【公演レポート】江戸川乱歩による長編探偵小説を全員男性が演じるオールメイルを取り入れた「黒蜥蜴〜Burlesque KUROTOKAGE〜」

2025年2月8日(土)に、東京・こくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロにて「黒蜥蜴〜Burlesque KUROTOKAGE〜」が開幕した。
原作は江戸川乱歩による長編探偵小説。今まで何度もメディアリミックス化、舞台化を繰り返してきた本作が、また新たな世界観で描かれる。
脚本を務めるのはドラァグクイーンで作家、脚本家、歌手とさまざまな顔を持つエスムラルダ。演出は劇団鹿殺しの丸尾丸一郎が務める。音楽や歌、ダンスといったショーの要素、登場人物を全員男性が演じるオールメイルを取り入れた今作は、主演の黒蜥蜴を雷太と島田惇平のダブルキャストが演じる。雷太は明智小五郎も演じるという多彩な組み合わせも公演前から話題を呼んだ。
メディアクトでは、2月10日に行われた公演の様子を劇中写真と共にレポート。
公演レポート
会場内は薄暗く、開演前から妖艶な雰囲気が漂っている。
舞台の両脇をバーレスク席が囲むなかなか見ない配置に、幕が上がる前から期待が高まるだろう。バーレスク席に座る観客には、煌びやかな仮面が用意されている。視線の高さはステージとほとんど同じ。距離も近く、より舞台への没入感を感じることができる。ショーの観客、あるいは黒蜥蜴の収集する美術品の一部になるような、不思議な気分を味わうことのできる席だ。
開演の10分程前から客演も始まるため、座席問わず早めに劇場に足を運ぶことをおすすめしたい。

舞台はクリスマス・イブのパーティーから始まる。
一座から崇められる黒衣の夫人・黒蜥蜴(演:島田惇平)は忠実な部下である雨宮潤一(演:菊池修司)らと共に大阪の宝石商・岩瀬庄兵衛(演:右近健一)の娘・早苗(演:大崎捺希)の誘拐を企てる。

脅迫状に脅え、岩瀬は私立探偵の明智小五郎(演:雷太)を雇うことに。東京のホテルに身を潜める早苗たちに、黒蜥蜴は「緑川夫人」の名を騙り近づいた。
早苗の誘拐の可否について、黒蜥蜴は明智に賭けを挑む。早苗が攫われた場合、明智は探偵業を廃業すると約束した。
変装した潤一と共に黒蜥蜴は早苗を誘拐することに成功したかのように見えたが、明智の方が一枚上手だった。黒蜥蜴はかろうじて逃亡するが、終生の好敵手となる2人の戦いは続く。
敗北から半年後、黒蜥蜴は人間椅子のトリックを駆使して早苗を誘拐することに成功。戦いの舞台は、ある場所の地下に造られた黒蜥蜴のアジトへと移り変わる。

黒蜥蜴と明智、奇妙な関係で結ばれた2人の結末は知る者も多いだろう。しかし、今作ではまた新しい結末に立ち会える。ここでしか見られない2人を、ぜひその目で見届けてほしい。

黒蜥蜴の腹心の部下、雨宮を演じるのは菊池修司。人殺しの罪を犯したところを救われたことをきっかけに、黒蜥蜴に心酔している。黒蜥蜴を見つめる眼差しに宿る光に注目したい。性別を越えて黒蜥蜴に向けるひたむきな感情が胸を打つ。
秀でた美しさを理由に黒蜥蜴に狙われることになる早苗は、本公演では前嶋曜が演じた。前嶋が登場した瞬間、今作がオールメイルであることを一瞬忘れてしまいそうになる程美しい。陶器のような肌も細い手足も、何もかもが一級の美術品のようである。黒蜥蜴に狙われるのも納得の美貌だが、前嶋が演じる早苗の魅力は外見の美しさだけにとどまらない。内側から溢れる清廉さ、透明感が眩しい。ダブルキャストの大崎捺希も文句なしの可愛さなので、両キャストの早苗を見てほしい。

黒蜥蜴を演じる島田惇平は、肉体のすべてを駆使した表現が魅力のひとつ。
筋肉や関節のひとつひとつまで自在に操る身体表現が、変幻自在の黒蜥蜴の異質さを際立たせていた。惜しみなく肌を露出した衣装も多く、性別不詳の倒錯的な美しさが漂う。近年歌唱力も増しており、加速度的に成長する姿に今後も注目したい。
怪しく美しい雰囲気をまとった黒蜥蜴は、一瞬も目を離すことのできない魅力を放っている。力強い眼差しや一挙一動に心を奪われる観客も多いのではないだろうか。前歴や本名、その他すべてが一切不明の美貌の盗賊として完成された島田の黒蜥蜴はカリスマ性に溢れているが、それだけでは終わらない。狂気の合間に垣間見える哀愁も見どころだろう。場面毎に表情や声調子ががらりと変わる芝居は大胆かつ繊細で、黒蜥蜴が心の内に飢えを抱えていることも伝わってくる。

黒蜥蜴の孤独に寄り添う存在となるのは、雷太演じる明智小五郎。稀代の名探偵であり、人の心の闇を暴くことが彼にとって正義の前に愉悦でもあるようだ。
皺ひとつないグレーのスーツや髪の毛を櫛で整える仕草などから生真面目さがうかがえるが、その内側には黒蜥蜴と同じく満たされない飢えがある。
対極のようで根底に通じるものがある2人は、いつしか互いに惹かれ合っていく。お互いに執着する姿は恋をしているようにも見えるし、まったく別次元の感情で結ばれているようにも見える。
オールメイルという性別を越えた要素も、2人の感情にあらゆる名を与えてくれるようで面白い。
また、今作はWキャスト。他公演の組み合わせももちろんオススメである。
雷太が演じる黒蜥蜴は、ヒール込で2m近い長身となる。舞台に立った際の存在感は、さすがの一言に尽きる。暗黒街を駆ける黒衣の天使、女王という表現がよく似合う。
神尾晋一郎が演じる明智小五郎は、正統派の名探偵という印象が強い。黒蜥蜴と正面からぶつかり合う真っ直ぐさが眩しく見えた。平野良が演じる明智はとにかく癖が強く、今まで見たことがないようなアプローチが印象的。神尾の演じる明智が光ならば、平野が演じる明智はどこか影を感じさせる。
俳優や組み合わせによって作品全体の雰囲気が大きく変わるため、複数回の観劇をぜひおすすめしたい。
舞台「黒蜥蜴〜Burlesque KUROTOKAGE〜」は、2月16日(日)まで東京・こくみん共済 coop ホール / スペース・ゼロににて上演される。当日券、配信チケットの販売もある。
アンダーグラウンドで繰り広げられるまったく新しい「黒蜥蜴」の世界に飛び込んでみてはいかがだろうか。
公演写真








取材・文:水川ひかる/写真:ケイヒカル
公演概要
CCCreation Presents
提携公演:こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
黒蜥蜴
Burlesque KUROTOKAGE
原作:江戸川乱歩
脚本:エスムラルダ
演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
出演:
雷太 平野良 神尾晋一郎 島田惇平
菊池修司 大崎捺希 前嶋曜
右近健一
鮫島拓馬 笹川幹太 伊藤奨
大城麗生 橘 愛斗 内田祐真
※黒蜥蜴・明智・早苗の3役以外はシングルキャストとなります。各公演の出演者は公式ホームページにてご確認ください。
公演日程
2025年2月8日(土)~16日(日)
会場:こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロ
チケット情報
【公演前半 2/8(土)~2/11(火)マチネ公演】(各組初日)
バーレスク席(仮面付):12,000円(税込)
アフターパンフ付き:14,000円(税込)
S席:9,500円(税込)
アフターパンフ付き:11,500円(税込)
A席:7,000円(税込)
アフターパンフ付き:9,000円(税込)
U-22:3,500円(税込)
アフターパンフ付き:5,500円(税込)
【公演後半 2/11(火)ソワレ公演~2/16(日)千穐楽】
バーレスク席(仮面・特典付):13,500円(税込)
アフターパンフ付き:15,500円(税込)
S席(特典付):11,000円(税込)
アフターパンフ付き:13,000円(税込)
A席:9,500円(税込)
アフターパンフ付き:11,500円(税込)
U-22:4,500円(税込)
アフターパンフ付き:6,500円(税込)
一般販売
販売開始日:2025年1月12日(日)10:00~
【チケット購入】
ローソンチケット:https://l-tike.com/kurotokage/
※アフターパンフ付きチケットはローソンチケットのみの取り扱い。
イープラス:https://eplus.jp/kurotokage/