【ゲネプロレポート】不思議な島と石、ローズマリーに想いを馳せて…歌が紡ぐ物語 One on One 36th note『呼吸する島』

レポート

 

One on One 36th note『呼吸する島』が、6月19日(木)に赤坂RED/THEATERにて開幕。初日に先立ち公開ゲネプロがおこなわれた。本作は、浅井さやか主宰のオリジナルミュージカルカンパニー One on Oneが2006年に14th noteとして上演した『呼吸する島』のリメイク版。「再生島」と呼ばれる、とある島にまつわる物語だ。

メディアクトでは、ゲネプロ公演の様子を撮り下ろし写真とともにレポート。ストーリーのネタバレには触れないが、この繊細な物語の初見を大事にしたい読者は記事の閲覧にご注意を。

念じたものを出現させられないなど、落ちこぼれ魔法使いの卵のソウマ(演:今牧輝琉)。ソウマはある日浜辺で、ひとりの女性(演:高橋花林)が倒れているのを見つける。自分の名前はもちろん、その他の記憶も一切持っていないその女性は、手に「エマ」と読める字が書かれた小さな箱を持っていた。彼女の笑顔が見たいと願ったソウマは、彼女を「エマ」と呼び、面倒を見ることに。

ソウマは何日も周囲にエマのことを聞いて回るが、手がかりはまったく見つからない。残る可能性は、海の向こうにある“あの島”――。「もしかしたら彼女は、あの島から来たのかもしれない」。ソウマはエマと出会うと同時に、海から流れてきたと思われる、不思議な色をした美しい石を浜辺で拾っていた。

ある日ふとその石をソウマがエマに見せるとエマはひどく怯え、笑顔を見せなくなってしまう。自分に襲われる悪夢を繰り返し見るエマ。自分は空っぽだ、きっと何か大事なものをどこかに置いてきたのだとエマは苦しむ。「記憶を取り戻したい」。そう願ったエマは、ソウマとともに“あの島”へ渡ることを決意する。

果たして、「再生島」と呼ばれるその島には、何があるのだろうか。そして、エマの記憶は戻るのだろうか――。

落ちこぼれの魔法使い・ソウマを演じる今牧は、優しく自分の気持ちに素直なソウマにはまり役。大きな困難や苦難を乗り越えて、少年期の考え方から青年へと短期間で移り変わっていく様を見事に表現している。まだ少し少年らしさを残していたソウマが、自分の力ではどうにもならない事実に直面し、それを認めて飲み込んでいく表情とたたずまいの変化に注目してほしい。

特筆したいのは、イベル/魔物役の泰江和明。イベルの悲しいまでの純粋さとまっすぐさが物語を大きく動かすのだが、演じる泰江の笑顔がまぶしければまぶしいほどに、その後に起こるできごとを思うと胸を締め付けられる。また、ふたつの感情と欲が自分の中で渦巻き抗い、戦っている様を表現した身体の動きは見事のひとこと。ひと目で、イベルの中で何が起こっているのか、そして彼が「自分ではないもの」に負けまいとしているのかが分かる。泰江の元々の身体能力の高さと、彼自身が本来持つ善良性を感じさせる笑顔と芝居が、イベル/魔物役を演じる上で大きなポイントとなっている。

また、吟遊詩人役の内藤大希の歌と芝居にも触れたい。大筋としては吟遊詩人として、彼が過去を振り返る形でこの物語は進んでいく。そのため、吟遊詩人であり、ときには物語の中のさまざまな登場人物として登場するのだが、プリンシバルとしてアンサンブルとして、ストーリーテラーとして、役としての色を出したり透明になったり、ときには物語をつないでいく役目として、非常に大きな役割を果たしている。歌のうまさは言うまでもなく、彼の歌声でその場が、さざ波が打ち寄せる浜辺にも、水平線を感じさせる広い海にもなる。劇中8割以上が歌唱で構成されていると言ってもいいほどに歌唱の多いこの作品において、内藤の存在がこの物語にさらに深みとあたたかさを加えていると言ってもいいだろう。

170席ほどの比較的小規模な劇場で観るには、何ともぜいたくな作品だ。役者の息づかいひとつも間近で聞こえ、体の動きも細かいところまで目でとらえられる。優しく繊細、かつダイナミックな歌声が劇場いっぱいに響いたかと思えば、丁寧な脚本と芝居が紡ぐストーリー展開に胸を押しつぶされそうになる。

本作は、「物語」は時間の流れとできごとから生まれるのではなく、人の感情の動きによってできごとが起こって物語となっているのだと、ひしひしと感じさせてくれる。愛があるからこそさまざまな喜びが生まれ、同時にほんわずかなボタンの掛け違えで大きな悲劇が生まれることもある。すべての謎がとけて幕が下りた瞬間、また頭から通して観たくなる作品だ。

ローズマリーは、ラテン語の「海のしずく」がその名の由来とされている。何度も歌詞に出てくる「ローズマリーの花言葉」を観劇後に少し検索するだけでも、思い出がより深まるに違いない。 公演は6月29日(日)まで、赤坂RED/THEATERにて。

取材/文:広瀬有希・写真:ケイヒカル

■公演概要
One on One 36th note『呼吸する島』

【期 間】2025年6月19日(木)~6月29日(日)
【劇 場】赤坂 RED/THEATER
【作・演出・音楽】浅井さやか
【キャスト】 ソウマ役:今牧輝琉
カイト役:安井一真
イベル/魔物役:泰江和明
エヴァ役:門山葉子
エマ役:髙橋果鈴
シーラ役:蔵重美恵
メイ役:田宮華苗
アンナ役:千田阿紗子
吟遊詩人役:内藤大希
演奏:はんだすなお

【公演スケジュール】
【制作】Sproject
【制作協力】ネルケプランニング/アンデム
【企画・製作】One on One/Sproject
【チケット料金】8,000円(全席指定/税込)
【チケット発売】2025年3月23日(日)10:00~
【チケットに関するお問い合わせ】Mitt
TEL:03-6265-3201(平日12:00~17:00)
【公演に関するお問い合わせ】アンデム
TEL:03-4400-4098
MAIL:oneonone@and-em.net
【公式サイト】https://oneonone.jp/
【公式X】https://x.com/OneonOne_staff