【ゲネプロレポート】糸川耀士郎と笹森裕貴がW主演 OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』開幕!

レポート

糸川耀士郎と笹森裕貴がW主演を務める、OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』が10月24日、東京・シアターサンモールで開幕した。

原作は、舞城王太郎が2002年に発表した青春ミステリー小説『世界は密室でできている。』。

脚本・演出を手がけるのは、劇団鹿殺しの代表・丸尾丸一郎。主人公・西村友紀夫とルンババを、糸川耀士郎と笹森裕貴が回替わりで演じるというW主演形式が発表当初から注目を集めていた。

共演には、岡部麟、小田えりな(Wキャスト)、田口愛佳(AKB48/Wキャスト)、橘輝、山本亨ら実力派キャストが名を連ねる。

独自の世界観と疾走感あふれる舞城文学が、どのように舞台上に立ち上がるのか。メディアクトでは、開幕に先立って行われたゲネプロ公演の模様をレポートする。

※物語の核心的なネタバレは避けていますが、まっさらな状態で観劇を楽しみたい方は、観劇後にお読みください。


15歳の西村友紀夫と、14歳にして名探偵の番場潤二郎(ルンババ)は、家も隣同士の親友。煙になれなかったルンババの姉・涼ちゃんが亡くなってから2年。中学3年生になった2人は、修学旅行先の東京で風変わりな姉妹と出会った。そこから、彼らの奇妙な冒険が幕を開けることになる。

椿の愛人一家殺人事件をはじめ、数々の密室殺人事件が2人の前に立ちはだかる。

ともすれば現実味を欠くような設定の連続だが、「ありえない」の一言では片づけられない説得力と中毒性がこの作品にはある。原作の魅力はもちろんのこと、福井弁で繰り広げられるキャラクター同士の掛け合いや、ギャグのようでいて妙に哲学的にも感じられる会話、そしてぶっ飛んだ密室トリック。そのすべてが絶妙なバランスで絡み合い、舞城王太郎特有のスピード感と文体のリズムが見事に舞台上で再現されていた。その要となったのは、間違いなく実力派ぞろいの俳優陣だろう。

事件の発端となる井上姉妹の姉・椿を演じたのは岡部麟。あまりにもエキセントリックな役どころだが、狂気と愛らしさが同居する唯一無二の人物として見事に成立させていた。ぶっ飛んでいるのに愛さずにはいられない——そんな椿の存在が、物語終盤の感情のうねりをいっそう強くしている。

この日は、妹の椿を田口愛佳が演じた。無邪気な可愛らしさで友紀夫を振り回したかと思えば、姉に翻弄される一面も。喜怒哀楽をまっすぐに表現する姿には、青春の眩しさがぎゅっと詰まっていた。魅力的なヒロインとして物語を鮮やかに彩り、客席の心をつかんで離さない。同じ役を演じるダブルキャスト・小田えりなのパフォーマンスにも、自然と期待が高まる。

数多くの密室の謎を解き明かしていくルンババは、中学生にして警察から事件解決を依頼されるほどの名探偵。この日の公演でルンババを演じたのは笹森裕貴。独特で軽快な語り口が印象的で、推理シーンでは観客をぐいぐいと引き込んでいった。

一方、糸川耀士郎が演じる友紀夫には、清々しい勢いと真っ直ぐさがあった。個性の強い登場人物たちの中にあって、友紀夫は良い意味で普通に近い存在。恋愛に振り回されながらも、親友を心の底から案じる姿に青春の熱が宿る。その繊細な揺らぎを、糸川が自然体で表現していたのが印象的だ。

糸川と笹森が演じる友紀夫とルンババは、台詞の呼吸はもちろん、2人の空気感そのものが“親友”という関係性の説得力を高めていた。プライベートでも交流がある2人だからこそ生まれるリアルな距離感が、青春のきらめきと切なさをいっそう際立たせている。

どちらの配役も驚くほどはまり役だが、今作の大きな魅力のひとつはこの交互配役。どちらがどの役を演じるかによって物語の印象ががらりと変わるため、ぜひ両バージョンを観比べてほしい。

全編を通してアナーキーでパンクな空気が漂う本作。ぶっ飛んだ設定や登場人物たちを通して、家族や青春の歪みを浮かび上がらせる演出は丸尾丸一郎によるものだ。照明による影のコントラストや陰影の表現が、登場人物たちの心情を際立たせる。さらに、伊真吾によるキャッチーでありながらどこか切なさを帯びた楽曲、平原慎太郎の振付が加わり、大都会・新宿の真ん中で展開される物語に退廃的でノスタルジックな味わいを添えている。

今作はミステリーであり、思春期の恋や友情、そして閉じ込められた心を描く青春の物語でもある。グロテスクさと猥雑さ、爽やかさと繊細さ——相反する感情が混ざり合いながら、観る者を不思議な心地へと誘う。観劇後には、確かな余韻が心に残るだろう。

誰もが自分の中の密室を、そっと覗き込みたくなるはずだ。

OFFICE SHIKA PRODUCE『世界は密室でできている。』は、11月2日まで東京・シアターサンモールにて上演される。

取材・文・写真:水川ひかる

【©舞城王太郎/講談社】

■公演概要
OFFICE SHIKA PRODUCE「世界は密室でできている。

開催日程・会場:2025年10月23日(木)〜11月2日(日)
東京都 シアターサンモール
原作:舞城王太郎『世界は密室でできている。』 (講談社)
脚本・演出:丸尾丸一郎(劇団鹿殺し)
振付:平原慎太郎、大西彩瑛
出演:糸川耀士郎/笹森裕貴/小田えりな/田口愛佳/岡部麟/橘輝/山本亨
西出将之、大西彩瑛、AYUBO、村井玲美、山本悠貴
音楽:伊真吾
※キャストスケジュールは公式サイトをご確認ください。

★★「アフタートークイベント」のご案内★★
下記公演回では、舞台制作秘話から、この日限りのスペシャルクロストークまでお届けする、
スペシャルアフタートークイベントを開催いたします。
OFFICE SHIKA PRODUCE作品との縁も深い岡部麟、小田えりな、
そして初参加の田口愛佳に加え、スペシャルゲスト 横山結衣さんの参加が決定!
本編と合わせて、ぜひお楽しみください。

10月29日(水) 13:30回
登壇者...岡部麟、小田えりな、田口愛佳(AKB48)、丸尾丸一郎
ゲスト...横山結衣さん

※アフタートークイベントは、上記公演終演後に実施いたします。イベントは15分程度を予定しております。
※同回の公演チケットをお持ちのお客様が、終演後にご参加いただけます。

公式HP:https://natalie.mu/stage/play/4115