【レポート】岸田國士戯曲賞を受賞した伝説的戯曲『熱海殺人事件』上演!

レポート

2025年4月30日(金)、つかこうへいの名作『熱海殺人事件』が東京・新宿シアタートップスで上演される。

本作は、1973年につかこうへいが発表し、翌年1974年に最年少で岸田國士戯曲賞を受賞した伝説的戯曲。​今回の公演は、松村彩永のプロデュースにより実現し、過去にも本作を手がけた経験を持つ錦織が演出を担当する。​

初日に先立ち、メディアクトではゲネプロ公演の模様を劇中写真とともにレポート。​

物語は、熱海で発生した殺人事件を軸に展開する。​部長刑事・木村伝兵衛(演:宮原奨伍)、富山から赴任してきた新任刑事・熊田留吉(演:渋谷天笑)、婦人警官・水野朋子(演:松村彩永)の3人が、容疑者・大山金太郎(演:新井元輝)を取り調べ、「一流の犯人」として仕立て上げていく——。​

一見するとサスペンス調の展開だが、つかこうへい独特のテンポの良いギャグ、アングラ的精神、社会批判を含んだメタ演出など、エンターテインメント性の高さも本作の魅力。​物語の終盤には、観客の価値観を揺さぶる衝撃的なラストが待っている。​
つかこうへい作品の特徴でもある、独特な言い回しとリズム感ももちろん健在。​登場人物4人のセリフ量は膨大で、誇張ではなく“話しっぱなし”の状態が続く。​最初は馴染みのない口調に戸惑う観客もいるかもしれないが、芝居が進むにつれ、言葉の波が心に自然と入ってくる。​錦織による巧みな演出と、俳優陣の熱量によるところが大きいだろう。

木村伝兵衛を演じる宮原奨伍は、冒頭から強烈な存在感を放つ。​セリフ量の多さに加え、時に激情を、時に哀愁を漂わせ、令和の時代では許されがたいような理不尽さすら愛すべき人間臭さに昇華させる。​観客を物語の世界へと引き込む力を持った演技力は今作も健在。​

熊田留吉役の渋谷天笑は、松竹新喜劇で培った安定感のある芝居と、巧みな間の取り方で観客を惹きつける。出世欲を露わにしたかと思えば、故郷に残した婚約者への純朴な想いを語るなど、複雑な心情の揺れを丁寧に表現し、観客の心を打つ。物語全体のテンポを巧みにコントロールし、舞台を心地よく牽引する存在だ。

水野朋子を演じる松村彩永は、プロデューサーとして作品全体を支えながら、舞台上では女優としての情熱と存在感を余すところなく発揮している。紅一点として放つ凛とした美しさと芯の強さが物語に鮮やかな彩りを添えていた。

大山金太郎を演じる新井元輝は、つかこうへい作品に初挑戦ながら、殺人の動機に潜む純粋さと狂気、その紙一重の危うさを繊細に演じ、観客を惹き込む演技が物語の緊張感を高めていた。​

個性豊かな登場人物たちが織り成す舞台の上演時間は、休憩なしの2時間10分。客席と舞台の距離が近く、声を張っても大きい音楽が流れてもちょうど良く感じることの出来るシアタートップスでこの熱量を浴びられるのは何とも贅沢な体験である。

『熱海殺人事件』は、これまで多くの演出家や脚本家によって多様なバージョンで上演されてきたが、今作は錦織と元北区つかこうへい劇団の蓮見正幸が脚色を担当した「クォリファイングトライアル」バージョンである。セリフを発するキャラクターの違いなど、過去作を知るファンにとっては興味深く、また初めて『熱海殺人事件』に触れる観客にも十分楽しめる内容となっている。
本作の演出を手がけた錦織は、常につかこうへいの存在を意識しながら作品と向き合っているのだろう。その敬意が演出の随所に感じられ、つか作品ならではの鋭さや熱量を保ちながらも、俳優陣に新たな彩りを与えている。つか作品に対するリスペクトを礎にしつつも錦織らしい演出がしっかりと息づいており、観る者を惹きつける魅力にあふれていた。

令和の時代、大都会・新宿のど真ん中でありながら、舞台上にはどこか退廃的な空気が漂う――そんな世界観を、今だからこそ味わう価値がある。台詞の応酬に圧倒されるかもしれないが、言葉の裏にある感情や、役者たちの魂のぶつかり合いを、ぜひ全身で受け止めてほしい。ゴールデンウィークのひととき、この唯一無二の舞台を体感してみてはいかがだろうか。

 

取材・文:水川ひかる/写真:ケイヒカル

『熱海殺人事件』
作・つかこうへい 演出・錦織一清

●あらすじ
部長刑事・木村伝兵衛(宮原奨伍)、富山から赴任してきた新任刑事の熊田留吉(渋谷天笑)、そして婦人警官の水野朋子(松村彩永)が、熱海で起きた殺人事件を捜査していく中で容疑者・大山金太郎(新井元輝)を取り調べ "一流の" 犯人として仕立て上げていくーー。 1973年に若きつかこうへいが生み出し、翌年には最年少で第18回岸田國士戯曲賞を受賞した不朽の名作。

●出演
木村伝兵衛 役 / 宮原奨伍 
熊田留吉 役 / 渋谷天笑 
水野朋子 役 / 松村彩永 
大山金太郎 役 / 新井元輝 (敬称略)

●スタッフ 
美術:STAGE COMPANY 
照明:大場正之 
音響:若松裕子 
舞台監督:逸見輝羊 
宣伝写真:福岡諒祠(GEKKO)
宣伝美術:小笠原玄 
HP制作:宮川真季 
票券:川井麻貴(シーボーズ)
制作:nu-ta 
企画/プロデューサー:松村彩永
主催:株式会社アンクル・シナモン

●協力
つかこうへい事務所/株式会社ヴィヴィド・サウンド・コーポレーション/松竹株式会社/(有)SHIN ENTERTAINMENT/吉本興業株式会社/北区AKT STAGE /本所松坂亭/KISHIDOUBU (順不同)

●公演スケジュール
公演期間:2025年4月30日(水)〜 5月4日(日)
4月30日(水)14:00/19:00 
5月1日(木)  14:00/19:00 
5月2日(金)       ー/19:00 
5月3日(土) 14:00/19:00 
5月4日(日) 15:00

*受付は開演の45分前、客席開場は開演の30分前となります。 
*開演時間を過ぎてからのご来場は指定のお席にご案内できない場合がございます。予めご了承ください。 
*小学生未満のお子さまのご入場はご遠慮ください。

●チケット料金(全席指定・税込)
・プレミアム席 10,000円【特典付】
・スタンダード席 6,500円

●チケット購入ページ(CoRich)
https://ticket.corich.jp/apply/353624/

●チケットの問合せ先
票券担当:シーボーズ  川井麻貴 
yoyaku1@seabose.co.jp
〒130-0026 東京都墨田区両国2-9-5TKF第2会館 2F
TEL/FAX 03-3635-8686 携帯070-6427-8787

●特設HP
uc-atami2025.info  

●場所
新宿シアタートップス 
〒160-0022 新宿区新宿 3-20-8 WaMall TOPS HOUSE ビル4F 
TEL:03-6457-4083(劇場ロビー・主催者直通/公演期間中のみ)

●アクセス 
JR・小田急・京王 新宿駅東口 徒歩 5 分 
東京メトロ丸ノ内線 新宿三丁目駅 徒歩 3 分
西武新宿線 新宿駅南口 徒歩 5 分