古民家朗読会」(2024年11月)で、芥川龍之介さんの「蜘蛛の糸」を読ませていただいたのを思い出して。「蜘蛛の糸」は、芥川龍之介さんにとって初めての児童文学作品です。さまざまな教えを子どもにも分かりやすく書いているからこそ、深掘りのしがいがある。そして「芥川さんが、登場人物である犍陀多と会ったらどういう会話をするんだろうか?」と思いついたのをきっかけに、原案とプロットを作っていきました。
――そして企画を進めていき、2人芝居として実現できることになったんですね。泰江さんは、本作へのご出演は谷さんからのオファーだとうかがっています。お話が来たときどう思いましたか?
泰江和明(芥川龍之介役):「2人芝居」と聞いてまずは「おもしろそう!」と思いました。まず発想がとても興味深くてシンプルに「楽しみだな」って。でも、実はその時はまだ、どちらがどちらの役を演じるか決まっていない段階だったんですよ。
谷:そう、オファーしたときはどちらを演じるかギリギリまで迷っていた段階でした。今とは逆の配役で演じるのも面白そうでしたしね。でも、世界観を構築しながら原案を書き進めていくうちに、気づいたら「カズ(泰江)がこのシーンを演じているのを見たい」と思うようになったんです。芥川さんとして凛として立っているのと同時に、どろどろになって苦しんで叫んでいる、そんなカズを見てみたくて。カズが芥川さんを演じるなら、自分は犍陀多だ、と綺麗にはまったと思っています。
――本作はメインのお芝居が2人(+3名)という大変少人数での作品でした。この人数だったからこそ大変だったことやおもしろかったことは何ですか?
泰江:大変だったのは…シンプルにセリフが多い!(笑)。2人芝居も、舞台に出ずっぱりで喋りっぱなしなのも初めてでしたし、セリフを覚えられるのか心配でした。
谷:そうだったの? 意外だね! 脚本は門野 翔くんに書いてもらったのですが、彼から脚本が上がってくるたびに「カズにもっと喋らせたい!」「ギミックを足したい!」とどんどんオーダーをしていたら、気づけば当初の予定から6~8ページ増えてしまいました(笑)。
僕は公演に関して、演者としてはもちろんプロデューサーとして、今までに味わったことのない多くの責任を感じました。多くのスタッフさんたちのこと、グッズ、スケジュール…。その他もろもろの全てが、僕の判断で決まっていく責任の重さと恐ろしさ。もしもこの公演がうまくいかなかったら…? などということも常に頭にありました。
稽古が始まってからは、少人数ならではの楽しさがたくさんあったね。
泰江:そう、ディスカッションが濃かった。方向性をまとめるために集めなければならない作業をしなくてもいいので、順調でした。でも稽古が順調に進んだのは、(門野)翔くんとたにーに(谷)の間で稽古前に検討を重ねて煮詰めて固められていたからこそだったと思います。
谷:稽古自体には大変だった思い出はありません。信頼しているメンバーでしたし、良いスピード感で進められました。でも、カズが忙しすぎて稽古日数が思っていたよりも取れなかったね!(笑)
泰江:日数が短くて「大丈夫か?」と焦りはありましたが(笑)、始めてみれば、集中して稽古ができてよかったです。人数が少ないので、部分稽古を重ねていくのではなくて、ほぼ通しで進めていて。逃げ場もなく集中してできたので、それは少人数芝居ならではの良いところだったと思います。
――今作の役作りで苦労したことは何ですか?
泰江:芥川先生の書かれる文章と、翔くんの書く文章(脚本)では違いがあるので、その違和感を埋めるのに苦労しました。例えば、芥川先生の文章をそのまま引用している部分と翔くんの書いた文とでは、書いた人が違うので文章の密度や質量、温度感が違います。芥川先生の言葉である台詞を口にするのに、芥川先生の言葉ではない。その手触りや言葉の質量や密度の違いを、どう埋めてつなげていくべきなのか…。普段であればまずは台本を覚えてしまってから考えるのですが、その違和感がずっとあって台本が頭に入ってこなかったんです。それで、台本を覚えるのは少し横に置いて、芥川先生のことを調べる時間を先に多く取りました。そうしたら、少しずついろいろなことが見えてきて。
稽古に入ってからも、実験を重ねつつ翔くんに付き合ってもらって、ひとつずつ状況を整理していきました。「自分はこう思う」「こういう状況だから、こう」と一緒に話と感情を辿っていったら、ある時一本の筋が通ってその瞬間にやっと見えたんです。お話の全体を進めていくよりも、その前段階に多くの時間を費やしました。


――芥川先生の文と門野さんの脚本とで感じた質感の違いを埋めるために、どのようなことをしましたか?
泰江:芥川先生の文は、飲み込まれるほどの“負”のオーラが漂っているように感じます。それに対して翔くんの書く文章はハッピーなんです。脚本の中に混在している芥川先生の文と翔くんの文。翔くんが書く、僕が芥川先生として口にするセリフ。僕が自分で判断して重さの違いを埋めていくべきなのか、それとも重さを作り出していけばいいのか…それは相当悩みました。結局、僕が自分で調べて「こうしたい」と思ったものを持ち寄って、翔くんとたにーにを交えて3人で話し合ってみたんです。まずはぶつけてみよう、と。そうしたらすぐに分かってもらえて、どんどん手入れと修正をしていくことになりました。
谷:カズから相談を受けて、彼が言っていることは確かに的を射ているなと思いました。翔くんからもらった脚本に、カズのスパイスをたくさん足させてもらって、僕は僕で色々な道をたどりながら考えた犍陀多像をじょじょになじませていきました。だから僕は役作りについて、カズほど深くは悩まなかったかもしれません。翔くんの脚本に完全に身をゆだねていたというか(笑)。僕は、どの作品でもそうですが、稽古の序盤は大きな疑問を持たずに臨むタイプです。そして進めていくうちに、少しずつ修正していく。今作でも、やりながら「なぜこんなにも『なぜ』と疑問ばかりをぶつけるのだろう?」と、犍陀多がそこに居る意味を考えるようになっていきました。だから「役を作っていこう!」としたのではなくて、自然とこうなった、という感じですね。
――初日から数日経過していますが(インタビューは上演期間中)、気持ちはどのように変化していますか?
泰江:恐怖心が増しています。やればやるほどに恐怖心が。大人数で作る作品では、シーンによって舞台上にいない時間ができます。そんな時、僕は舞台袖で次のセリフや次のシーンについて考えてそれから舞台上に出ていくのですが、今作ではそれがない。ずっと舞台上にいるので、考える時間が無いんです。一度舞台に出てひとこと喋りはじめたら、そこからはずっと、もらったものに返していくしかない…すごい経験です。先が見えなくて怖い。どれだけ頭を回転させても、一瞬でも違うことに意識をとられたら、相手の言葉のフックを見失ってやり取りができなくなってしまう。最初から最後まで集中し続けていないと。だからこそ怖いんですけれどもそんな経験はめったにできないので、それが本当におもしろいです。
谷:昨年(2025年)出演した『わが友ヒットラー』が、出演者は4人だったのですが、2人ずつの組み合わせで会話を重ねていく作品だったので、実質2人芝居のような感じだったんです。セリフ量も膨大でした。その痺れる環境を経てきたので、カズが感じているという恐怖心は、そうだな…僕は麻痺してしまっていますね!(笑) あれを経験していなかったら、カズ以上に追い込まれていたかもしれません。
先ほどもカズから「セリフ量が多くて大変だった」という発言が出て驚いたのですが、恐怖心を持っていることも合わせて意外でした。難なくいくタイプだと思っていたので。でもその苦しみが、演じる上で役に乗っているように感じます。観ていて「このカズが観たかった!」って。苦しんでいるカズのお芝居には、独特の良さがあるので、それをもっとたくさんのお客さまにも観ていただきたいんです。僕自身もカズのそのお芝居が大好きですしね。
初日からの変化で言えば、カズのお芝居の変化に加えて、お客さまの雰囲気が変わっていっているのを感じます。特に、リピートして観てくださっている方々から「この物語をもっと咀嚼したい」という気持ちが伝わってきています。2日目の公演の後におこなったアフタートークで、設定や細かい解釈のことを少しお話ししたんです。そこで解像度を上げてくださったんでしょうね。その次の公演では、劇場全体の空気感が変わったのを肌で感じました。脚本の翔くんも「劇場が大きく感じた」って言ってくれて。舞台は、その日がどんな空気の公演になるかは板の上に立ってみないと分かりません。だからこそ怖いしおもしろいですね。
――本作を経験して、これからご自分に変化が起こりそうだと感じることはありますか?
泰江:ものすごく感覚的な言い方になってしまうのですが、起承転結や喜怒哀楽をきちんと考えて演じるのではなく、それらは全部捨ててしまってもいいのではないか、と。特に今作は、(演じる人物が)薬の影響でおかしくなりつつある、ということもあるのでしょうけれども、整合性は必要ないんですよ。つながらなくてもいい。流れって、あるようで無いものですからね。僕自身も、それまでの話の流れを気にせずに突発的に話をし始めて、周りに突っこまれることがよくあります(笑)。
いろいろな道があって、やり方がある。今回は、今までにないやり方で、今までにないものを得ているように思います。僕は役に引きずられることが多いし、この経験が今後の俳優人生でどう生きていくのかはまだわかりませんが、新しいものを掴もうとしている感覚があります。今回は特に、創作されたフィクションの人物(キャラクター)ではなく、実在した人物を演じているので、それも初めての経験でありおもしろいところなんですよね。
谷:新しいものに挑戦するときには、慣れるまでどうしても時間がかかります。いびつさが現れたり、ストレスがかかったりもする。僕も、新しい環境に身を置いたときはキツかったし無理をして突き進んでいる自覚はありました。でも振り返ってみれば、その苦労がいい化学反応を生んでいたんですよ。カズも今新しいものを掴もうとしているから、そういう状況なのかもしれないね。
僕が感じている自分の変化は…。実は犍陀多は、原作「蜘蛛の糸」の中でほんのいくつかのセリフしか発していないんですよ。それなのに、あんなにも印象の強い存在になっている。だからこそ想像をかきたてられるし、自分で料理のし甲斐もあります。でも、自分のこれまで得てきた経験や引き出しで勝負しながら作っていくしかないんですよね。これをまたひとつの大きな経験として、引き出しのひとつに加えていきたいです。
役や作品としての経験はもちろんなのですが、僕にとっては今回「カズと一緒にこの2人芝居をやれた」のが財産であり、自信につながっていくと確信しています。
泰江:はい、ピンポン!(挙手)
――はい泰江さんどうぞ!
泰江:たにーには、犍陀多が何を伝えたいのか決めていつもステージに立っているんですか? それとも何も決めずにですか?


――先ほどの「役作り」に関しての深掘りと、舞台上ではどう思っているのか? の質問ですね、ありがとうございます。谷さんいかがですか?(注:回答に作品の核心部分が含まれます)
谷:犍陀多は実際に場所としての「地獄」にいながら、「どうして自分はここに振り落とされたのだろう。なぜ生まれたのだろう」と自問しても答えの出ない地獄にもいたように感じます。芥川先生が紡ぎ出して綴る言葉や文章は、先ほどカズが言ってくれたようにとても重くて質量のある“負”のエネルギーを持っています。心に深く刺さる言葉選びをしているというか…。それらを受けているかのように登場人物である犍陀多も負のエネルギーに満ちていて、芥川龍之介(作中人物)に気持ちを思い切りぶつける。お前も一緒にここに落ちてこい、落としてやろう。そうやって試しながらも「お前もどうせ堕ちるのだろう?」と思っていて、救おうなんてこれっぽっちも思っていない。
泰江:じゃあ、やりとりをする中で感情が動いて、「救おう」と気持ちを持って行っているということ?
谷:そうだね、自然とそうなっているね。カズが言葉を発する芥川龍之介に対して「お前が悪いんだ」「お前が悪かったんだ」と、答えの出ない問いをずっと投げかけ続けて。芥川が言葉を返してきても、さらにたたみかけるように問いを浴びせて地獄に追い込むんです。そして最後の最後に「やっと本音を引き出せた」となる。そこで犍陀多のパーソナルな部分がようやく出て「お前(芥川)にかけてみる」「お前は上がれ、俺は堕ちる」と。そして救いの糸が垂れてきた瞬間に、あいつは本当に書ききったんだ、やるじゃねえか…と顔を見合わせる。そういう感覚です。
泰江:わあ、それは聞いたことがなかった! 死後の世界で犍陀多が見せてくれた奇跡であり、自分(芥川)が生み出した奇跡の話だとは思っていました。そして「どうしてここに連れてこられたんだろう」と自問しながら、相対する犍陀多に全部引き出されて。でも確かに、ものすごく意地悪ですよね(笑)。何を言っても打ち返されるし。たにーにの引き出しをもっと引き出して考えなきゃ太刀打ちできないけれども、そこまでたどり着けたらきっと楽しいだろうな。
――さらに深い所まで知れて、千秋楽までがさらに楽しみになりましたね。最後に、この作品を経てお互いの存在をどう感じているか教えてください。
泰江:お兄ちゃん。すごく安心感があります。同じ空間にいると、怖くても何とかなる気がするんです。実は、地元がまったく一緒なんですよ。見てきた景色も育ってきた環境も同じだから、さらにそう強く感じるのかもしれませんね。
谷:そうだね。地元が同じだと聞いて不思議な縁を感じましたし、心の距離がぐっと近くなりました。初めて出会ったときは「面白いやつが来たな」と思いましたし、それこそ運命の糸がたぐり寄せてくれたような縁を感じています。人生最大の賭けとも言える今作に力を貸してもらって、「命を共にしてくれ」と言える存在。そんな人は、人生の中でごくわずかな人数だと思います。これからも何かをやる時には力を貸してほしいし、そうではなく別々の現場にいても、いつまでも近しい存在である役者だと感じています。
――以上です。すてきなお話をありがとうございました!
(取材・文/広瀬有希)










【公演概要】
タイトル:
『俺がお前で、オマエがオレで〜芥川龍之介・蜘蛛の糸』
企画・プロデュース:
谷佳樹
公演期間:
2026年2月11日(水)~2月15日(日)
会場:
新宿シアターモリエール
チケット料金:
※公式ページ参照(券種複数あり)
作品概要:
芥川龍之介の名作『蜘蛛の糸』をモチーフに、人間の善悪や選択をテーマに描く舞台作品。入れ替わり的な構造を軸にした物語が展開される。
公式サイト:
https://bamdhroe9i.evesta.tokyo/web/portal/1180/event/15236



