【ゲネプロレポート】どちらの劇場で目撃する? 役者が新宿の街なかを走る2劇場同時上演舞台『ダブルブッキング2nd!』

リリース情報

4月5日(土)、東京・新宿シアタートップスと紀伊國屋ホールにて舞台『ダブルブッキング2nd!』が開幕。初日に先立ち、公開ゲネプロと囲み取材がおこなわれた。

本作は、2008年7月に初演が上演され、2013年には下北沢に舞台を移し、そして2023年7月に復活上演をした『ダブルブッキング!』の2025年版。複数の劇場で同時に物語が進んでいくスタイルはそのままに、世界観は初演から17年後の2025年現在になっている。

メディアクトは、大ハプニングとともに幕を開けたゲネプロと囲み取材の様子を、撮り下ろしの写真とともにレポートする。(ゲネプロは紀伊國屋ホールにて)

ゲネプロレポート

2025年、新宿・紀伊國屋ホールにて演劇ユニット「ジャッカル」による舞台「スープストッカーSAM」のゲネプロがおこなわれていた。しかし、“はじめから終わりまでをいっきに通して最終確認をする”ゲネプロとは少し様子が違う。役者が来る、来ない。近くにあるシアタートップスに行ってきます、と何やらあわただしい。これは、演劇ユニット「藤雨-hujisame-」の藤崎竜一(演・久保田秀敏)による企画。「藤雨」のシアタートップスでの公演と、紀伊國屋ホールで同時期に上演される「スープストッカーSAM」とで役者が両劇場を行き来して作品を成立させようというものだ。

藤崎は17年前、「天空劇団」柏木幸太郎による「新宿シアタートップスと紀伊國屋ホール両方の舞台に出演する」ダブルブッキングを体験していた。あの時、柏木はダブルブッキングに失敗し、未遂に終わった。でももし、あれが成功すれば…。そして「2つの劇場で役者が行き来する前代未聞の作品が上演される」と前もって世間に知らせていれば、注目を浴びられるかもしれない。人気にかげりが見え始めている中、もう1度這い上がるための、藤崎の挑戦が始まった。初日公演まであと2時間。果たして、この両ユニットによる「ダブルブッキング」公演は成功するのだろうか――?

本作の見どころはやはり、2つの劇場を役者が行き来して作品を成立させるというところ。しかし、「それは大変そうだ」「間に合うのか? ちょうどタイミングが合うか?」という点にだけ注目をしてはもったいない。通常の作品では「その日しだいの間やタイミングのずらし」「アドリブの長さ」などがあっても、その後の調整でリカバリーがききやすい。しかし本作においては、ほんの少しの時間のずれが、2つの劇場でのできごとに大きく関わってくる。リカバリーや軌道修正に倍以上の労力が必要になってくるのだ。何かハプニングが起きたときにそれを察知し、瞬時にどうするべきか対応する、役者の力の見せどころと言ってもいいだろう。

ゲネプロ時、幕が開いて2分ほどでまず遭遇する小さなできごとのときに、本当に「ゲネプロストップします!」とやり直すハプニングがあった。シアタートップスの開幕時間がほんの少し遅れたために、ストーリーが成立できなくなってしまったというのだ。「続けようぜ!」「これも台本どおりかもしれないよ!」と場内関係者大笑いの中での再開となったが、本作がどれだけ繊細なタイミングで成り立っているのかということを改めて感じた。

また、登場人物ひとり1人に物語と共感ポイントがある。注目を浴びて一旗揚げ直し、役者として這い上がりたい者。そんな話題先行のやり方に憤(いきどお)る者。金にならないものに価値を見いださない者、演劇の力を信じている者。誰もが、強い面と弱い面、信じるものを短時間のうちに見せてくれる。彼ら、彼女らの人間的な魅力にもぜひ注目してほしい。ゲネプロや場当たりがどのように行われて、スタッフたちがどのように動き、舞台が作られているのかを知れるきっかけにもなるだろう。

舞台の前にある階段に、足を拭くための雑巾が置いてある。登場人物たちがそれで靴底を拭いていく様子に、どれだけ「舞台」を大事にしているのかが見て取れる。その拭き方や扱い方にも注目を。

過去には下北沢で、本多劇場・「劇」小劇場・小劇場「楽園」の3劇場で公演がおこなわれたこともあった。この新宿の2劇場や下北沢の3劇場のように、走って行き来できる距離で作品を成立させられる立地、同時期に劇場をおさえられる奇跡のタイミング、複数の場所でおこなわれていることをリンクさせられる脚本、劇場を飛び出しても「役」をキープできる役者たちの精神力。これらがすべてかみ合わないと成り立たない、非常に稀有(けう)な作品だ。

2劇場で上演されるとなると、どちらの劇場で? とまずは迷うだろう。「推しが多く出ている方で」と思うファンもいるかもしれないが、例えどちらかの劇場で出番そのものが多くあっても、もう片方の劇場で重大なことをしているケースもある。片方の劇場だけでももちろん楽しいが、両方で観てはじめて、作品の全貌が見えてくる。時間と財布に少しでも余裕があれば、ぜひ両方で観てほしい。

また、劇場間を走る間も芝居は続いているので、役者たちの移動中の姿もぜひ目撃したいところだ。周辺へ充分に配慮した上で「路上観劇」という手段もある。彼らがどのように役をつなぎながら移動しているのか注目を。

囲み会見

ゲネプロの前には囲み会見がおこなわれ、久保田秀敏、馬場良馬、杉江大志、松本幸大、高田 翔、水谷あつしが登壇。本作への意気込みなどを語った。

久保田秀敏(藤崎竜一役)
前作に引き続き藤崎竜一役を演じます。前作の、柏木によるとんでもない企画を見た藤崎が、面白いことをやって演劇界に新しい風を吹かせようとします。作品の中に出てくるいろいろなキーワードを立てながら、伝えることを伝え、心に残る作品にしていきたいです。

今回出てくるふたつの演劇ユニットには、それぞれの特徴があります。僕たちの「藤雨」は絶叫系。常に声を張って大声でお芝居をしています。対する「ジャッカル」はナチュラル系。劇場を行き来する中では、両方の芝居に出る必要があって、稽古の序盤でみんな声を枯らしていました(笑)。

今(会見で)舞台の上にいる皆、30歳超えのメンバーです(笑)。40歳近くなってくるとだんだん心肺機能が落ちてきて…膝や足腰など、いろいろとガタが来ます。ですが、この作品は2劇場を行き来しながらお芝居をしないといけませんから、お芝居と心肺機能を高めることができます。一石二鳥ですね、がんばります。

馬場良馬(菊島永輝役)
2008年の初演から、歴史のある作品です。今回は、歴史をリスペクトしつつ心機一転の続編。新しいキャストたちで新しい稽古期間をつむいできました。お客さまとともに毎公演楽しんでいきたいです。いろいろなハプニングが起こる匂いがぷんぷんしています(笑)。お客さまには、それらを目撃しながら楽しんでいただけたら。

少しの芝居の時間の延ばしやズレが、後にどんどん響いていって全部が間に合わなくなってしまいます。堤さん(脚本・堤 泰之)が頭の中で計算して書いてくださった脚本の中で、役者としてセリフをより良いものにしていくために、みんなでたくさん話し合いました。それをしっかりお客さまへ伝えていきたいです。

稽古中もさまざまなハプニングがありました。でも、この作品にハプニングはつきものです。もしその瞬間にいなければいけない人がいなくても、シーンを成立させなければいけません。その対応力や胆力、チームワークは、稽古を通して身につきましたし、これからの本番でさらに確固たるものになっていくはずです。無事に千秋楽まで駆け抜けられたらと思っています。

杉江大志(松丸 優役)
思いついても普通はやらないようなことにチャレンジする。それに声をかけていただけたのはうれしいですね。難しいことにチャレンジするのは、役者として常日頃気にかけていることです。プロデューサーの難波利幸さんとともに、何とか成功できるようにみんなで稽古してここまでたどり着きました。何よりも、作品の中にある「届けたいメッセージ」をしっかりお客さまに届けられるようにがんばっていきたいです。

この作品で僕は、「お芝居をつなげていく力」が身につくのではと思っています。役者にとって、劇場の空間の中にいるのは重要なことなのですが、今回は、外という日常の空間に入っていかないといけません。お芝居をしたまま日常の空間に入るのはとても繊細なことだと感じるのでしっかりとお芝居をつなげていきたいですね。

松本幸大(興梠浩正役)
興梠(こうろき)浩正はとんでもない人物です。愛のこもった、愛の強い役柄です。堤さんからこの役をいただけてとてもうれしいですし、皆さんがこの人物と作品を少しでも良いなと思ってくれたらいいですね。本作について、いろいろな人に作品の説明をすると「2劇場? どういうこと?」と言われます(笑)。それほどに珍しく、特別なことですし、紀伊國屋ホールとシアタートップスを同時にお借りできて、本番ができるという特別なことを、もっとたくさんの人に知ってもらいたいです。この作品がたくさんの人に愛される作品になるように、全力で演じさせていただきます。

今回の作品で、役柄の幅を広げられたと思っています。新しいキャラクター性、新しいジャンルに挑戦していきたいと思っているので、今回、この役に出会えてよかったと思っています。

高田 翔(日下部浩介役)
2劇場同時上演ということで、ゲネプロでいろいろわかることが出てくると思っています。楽しみながらやっていきたいです。劇中劇の稽古では、どうしたら面白くなるのかをたくさん考えて工夫しながらやっていました。悩んでしまったりしたときも、それを飛び越えるスイッチを押されて、とても実りのある稽古でした。僕は、幕が開いてすぐの冒頭に1分48秒で移動しないといけないので、今とても緊張しています(笑)。

僕はこの作品で、階段を速く上ることや移動中にお芝居を続けていくスキルが身につくのではないかと。普段であれば、劇場の外に出ることはありませんから、外の人やさまざまなことに気をつけながらお芝居を続けていかないといけません。そういう能力が身につくかな、と思っています。

水谷あつし(チャーリー若松役)
2008年の初演から携わらせていただいています。初演でシアタートップスと紀伊國屋両方の劇場に立ったときも、本当に幸せだと思いました。当時は、歌舞伎町には新宿コマ劇場とシアターアプル(ともに2008年に閉館)というすてきな劇場がありました。新宿もずいぶんと変わりました。今回、この両劇場で公演ができるのを本当に幸せに感じています。前回も楽しい作品でしたが、今回も胸を張って自信たっぷりに公演ができます。

初演は7月、真夏の暑さの中を走りました。下北沢では1月。雪の中を走りました。2023年の再演は7月の38℃の中を走りました。今回は春です、優しい時代になりました(笑)。でも、前回以上に行き来が多いです。客席でその行き来を見守ってくださるお客さまの高揚感や一体感を感じ取れると思いますので、今年還暦ですが頑張って走っていきます。千秋楽までよろしくお願いいたします。

<公演概要>

『ダブルブッキング2nd!』

作・演出:堤 泰之
公演日時:2025年4月5日(土)~4月13 日(日)
会場:新宿シアタートップス(東京都新宿区新宿3-20-8 WaMall TOPS HOUSE ビル4階)
紀伊國屋ホール(東京都 新宿区 新宿3-17-7 紀伊國屋書店新宿本店4F)
※2劇場同時上演

出演:ジャッカル
《キャスト役》
菊島永輝:馬場良馬
松丸 優:杉江大志
日下部浩介:高田 翔
秦 邦和:三好大貴

《スタッフ役》
グエン・ヴァン・ミン:村田洋二郎
三木健太(舞台監督助手):工藤大夢
磯部謙作(舞台監督):海老澤英紀
生部桐子(作・演出):井川花林
小久保麻耶(衣裳):内田敦美
田村 楓(制作):森高菜月

藤雨‐hujisame‐
《キャスト役》
藤崎竜一:久保田秀敏
興梠浩正:松本幸大
岬エリカ:難波なう
一之瀬るみ:高橋紗良
河合静代:moca

《スタッフ役》
井出嘉郎(演出助手):佐伯 亮
陣内真琴(制作/藤崎の事務所社長):竹本かすみ
熊野三千子(舞台監督):堀江あや子
石沢富之(制作):月田悠貴
チャーリー若松(元天空旅団座長代理):水谷あつし

チケット(全席指定・税込): シアタートップス 8,000円/紀伊國屋ホール S席7,000円 A席5,500円
https://confetti-web.com/@/db_2025

公式サイト:https://no-4.biz/db2nd/
公演に関する問い合わせ:株式会社エヌオーフォー【NO.4】 info@no-4.biz
企画・制作:エヌオーフォー【NO.4】
宣伝:キョードーメディアス