【ゲネプロレポート】高校野球のリアルな世界を描く漫画が原作の舞台『忘却バッテリー』開幕!

レポート

2025年10月10日(金)、東京・天王洲 銀河劇場にて舞台『忘却バッテリー』が開幕した。

原作は「少年ジャンプ+」で連載され、累計閲覧数4億を突破したみかわ絵子による大人気漫画『忘却バッテリー』。個性豊かなキャラクターたちと、高校野球のリアルな世界をギャグとシリアスの絶妙なバランスで描き、多くの読者を魅了してきた。
舞台版では、バッテリーの2人──清峰葉流火役を田中涼星、要圭役を荒牧慶彦が演じる。脚本・演出は山崎彬、音楽は心を震わせる楽曲で知られる和田俊輔が担当。実力派スタッフが集結し、熱いドラマを舞台上に描き出す。

メディアクトでは、初日前に行われたゲネプロ公演と囲み取材の模様をレポートする。

※物語の核心的なネタバレは避けていますが、まっさらな状態で観劇を楽しみたい方は、観劇後にお読みください。

【公演レポート】

中学球界で名を馳せた完全無欠の剛腕投手・清峰葉流火と、切れ者捕手・要圭。
“怪物バッテリー”として恐れられた彼らに敗れた山田太郎(演:納谷健)は、野球部のない都立小手指高校へ進学する。そこで出会ったのは、記憶を失い、かつての“智将”の面影を失った要だった。ギャグを連発する明るい性格に変わってしまった要に、山田は戸惑いを隠せない。
さらに、かつて清峰・要のバッテリーに敗れ野球を辞めた藤堂葵(演:上山航平)、千早瞬平(演:大見拓土)も偶然同じ高校に入学していた。出会うはずのなかった天才たちが再び交わり、発足したばかりの野球部で新たな一歩を踏み出していく。

過去の因縁を抱える四人は衝突を繰り返しながらも、少しずつチームとしての絆を深めていく。その姿は等身大の男子高校生そのもので、瑞々しいエネルギーと賑やかさに満ちている。

特に印象的だったのは、納谷演じる山田のテンポの良いツッコミだ。「パイ毛!」をはじめとしたお決まりのギャグや荒牧が発するアドリブにも絶妙な間で反応し、冒頭から舞台のテンポを軽快に引き上げる。中学時代に名を馳せた天才たちの中で、山田だけは“普通”であることが物語の要となり、観客を自然と物語の世界へ導いてくれる。
やがて小手指高校は、強豪・帝徳高校との練習試合に臨む。帝徳のエース・国都英一郎を演じるのは塩田一期。稽古の休憩中もバットを手放さなかったという塩田はエースとしての説得力を纏い小手指ナインの前に立ちはだかる。
監督・岩崎勤役は平川和宏が演じる。国都や要ら“ハイパーつよつよ一年生”にメロメロな一面と、監督としての威厳とのギャップがコミカルで会場を沸かせた。

この試合で特に注目したいのは、清峰が要に寄せる想いだ。無口で感情を表に出さない清峰だが、捕球を恐れるようになった要のために球速を抑えるなど、相棒を思いやる姿が印象的。田中はその複雑な心情を、言葉ではなく眼差しで雄弁に語っていた。無敵のバッテリーとして、そして幼なじみとしての二人の絆が丁寧に描かれている。

試合後、要・清峰・藤堂・千早の四人は監督の勧誘を受け、小手指高校に残ることを決意する。チームとしての結束が強まる一方で、物語はそれぞれの過去や葛藤へとフォーカスしていく。

藤堂は中学時代のトラウマから、ファーストへの送球ができないというイップスを抱えていた。熱く真っ直ぐな藤堂が、その壁と向き合う姿は胸が締めつけられるほど。上山が、一見豪快な藤堂の内面にある繊細な痛みを丁寧に描くことで、チーム全体がその苦しみを乗り越えていく過程に深い説得力が生まれていた。

二幕では、新たに二年生・土屋和季(演:伊崎龍次郎)が加わり、物語はさらに熱を帯びていく。催眠術によって、要は“智将”としての人格を取り戻す──という驚きの展開に。これまでの陽気で無邪気な要とは打って変わり、冷静沈着で頭脳明晰な“智将”が登場する瞬間は、まるで別の人物が舞台に立ったかのようだ。荒牧は、同じ役の中に潜む二面性を圧倒的な演技力で表現。高圧的ではないのに自然と人を惹きつけるカリスマ性を纏い、チームを引っ張っていくその姿に、観客は息を呑む。

智将を中心にまとまりを見せる小手指は、桐島秋斗(演:二階堂心)や巻田広伸(演:松田昇大)を擁する強豪・氷河高校との練習試合に挑む。試合が進む中で、千早の過去が徐々に明らかになっていく。
千早は、スポーツ選手としては小柄な体格にコンプレックスを抱いていた。その繊細な葛藤を、大見拓土がリアルな温度で丁寧に演じきる。全身で作品に向き合う姿が、千早自身のひたむきさと重なり胸を打つ。

今作の魅力は、シリアスとコメディ、熱さと爽やかさ──そのすべてが緻密に混ざり合っている点にもある。原作の持つエネルギーを余すことなく舞台上に昇華させたのは、脚本・演出を手がけた山崎彬だ。
試合シーンも日常パートも、細部まで練り込まれた演出により、原作の名場面が生き生きと立ち上がる。映像、照明、音楽が三位一体となってシーンを彩り、原作への深い敬意と愛情が感じられた。原作未読の観客でも十分に楽しめるよう、大切なエピソードが丁寧に描かれている点も嬉しい。

中央に配置された斜度のある回転盆を中心に、セットはシーンごとにダイナミックに変化していく。役者たちはその上を、本物の球児のように全力で駆け抜ける。一瞬でもテンポを誤れば崩れかねないほどのスピード感を、見事にコントロールした振付は浅野康之によるもの。どの場面を切り取っても絵になる構成で、観るたびに新たな発見がある。何度でも劇場に足を運びたくなる中毒性が、この作品には確かにあった。

舞台『忘却バッテリー』は、青春のまぶしさや儚さがぎゅっと詰まった傑作だ。

誰かがひたむきに努力する姿は、観る者の心を強く揺さぶるだろう。キャラクターとして舞台に生きる俳優陣、彼らを支える制作陣、すべての熱量がひとつになって届けられるステージは、決して忘却できない経験として観た者の胸に残るはずだ。青春の一瞬が輝く舞台を、ぜひその目に焼き付けてほしい。

【囲み取材】

――初日を迎えた今の気持ちをお聞かせください。

田中:いろんなことがありましたが、非常に明るいカンパニーで、皆で前向きに手を取り合いながら乗り越えてきました。まずはこの初日を無事に迎えられたことを嬉しく思います。最後まで全員で走り抜いて千穐楽を迎えられたらと思いますので、よろしくお願いします。

荒牧:全力投球、ばっちこい!

上山:約1ヶ月半の稽古が、本当に一瞬で過ぎ去りました。いろんな思いがありますが、「早く皆さまにお届けしたい」という気持ちが一番強いです。初日を迎えるにあたって気持ちが高ぶっていますので、皆で楽しんでいきたいと思います。

大見:本来演じる予定だった櫻井さんに代わって演じさせていただくことになりました。無事に初日を迎えられたのは、チームメイトやスタッフの皆さんの支えがあったからこそです。感謝の気持ちを胸に、『忘却バッテリー』の世界をお届けできるよう頑張ります。

納谷:稽古初日から和やかな雰囲気の中、協力しながら楽しくやってきました。本番がずっと待ち遠しかったです。これからはお客様が加わっての“全員野球”になると思いますので、一緒に楽しみましょう。

山崎:原作が持つ野球シーンのかっこよさや“つながり”、そしてコメディとのコントラストを出したいと思いながら作り上げてきました。演劇ならではの舞台技術や映像を使って、見たことのないシーンを作りたいと考えていました。期待を一億倍超えてくるような作品になったと思います。

――特にこだわった部分や、大切にした部分を教えてください。

田中:僕はエースで4番という、もっとも憧れられるポジションを演じさせてもらいます。ピッチングとバッティングのフォームが、僕にとっても清峰にとっても“要”になってくるので、鏡を見て研究してきました。清峰はあまり喋らず表情も変わりませんが、その分、喋っていない時の小さな動きも再現しているつもりです。ぜひご注目ください。

荒牧:アホになっている時の要はコメディを担いつつ、チームメイトを掻き乱したり、はっとさせるような役どころです。そうした部分を全力で演じられたらと思っていますし、僕自身も彼らの戸惑いを楽しみたい。お客様にも、その楽しさを一緒に体験していただけたら嬉しいです。

上山:基本的にコメディ要素が多いですが、そこに入ってくるシリアスな部分が見どころだと思います。僕が演じる藤堂は過去と向き合うシーンがありますが、誰もが共感できるところがあると思いますので、ぜひ見ていただきたいです。

大見:藤堂と同じく、千早も過去の壁にぶつかるシーンがあります。フィジカル面でのコンプレックスを抱えているのですが、僕自身も中学・高校時代に野球をしていて、すごく重なる部分がありました。そのリアルさを大事にしながら、千早と同じ思いで舞台に立てたらと思っています。

納谷:作品が持つあたたかさやリアルな葛藤は、チームワークがないと描けません。稽古中も部活のように皆で頑張ってきました。初日を迎えて士気が最高に高まっているので、この空気感をぜひ味わっていただけたらと思います。

山崎:漫画やアニメのキャラクターを演じるのは、俳優であり人間です。キャラクターがどういう想いを持って動いているのかを大切に演出してきました。この座組は放っておいても、それぞれが自然にキャラクターのポジションにいました。休憩中も納谷くんがツッコミ、荒牧くんがボケ、上山くんが熱く、大見くんも良いピースとして加わってくれていました。

――特に注目してほしいシーンを教えてください。

田中:自分のこと以外で言うと、映像・照明・音楽、すべてが本当に素晴らしいです。場当たりの時も何度「かっけえ!」って言ったかわからないほどで、それくらい全スタッフさんがこの作品に情熱を注いでいます。生で体験するのが一番グッとくると思うので、ぜひお楽しみに。

荒牧: “全員野球”という言葉がありますが、まさにそれを体現しています。ワンテンポでも遅れたら成り立たないものを全員が一体となって表現しているのは本当にすごいですし、演じていても楽しいです。疾走感や爽快感に注目してください。

上山:全部なんですが…しいて言えば試合のシーンです。「こうやって表現するんだ!」と驚きました。お客さんも本当の野球を見ているような気持ちになると思います。

大見:漫画やアニメをご覧になった方ならわかると思いますが、“名シーン”“泣けるシーン”“面白いシーン”が全部入っています。原作を読みながら、舞台ではどう表現されるのか気になっていましたが、彬さんの手腕で見事に再現されています。ぜひご注目ください。

納谷:アニメや漫画の再現性、そして舞台ならではの“生身の人間”が演じることによって、小手指のメンバーたちがより色濃く出ています。そういった部分を見ていただけたらと思います。

山崎:野球シーンの再現はもちろんですが、アドリブや日替わりのような“その場で生きているからこそ生まれる瞬間”も魅力です。要の行動など、それぞれがてんやわんやしている場面にもぜひ注目してください。

――初日を迎えるにあたって、思い出に残っているエピソードやチームの結束を感じた瞬間を教えてください。

荒牧:稽古場に入ると、誰かがキャッチボールをしているんです。稽古終わりにも自然とキャッチボールをしたり、国都役の塩田くんがずっとバットを振っていたり。本当に部活みたいでしたね。

上山:ちょっと疲れてきた時に、皆が声を出すんですよ。野球部特有の「おーい!」みたいな。お互いを鼓舞し合うことで集中力が高まりました。

納谷:初めて通し稽古をした時に、皆でコーラを飲んだのが思い出深いですね。

上山:コーラ、売り切れてましたからね(笑)。

納谷:疲れた時に飲むコーラの味が青春を彩ってくれたなって思います。あとは…これ(三本指のハンドサインをしながら)ですね。誰かがボケたり、いい芝居をしたらこのサインを出すんです。拓土くんが加わってシーンを通した時も、皆で「素晴らしい!」って同じサインをしていました。

田中:本番中もこれやろうかな、早着替えしながらね(笑)。

――今作ならではの野球シーンの魅力を教えてください。

山崎:演劇で野球を描く上で難しいのは、試合シーンがバスケやサッカーのように動的ではないこと。バッターとピッチャーの対面をどう見せるかに苦心しました。景色がどんどん動いていくようなスピード感を出せるよう工夫しています。

田中:リアルに野球をしているように見せるのはもちろんですが、原作の絵がそのまま飛び出してきたような瞬間も多くあります。清峰は感情を表に出さないタイプですが、場当たりの時などは熱くなってしまいました。原作を大事にしながらリアルに野球をしているところに、ぜひ注目してほしいです。

大見:野球を題材にした舞台に参加するのは三作目ですが、今作は特に照明と映像のバランスが面白い。より疾走感があり、キャッチーだと感じました。野球を知らない方でも「今こういうシーンなんだな」と伝わるのが魅力です。山崎さん、ここは意識してました?

山崎:しました! 原作が好きでも野球に詳しくない方もいらっしゃると思うので、そういう方にも楽しんでいただけるように工夫しました。

――最後に、ファンの皆さんへメッセージをお願いします。

山崎:いろんなことがありましたが、ユーモアを持って挑める座組でした。目の前のことをどう乗り越えるか、どう楽しむかを考えながら取り組めました。お客様が入ってようやく完成する作品です。ぜひ、熱い瞬間を目撃してください。

納谷:舞台とは、信じてこそつながっていくものだと思います。僕たちは作品を信じて託していただいている立場ですが、お客様にも僕たちを信じて楽しんでいただけたら嬉しいです。

大見:本当にいろいろなことがありましたが、途中参加という立場ながら、今年一番熱くて面白い舞台を作る気持ちでいます。ぜひ“銀河球場”にお越しください!

上山:僕自身、ずっと野球をやっていたので、この作品をとても楽しみにしていました。ついに初日を迎えられて嬉しいです! この最強のメンバーと共に、早くお届けしたい気持ちでいっぱいです。ぜひ生でこの熱さを体感してください。

荒牧:いろんなところで「パイ毛を楽しみにしてください」と言ってしまったのでハードルが上がっているかもしれませんが……一回ハードルを下げてから判断しに来てください(笑)。お待ちしています!

田中:僕は原作ありの作品で主演を務めるのが初めてです。稽古を通して多くのことを見て感じ、改めてこの素晴らしい作品の真ん中に立てることを幸せに思います。ここまで積み上げてきたものを信じて、仲間を信じて、自分を信じて、お客様を信じて。最後まで全力投球で頑張ります。応援よろしくお願いします。

取材・文:水川ひかる/写真:ケイヒカル

公演概要
舞台『忘却バッテリー』

日程・劇場
【東京】2025 年 10 月 10 日(金)~10 月 19 日(日) 天王洲 銀河劇場
【大阪】2025 年 10 月 25 日(土)~10 月 26 日(日) COOL JAPAN PARK OSAKA WW ホール

原作 みかわ絵子 『忘却バッテリー』(集英社「少年ジャンプ+」連載)
脚本・演出 山崎 彬
音楽 和田俊輔

出演
清峰葉流火 役 田中涼星 

要 圭 役 荒牧慶彦 

藤堂 葵 役 上山航平 

千早瞬平 役 櫻井圭登(代役:大見拓土) 

山田太郎 役 納谷 健 

土屋和季 役 伊崎龍次郎 

国都英一郎 役 塩田一期 

巻田広伸 役 松田昇大 

桐島秋斗 役 二階堂 心 

岩崎 勤 役 細見大輔(代役:平川和宏) 

江口 航 長田健一 清水玲雄 立花 涼 羽場奎斗 山﨑千紘 嵯峨のん 澤田理央 
※千早瞬平役は櫻井圭登に代わり大見拓土が出演し、 岩崎 勤役は細見大輔に代わり平川和宏が出演いたします。

主催 舞台『忘却バッテリー』製作委員会
最速先行 2025 年 6 月 26 日(木)12:00~7 月 7 日(月)23:59
少年ジャンプ+にて実施
一般発売 2025 年 9 月 7 日(日)10:00
チケット料金 12,000 円(税込/全席指定)
◆公式サイト https://boukyaku-stage.com
◆公式 X https://x.com/boukyaku_stage(@boukyaku_stage)
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