【オフィシャルレポート】舞台『SAKURA CATS』人間と猫、それぞれの視点から描かれる命の尊厳と共生

レポート

2025年6月25日、東京・すみだパークシアター倉にて、舞台『SAKURA CATS』の初日公演に先立ち、ゲネプロが行われた。野良猫を地域で見守る「さくらねこ」の存在を通じて、命と向き合うことの意味を描く本作は、4本の短編からなるオリジナルの群像劇。猫と人間、それぞれの視点が交錯しながら、時にユーモラスに、そして静かに深く、現代社会の「共に生きる」を問いかける。ここでは、撮り下ろしの舞台写真とともにゲネプロの様子をお届けする。

第1話(作:秦建日子)は、ある一匹の飼い猫・マリア(演:水崎綾)の視点から始まる。彼女が窓辺から見つめるのは、道ばたで眠る1匹の野良猫。春、夏、秋、冬と四季が巡るなか、その猫の姿は徐々に弱り、やがて命の終わりを迎える。マリアは安全で快適な室内からその姿を見つめ続けるが、感情は次第に揺れ動き、やがて彼に向かって“なあご”と声をかける──その声が届いたのか、あるいは届かなかったのかを問いながら、季節はまた春を迎える。窓の内と外、家猫と野良猫、人間の都合と動物の現実。その対比は静謐な筆致で描かれ、観る者の胸にじわりと迫る。

第2話(作:椎名亜音)は一転、演劇人たちによる創作の場面から始まる。劇作家・一条繭歩(演:兵頭祐香)、演出家・鏑木翼(演:藤代海)、元俳優の間瀬大輔(演:山木透)という3人が、猫たちを題材にした舞台に挑むなか、現実と虚構が交錯していく。ユマニテ(演:田中尚輝)、ジョージ(演:山木透)、アイリス(演:高宗歩未)、ラム(演:平山空)、ミチル(演:水崎綾)、そしてジェントル(演:笠原紳司)……個性豊かな猫たちが次々と姿を現し、夢と記憶のように彼らの前に現れては語りかける。中でも、かつて失踪していたミチルが「さくらねこ」として戻ってくる場面では、耳先のカットが象徴する現実に観客の意識が引き戻される。不妊手術を受けて生き延びた命の尊さと、その陰にある選択の重さを、演劇というメタ構造の中で繊細に問いかける一篇だ。

第3話(作:萩原成哉)では、ユマニテ、ツバサ(演:藤代海)、ミミ(演:高宗歩未)、ハナコ(演:塩出純子)といった猫たちが登場し、「家族になること」の意味をめぐって対話を重ねる。去勢手術を受けたツバサが自らの変化に戸惑う姿、片目のユマニテの孤独、そして家猫としての運命を静かに受け止めるマリアたちの言葉。それは、人間と同じく「変わること」に悩む命の姿だ。舞台は時に幻想的に、時に現実的に、猫たちの内面世界を描き出す。

最終話となる第4話(作:中島庸介)は、それまでの猫の物語から一転、人間たちが「待合室」で語り合う不思議な空間が舞台となる。元俳優、元サラリーマン、かつて何者かだった人々──それぞれの「かつて」を手放した者たちが、再び自分の輪郭を取り戻そうと模索する様子は、まるで猫たちの物語に呼応するかのようだ。転生を待つその場所で、人と猫、過去と未来の感覚が交錯し、やがて物語は静かに閉じていく。

舞台上に登場する猫たちは、単なる擬人化ではない。それぞれの背景、性格、願いが細やかに描かれ、生身の俳優によって命を吹き込まれていく。演出・平山佳延の手腕は、シンプルな舞台美術の中に「見えないもの」を立ち上がらせ、観客の想像力に語りかける。マリアが窓辺から見つめる世界に時間の流れと感情の変化を織り込むなど、照明や音楽も効果的に用いられている。

出演は、笠原紳司、塩出純子、高宗歩未、田中尚輝、兵頭祐香、平山空、平山佳延、藤代海、水崎綾、山木透ら実力派俳優たち(五十音順)。人間と猫という2つの視点を演じ分けながら、誰もが内に抱える「孤独」と「希望」を表現する演技は圧巻だ。

可愛さや癒しの先にある、命のリアルに迫る舞台『SAKURA CATS』。その物語に耳を澄ませるとき、きっとあなたも、自分の身近な誰か──たとえば、今この瞬間窓辺で寝ている猫のことを、もう一度見つめ直したくなるだろう。

公演概要

公演タイトル: LIVE STAGE『サクラキャッツ』
公演期間: 2025年6月25日(水)〜6月29日(日)
劇場: すみだパークシアター倉
脚本: 秦建日子、中島庸介、椎名亜音、萩原成哉
演出: 平山佳延
出演: 笠原紳司、塩出純子、高宗歩未、田中尚輝、兵頭祐香、平山空、平山佳延、藤代海、水崎綾、山木透 ほか(五十音順)
公式サイト: TEAM SSI Official Website