【インタビュー】『Shoulder pads -GALAXY TRAIN- Japanese musical theatre』世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」にて上演

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異国の地、スコットランド・エディンバラ。この街で「劇団鹿殺し」が歴史的な快挙を成し遂げた。
結成25周年という節目を目前に、彼らが挑むのは毎年エディンバラで開催される世界最大の芸術祭「エディンバラ・フェスティバル・フリンジ」。

上演作品は『Shoulder pads -GALAXY TRAIN- Japanese musical theatre』。宮沢賢治の児童文学『銀河鉄道の夜』を題材にインターナショナル版として再構築された本作は、日本の小劇場演劇が持つ想像力と、劇団ならではの圧倒的なクリエイティブが炸裂する作品だ。現地メディアはこぞって称賛を送り、初日からチケット完売という記録をいまも更新し続けている。

メディアクトでは今回、作家・演出家・俳優として舞台を牽引する丸尾丸一郎と、俳優・島田惇平の2人に現地取材を実施。歴史の只中に立つ彼らのリアルな声、そして未来への展望などを語ってもらった。

 
― エディンバラに来て3週間が経ちました。今の心境はいかがですか?

島田:生活や舞台のリズムも整って、ようやく地に足がついたなと感じます。あまりに怒涛の日々で、最近になって「もうすぐ終わっちゃうんだ」と気づいたくらいです。

丸尾:日本で稽古をしていた時は、試行錯誤ばかりで時間がゆっくりに感じることもありました。でもこちらに来てからは充実している分、あっという間ですね。日本でやってきたことは間違いじゃなかったと再確認できましたし、旗揚げの頃を思い出します。
昔はチラシを配ったり貼ったりしていましたが、最近はそういうことはしないじゃないですか。でもここでは、広報活動がダイレクトに客席につながる。この手応えが面白くて、日本でもまた新しい気持ちで演劇に取り組めるのではと思っています。


― 劇場でも路上でも、お客さんの歓声がすごいですね。日本での反応と比べて、違いを感じることはありますか?

島田:日本でもお手紙やアンケート、SNS、もちろん芝居の最中にもお客さんの反応や空気を感じ取りながら舞台に立っていますが、こちらはもっと直接的ですね。公演中にお客さんが話したり大声で笑ったり、とにかく反応がわかりやすいんです。メディアの動きも早くて、「これは面白い」と判断するとすぐに記事を書き、星をつけて評価してくれます。
実際僕は、作品の純粋な評価以外の要素が絡まりすぎないところで、何かを見たり選んだりしたいと思っているから、劇評や受賞歴といったものを指標にした事は一度もなくて。ここエディンバラという地では誰もがフィルターを付けずに忖度なしに、純粋に作品を観て正当な評価を下す。何者であろうが関係ない。実際、異国の地で誰も僕達を知らない中でメディアを含めた世界中のお客さんからありがたい事に大絶賛を頂いている。

 こういった純粋で正当な状態、良い作品、いいアーティストがちゃんと評価される環境はとても羨ましいしモノツクリをして生きる上でも生きた心地がします。


― 上演開始以来、多くのメディアで絶賛されていますね。チケットも初日から連日の完売が続いています。ずばり、その勝因はどこにあったと思いますか?

丸尾:日本でも「これは面白いぞ」という手応えを感じてはいましたが、初日で確信に変わりました。狙って作ったものがきちんと響いていて、自信につながりましたね。勝因は……やっぱりビジュアルかな(笑)。

島田:ビジュアルでしょう(笑)。僕たちがお世話になっているThistle Theatreは、四大劇場と呼ばれているメジャーどころではなく、いわゆるインディーズの劇場です。そんな場所で、しかも初参加の日本の劇団が初日から完売するなんて「歴史上ありえない最高の出来事だよ」と劇場の人たちからも言われています。本当に嬉しいですね。

丸尾:もちろん大きな劇場で観てもらうのも夢ですが、この作品は500席を超えるとダメだと思う。観客とドキドキを共有できる距離感が大事なんです。

島田:そうですね、見えるか見えないかくらいの距離感がいい(笑)。今の劇場はまさにぴったりだと思います。

― 今日までの活動の中で、心に残っているエピソードはありますか?

島田:初めてオールスタンディングオベーションをいただいた日のことが、特に心に残っています。最前列に車椅子のお客さんがいらっしゃったんですが、その方も杖を使いながら必死に立ち上がろうとしていたんです。その姿を見て、単なるコメディではなく、僕たちが本当に届けたい物語の真髄がしっかり届いたんだと実感できました。結局その方は立つことはできなかったのですが、立って称えようとしてくれた気持ちに感動して、カーテンコール中に泣いてしまいました。

丸尾:JP(島田)がいいことを言ってくれたので、僕は初めての路上パフォーマンスの話をしますね(笑)。最初に路上で披露したのは「タオパイパイ」という曲だったんですが、お客さんがきょとんとしていて……いい意味での苦い経験になりました。
成功よりも失敗の方が糧になるので、強く印象に残っています。The Scotsmanの星も4つでよかった。最高の5つをもらっていたら、逆にやり切った気持ちになっていたかもしれません。

― タオパイパイは……滑ったんですか?

丸尾:滑りました!(笑)

島田:本当に何も響かなくて、ただ僕の喉が削られただけ(笑)。2日目にして声が出なくなりそうだったんですが、そこからの巻き返しが大きかったですね。同じ日に2回路上パフォーマンスをやったんですが、2回目は修正して今の形にうまく落ち着きました。

丸尾:でも、もう声は復活したんじゃない? そろそろまたやってみる?

島田:いや、もういいです。あれはね、たぶん響かないです!やっぱり駄目だったって再確認するだけだと思うんで(笑)。

― さまざまな経験をされてきたと思いますが、この経験は今後の活動や作品づくりにどのようにつながると考えていますか?

丸尾:まず、11月30日からの凱旋公演につながると思っています。下北沢で上演するんですが、今までよりいろんなことにチャレンジしてもいいのかなと考えていますし、日本のお客さんの反応がどうなるか楽しみですね。今回の経験を経て、今後の作品はもっと自由に作れると思ったんです。たとえば起承転結があって物語がしっかりしている作品ではなく、もっと感覚的にアプローチしていいんだ、という可能性が見えてきました。日本でも常々思っていたんですが、「より自由に作っていいんだ」と思えるようになりました。

島田:このフェスティバルには世界からたくさんの人が集まってきています。わざわざエディンバラに来てまで舞台に立つくらいだから、当然、生半可ではなく熱いものや希望を持っている人たちばかり。空き時間にいくつか足を運びましたが、運よくそういう人たちが作る作品に出会えています。みんな自由で狂気的で、でもすごく冷静でクレバーなんですよね。日本の仕事でもすごい人たちには当然出会いますが、世界って広いなと改めて思いました。
もちろん彼らの姿をそのまま真似するつもりも、日本に帰って同じようなことをするつもりもありません。でも、丸さんが言ったように「もっと自由になっていいんだ」と思いました。よりお客さんを信じて、委ねていいんだな、と。ショルダーパッズは一見ふざけているけど、実はすごく緻密に作っていて、それがうまくはまっているから盛り上がっているんだと思います。そういう計算ももちろん大事ですが、それに加えて「お客さんに委ねて、わがままな芝居をしてもいい。お客さんを信頼していいんだ」と思えました。日本に帰っても、この気持ちを大切にしたいですね。


― これまでの経験を踏まえて、今後の目標や挑戦してみたいことについて教えてください。

丸尾:僕は、実はもともと海外志向ってそんなになかったんです。でも今回の経験を経て、いろんな場所で、いろんな人に僕たちの作品を観てもらいたいという気持ちが生まれました。もし望んでいただけるなら、どこにでも行きたいです。
そこでパフォーマンスを観てもらうのはもちろんですが、その土地の空気を吸ったり風景を目にしたりすることが、自分の中の創作意欲を育ててくれるんだと気づきました。まだ出会ったことのない土地に行ってみたいという、新しい目標ができました。

島田:まず近いところでは、今僕たちの団体で掲げている「星50個」「観客数1000人」「海外招聘される」という目標をすべて達成したいです。
それから、丸さんが話したように、この作品をもっと多くの人に観てほしいと思っています。いろんな土地の空気を感じることが自分に変化を与えてくれる経験につながってきたので、これからもたくさんの場所に足を運びたいですね。
より挑戦できる場所に自分を連れていって、無理なんじゃないかと思えることにも挑み続けたい。それは目標であると同時に使命であり、僕が表現者として生きるうえでの戒めのようなもの。常々思ってきたことですが、今回の経験でその思いがより強くなりました。


― 最後に、ファンの方々へメッセージをお願いします。

丸尾: クラファンでご支援くださった方も、陰ながら応援してくださっている方も、本当にありがとうございます。皆さんのおかげで、こうしてチャレンジすることができました。残すところあと一週間ですが、期待を裏切らないよう最後まで精一杯頑張ります。
僕は日本という国も人も大好きです。誠実で丁寧で美しい人たちだという印象は、こちらに来てからも強く感じています。もっと日本の良いところや文化を広げて、日本に来てもらえるようにもなりたい。僕たちは正統派とは言い難い、どちらかといえば異端ですが、それでも日本の文化を広げていけるよう頑張っていきたいと思います。

島田: クラファン、本当にありがとうございました。実は僕、クラウドファンディングにはこれまであまり乗り気じゃなかったんです。お客さんに支援してもらって作品を作ることに、どこか引っかかりがありました。でも今回はたくさんの支援をいただけたおかげで、多くの人に作品を届けられたし、僕自身にとっても鹿殺しの仲間にとっても、かけがえのない経験になりました。
支援してくださった方だけでなく、これまで応援してくださったすべての人のおかげで、僕はこの場に立てています。今までは「すべて自分の責任だ」というスタンスで演劇をやってきました。自分で作品を作ったりお金を工面することもあるし、そうやってどうにか作品を観てもらっていました。でも今回初めていろんな人の気持ちを背負って表現する立場になり、プレッシャーを感じる反面、それ以上に大きな力をもらいました。

一人なら挫けたり諦めたりしていたかもしれない。でも「頑張れ!」ってボディブローを喰らわせてもらったように感じて、この一ヶ月を甘えることなく過ごすことができました。これで終わりにせず、必ず今後につなげて、凱旋公演では進化した僕たちをお見せします。もっと良い作品を届けられるように、改めて強く思いました。応援、本当に感謝しています。ありがとうございました。


現地で大きな称賛を受けた彼らだが、その裏にはきっと多くの困難や試練もあったに違いない。けれどそれらをすべて糧に変えて歩む姿は、これまで大切にしてきた精神を守りながらも、確かな成長と新たな力強さを感じさせてくれる。飾らずひたむきに語られる言葉は真っ直ぐで、聞いている者の心を揺さぶるほどに魅力的だ。

彼らなら日本でも、きっと大きな成功を掴むだろう。

心からそう信じさせてくれる役者が、この世にどれほどいるだろうか。演劇を愛する人々にとって、彼らはまさに希望の星といえる存在だ。

まずは11月に予定されている凱旋公演で、さらに進化を遂げたショルダーパッズに出会える日を楽しみに待ちたい。文字通り“その身ひとつ”で放たれる熱と輝きは、言葉以上の説得力をもって観る者の胸を打つに違いない。ぜひ劇場に足を運び、奇跡の瞬間を確かめてほしい。

取材・文・写真:水川ひかる

<公演概要>
Shoulder pads
『1 Shoulder pads -GALAXY TRAIN- Japanese musical theatre』

原作:宮沢賢治『銀河鉄道の夜』
脚本:丸尾丸一郎
演出:菜月チョビ

音楽:タテタカコ、伊真吾
振付:伊藤今人、浅野康之

出演:菜月チョビ、丸尾丸一郎、橘輝、浅野康之、島田惇平、谷山知宏

制作:高橋戦車、補佐1名

コーディネーター:徳丸ゆいの

(北村想 作「想稿銀河鉄道の夜」からの一部引用あり)