【レポート】「嘘偽りなく感謝です」魂を揺さぶる富田翔初の1人芝居「憑」視聴レポート

レポート

富田翔・初の1人芝居「憑」が11月3日(月・祝)まで配信中だ。本作は、10月17日(金)~19日(日)に恵比寿エコー劇場で上演された作品。原案を桑原水菜、脚本をほさかよう、演出を田邉俊喜、という富田にとって緑が深く心強いメンバーが集まった本作は、初日前に全日程のチケットが完売。盛況のうちに幕を閉じた。

メディアクトでは、現在販売中の配信を視聴しレポート。1人芝居に挑んだ富田の熱い芝居と本作の見どころを紹介する。

主人公は、締め切りに追われる恐怖小説作家・紫村修司。編集者からかかってくる催促(さいそく)の電話に「締め切りではなく”締め切らず”と前向きに」「近日中に書き上げるとも」と、のらりくらりと対応しながらも何とか机に向かう。

紫村の哲学は、「美しきは醜い。醜きは美しい」「数多の(あまた)の言葉の中から、頭の中にうごめく混沌をすくい上げ、最後に残ったたったひとつの言葉を届ける」こと。

そんな彼の哲学に吸い寄せられるように、彼の部屋には、成仏できずにさまよう死者の魂が集まるようになった。死者たちは、紫村にとりついては彼に文字を書かせる。そこには自分が成仏できない理由や未練がつむがれており、紫村にそれを読み解かせて、自分が往生するための1文字「往生文字」を書かせるのを目的としていた。

その日やってきた霊は、漫画家の男。霊は紫村に「処女作から(紫村の本を)読んでいる」と告げる。自分の熱烈な読者だと理解した紫村は、「悪くない」とでも言わんばかりの表情を浮かべながら霊に「憑依」を許す。霊は、自分の境遇を原稿用紙につづり始めーー。

凄まじい体験だ。情熱的な芝居はもちろん、コミカルな間、愛情深いまなざし、そしてほとばしる激情。”富田翔”のすべてを、配信の画面越しではあるが目の当たりにできる。

配信でこれならば、劇場ではどれほどのものが観られたのだろう、と想像もつかないほどだ。

舞台に1人で立ち演じる富田は、紫村でありながら、彼にとりついたそれぞれの霊の境遇も演じ分けている。役を作り上げるときには、富田は「心・技・体」のうちの「心」を最後に入れると過去のインタビューで語っていた。今作ではタイトルどおりまさに「憑」の容(い)れものとして、紫村の体に幾人もの「心」を宿らせて、さまざまな登場人物の人生を演じ切ってみせた。

ときに、創作物を生み出す人間としての苦悩を滲ませ、また、無念さとともに深い愛情に満ちた表情を見せる。

ストーリーは、一見するとまったく別々の話で構成されているようであるものの、最終話ではあっと驚くような仕掛けで締めくくられる。この、不思議でありながら心のやわらかい部分をそっと撫でるような脚本を担当したのは、ほさかよう。「炎の蜜気楼(ミラージュ)」などの小説で知られる小説家・桑原水菜の原案をもとに書かれたストーリーは、幻想的でありながらリアルな人間の感情を浮かび上がらせている。

その脚本によって富田は紫村として、生き生きと、のびのびと、そして限りなく苦しそうに、つらそうに死者の言葉と思いを口に乗せ、紡ぎ、吐露し、絞り出すように伝えていく。

舞台は、もちろん劇場で、生で観劇するのがベストであるのは大前提だが、配信には、配信だからこそ分かることも多くある。

遠くからでは把握できない細かな表情、目の動き、視線の流れ。また、本作においてはあるシーンで照明が作り出す「影」に注目してもらいたい。舞台の床に映し出されるそれは、劇場ではなかなか気付けないものだろう。

原案、脚本、演出。そしてレトロかつ精巧に作りこまれた舞台セット、照明、衣装、BGM。霊たちの声を事前収録で担当した町田慎吾、鵜飼主水、岩田陽葵。すべてのクリエイターたちの「こんな富田翔を見たい」「富田翔のために」という思いが伝わってくる。

その思いに見事に応え、全公演を走り抜けた千穐楽で富田は、何度も繰り返されるカーテンコールの拍手に「嘘偽りなく感謝です」「手を抜かずにやってきた結果、ここにたどり着けました」と目に光るものを浮かべながら語った。

どの舞台でも最後には、誰よりも大きな地声で「ありがとうございました!」と感謝の言葉を述べ、誰よりも深く客席に頭を下げる富田翔。本作においてもいつもと同じ大きな声での感謝の言葉、そして最敬礼の姿が見られた。しかし今回のそれらには、観客だけではなく、この作品をともに作り上げたスタッフチームに対する感謝の気持ちも乗っていたのではないかと想像する。

富田いわく「何の周年でも記念日でも誕生月でもない(笑)」であるが、さまざまなめぐりあわせで実現したこの1人芝居。ぜひ配信終了その日まで多くの舞台ファンに見てもらいたい作品だ。

取材/文:広瀬有希

【千穐楽アーカイブ配信チケット販売中!!】

https://confetti-web.com/@/shotomitashibai_streaming
販売期間:11月3日(月・祝)20:59まで(配信は11月3日23:59まで)


■公演概要
富田翔・一人芝居「憑」

開催日程・会場
2025年10月17日(金)~19日(日) ※公演終了
東京都 恵比寿・エコー劇場

スタッフ
原案:桑原水菜
脚本:ほさかよう
演出:田邊俊喜

出演
富田翔

公式X:https://x.com/shotomitashibai