【ゲネプロレポート】鬼VS桃太郎、時を超えた血と魂の物語。舞台「桃源暗鬼」開幕

舞台「桃源暗鬼」が、2月17日（土）天王洲 銀河劇場にて開幕した。原作は週刊少年チャンピオンにて連載中の大人気マンガ『桃源暗鬼』。現代に生きる鬼と桃太郎の子孫たちが命懸けのバトルを繰り広げる、新世代ダークヒーロー鬼譚だ。

今作では、主人公・一ノ瀬四季役を『ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-』Rule the Stage（碧棺 左馬刻役）で好演を見せた阿部顕嵐が、脚本・演出をMANKAI STAGE『A3!』等でおなじみの松崎史也が務める。

メディアクトでは、初日前日に行われたゲネプロ（公開通し稽古）を取材した。

ゲネプロレポート

一ノ瀬四季（演・阿部顕嵐）は、養父と暮らす17歳。血の気の多い性格が仇となり高校を中退した四季は、親子喧嘩の最中に白スーツの男・桃屋五月雨（演・松田賢二）の襲撃を受け、自覚がないまま鬼の能力を解放させてしまう。

養父・剛志（演・竹村晋太朗）によれば、昔話でよく聞く「桃太郎」の伝説は事実であり、そこに登場する鬼と桃太郎の子孫は千年以上にわたる戦争を今も続けている。四季は鬼の血を継ぐ子どもで、桃太郎機関と呼ばれる組織に命を狙われていると言う。

唯一の家族である父を失った四季は、自身と同じく鬼の血を継ぐ無陀野無人（演・立花裕大）に導かれ、鬼専用の学校・羅刹学園への入学と、父を殺めた男への敵討ちを決意する。

本作（舞台版）は、この四季と無陀野の衝撃的な対面シーンから始まる。怒りと混乱のままに感情をほとばしらせる四季と、冷静に強さを見せつける無陀野の対比。この温度差にハラハラしているうちに、観客はいつの間にか複雑な背景を持つ物語の世界にスッと入り込んでいる。

主人公の四季を演じる阿部は、深みのある低音ボイスとそれを生かした迫力満点の芝居が光る。四季の持つ、マグマのような泥臭い熱さが内側から滲む好演だ。一方の立花も、無陀野特有の難しい設定を完全に自分のものにしている。ローラースケートを操りながら顔色ひとつ変えずにアクションシーンをこなし、無陀野の強さを見せつけてくる。

また、羅刹学園に集う個性豊かな学生たちにも注目したい。1幕で描かれる「鬼ごっこ」で四季と対立する皇后崎 迅（演・高橋怜也）や、巨大すぎる力を持つ気弱な少女・屏風ヶ浦帆稀（演・綿谷優奈）など、登場する子どもたちはそれぞれに苦悩やトラウマを抱えながらも必死で生きている。

さらに2幕で描かれる「京都編」にも、見逃せないキャラクターが多い。戦闘で負傷した鬼の救護や援護に誇りを持ってあたり続ける鬼機関・京都支部の花魅坂京夜（演・田口 涼）や、鬼を蔑み冷酷な手段で"駆除"しようとする桃宮唾切（演・北村 諒）など。多彩な登場人物たちは、それぞれが自身の物語の主人公であることを、手を変え品を変え披露し、観客の心に焼き付ける。

原作の大きな魅力の1つであるダイナミックなバトルシーンは、ユニークな構造のセットと映像、アンサンブルの緻密な動き、俳優陣による殺陣などを駆使して表現される。とくに京都支部への桃太郎襲撃シーンでは、ステージの「前後・左右」に加えて「上下」まで活かした巧みな演出に唸った。真っ黒な鬼側の衣裳と、真っ白な桃太郎側の衣裳のコントラスト、そして両者を隔てなく染める、ライティングによる鮮血の赤も美しい。

休憩を含め2時間20分の今作。構成の一部は大胆に色付けしつつも、原作の魂の部分はストレートに、大切に届けようと練り上げられた一作である。原作ファンにも、これから原作に触れる人にも、ぜひおすすめしたい作品だ。

公演は、2月17日（土）〜25日（日）東京・天王洲 銀河劇場、2月29日（木）〜3月3日（日）大阪・梅田芸術劇場 シアター・ドラマシティにて上演される。

取材・文：豊島オリカ

© 漆原侑来（秋田書店）／舞台「桃源暗鬼」製作委員会