【ゲネプロレポート】友情の崩壊と裏切り、濃厚な愛と対立…三島由紀夫の美学を浴びる『わが友ヒットラー』開幕レポート

レポート

『わが友ヒットラー』が12月11日(木)に、東京・新国立劇場 小劇場にて開幕。初日に先立ち同劇場で公開ゲネプロがおこなわれた。本作は、三島由紀夫生誕100周年を記念しての上演。本作と同時に朗読劇『近代能楽集』も上演される。

公演レポート

松森望宏演出による2022年の初演は読売演劇大賞・上半期ベスト5に選ばれた話題作であり、再演となる2025年版は谷佳樹(アドルフ・ヒットラー役)、森田順平(グスタフ・クルップ役)は続投、小松準弥(エルンスト・レーム役)、小西成弥(グレゴール・シュトラッサー役)の2人を新たに迎えた4人で、濃密かつ緊迫感のある会話劇を繰り広げる。

『わが友ヒットラー』は、「長いナイフの夜」をモチーフに三島由紀夫が書き上げた、登場人物4人による会話劇。誰もが知る独裁者・ヒットラーと、彼の友人である突撃隊の軍人・レームとのやりとりと結末を描いた作品だ。歴史的事実をもとにしながら、三島由紀夫が己の美学を盛り込み、友情の崩壊と裏切り、すれ違い、対立、濃い愛情などを描いている。

舞台は、ヒットラーの演説シーンから始まる。部屋のバルコニーに立ち、熱のこもった演説を群集に聴かせている。ここから、クルップとレーム、クルップとシュトラッサー…と人物を入れ替えながら会話が始められていく。会話は、冒頭4人でほんの少し場を共にした後はほぼ1対1で進んでいく。自分の主張をするため、相手を取り込むため、その場にいない者のことを相手に分からせるため、生き残るため…。さまざまな思惑がこの対話の中で生まれていく。

本作で注目してほしいのは、「対になるものの存在」だ。友情と無情、情熱と冷徹など。また、個々の存在意義や主義主張も「対」を感じさせるものが多い。太陽のように明るく、ヒットラーの友情を信じて疑わないレームと、月のように自分の在り方をどんどん変えていくシュトラッサーなど、その時々で会話をしている2人が持っている「対となるもの」に注目しながら見ると、感じ取れるものが増えるに違いない。

アドルフ・ヒットラー役続投の谷佳樹。続投というだけあり、気が遠くなるほどの長セリフも血肉となり、より美しいリズムを持って発しているのは見事だ。初演となる2022年版では、冷徹な指導者としてなすべきことを成す、と気持ちが固まった瞬間の表情にゾッとさせられた。今作では、レームとの友情を喜び、苦しみ、自分が芸術家であるかと自問する姿に、より人間味を感じる芝居を見せてくれている。レームとの間に確かに友情はあった、しかし己の成すべき道のためには…と決断をした瞬間、そして実行を決めた表情に今回もぜひ注目を。

小松準弥は、どこまでも真っすぐで愚直なまでに「男らしさ」を愛するレームを、太陽のような明るさで演じている。しかしその太陽も、冬の日に感じるあたたかい陽射しではなく、夏の照りつけるような暴力的なまでの暑さをはらんでいると感じる瞬間が多い。明るくまぶしく、正直で嘘が無い。しかし、それを一身に受ければ苦しく、つらい瞬間もある。その強い陽射しを無自覚に全身から発しているようなレーム像だと感じた。

小西成弥は、行動と言っていることだけを見れば狡猾で哀れな人物であるシュトラッサーを、「そうせざるを得なかった」「何とかして生き残ろうと必死になっている」と受け取れる、魅力的な人物として見せてくれている。誠実さで虚偽や本心を塗り固めて隠し、しかしふとした瞬間にそれらが漏れ出る様子が絶妙だ。特にレームとの会話の中で、レームがこちら側についてくれないと察してからの、怒涛のように繰り出す言葉や数々の提案、すがる姿などに注目してほしい。

森田順平演じるクルップの中で、絶対に見逃さないでほしいのがラスト近くのシーンだ。それまで、社の財力でヒットラーや国政を裏から操り権力を持っていたクルップが、杖を落とす。このシーンにはさまざまな解釈があるが、ひとつ、それまでは「会話」の言葉と言葉のやり取りをメインに舞台が進んでいたのが、ここで杖の落ちる音、拾うヒットラーの動作、クルップの表情、と言葉のないやりとりで話が大きく動く。杖をクルップの財力や権力と例え、それらがヒットラーの手に渡った、もしくはクルップの手の中にあるそれらを動かす「力」はヒットラーの手に渡ったことを表している表情、など。ここをどう解釈するかは人それぞれだが、それまで観てきたものやヒットラーの表情や動きなどから、クルップの内心を深掘りできる名シーンだ。

キャスト4人の長セリフに「よく覚えた」と注目が行きがちであるが、そのセリフの比喩表現やリズムの美しさは三島由紀夫作品ならでは。はじめこそ、聞き慣れない言葉に面食らうかもしれないが、役者の口と身体からそれらが発せられ、浴びていると、不思議と心地良く甘美なものとなって聞こえてくる。単語の一つ一つの全ての意味が分からずとも「そういうもの」と受け止められる不思議さもある。特に冒頭のヒットラーの演説シーンでは、そのリズムと勢いと抑揚に心を掴まれ、同時に、ヒットラーの演説そのものに心を引き寄せられる恐ろしさも感じる。

また、舞台美術、照明、人物たちの立ち位置にもぜひ注目してほしい。すべてが左右対称に意味深に配置されたセット、そこに彼らが、どのセリフの時にどの位置にいるのか。また照明は、朝の光を感じる明るさと爽やかさ、人物たちの心情をじわじわと追い詰めるように絞られていくスポット、色ライトなど。特に、人物たちの顔形に深い陰影を浮かび上がらせる当て方は、舞台そのものが芸術作品であることを思い出させてくれる。

観劇後に「わが友ヒットラー」というタイトルが、レームから見たヒットラーそのものを表しているのか、レームからヒットラーへの、友情を裏切られた悲しみのこもった言葉なのか、最後までヒットラーを信じ続けたラブレターの書き出しのような言葉なのか。それは、個々で受け取り方も変わり、その時々でも印象が変わるだろう。正面から、左右から、近くで、遠めの全景で。様々な位置から何度でも見て、そのたびに違うものを受け取ってほしい作品だ。

本作は、文化庁の支援事業対象作品であり、6歳以上18歳以下は無料で観劇できる。あまりに幼い年齢であれば言葉の意味やテーマなどから難しい面もあるかもしれないが、中学生・高校生相当の年齢であれば、むしろ、演劇と三島由紀夫の美学を全身で浴びる体験としてぜひ観てほしい。言葉の意味と、作品に込められた意味やモチーフなどをすべてその場で理解する必要はなく「こういうものだ」とまずは体験することが大事だと感じる。そこから興味を持てば原作や三島由紀夫文学や、さまざまな演劇作品に触れ始めるのもよし、そうでなくとも、年齢を重ねた時に「あれを劇場で観た」と思い出せる作品にもなるだろう。申し込み方などの詳細は、舞台の公式サイトを確認してほしい。

公演写真

キャスト

■アドルフ・ヒットラー:谷佳樹
アドルフ・ヒットラー役を務めさせていただきます、谷佳樹です。
三島由紀夫生誕100周年という節目に、『わが友ヒットラー』という大きな作品へ、再び挑戦させていただきます。
初演から三年。
あの頃から自分を取り巻く環境も変わり、同時に価値観にも変化がありました。稽古を重ねる中で、この作品に対する印象も大きく変わり。気づけば“別の作品”と向き合っているような感覚になりました。
この作品は時代とともに、環境とともに、人とともに生きていると改めて実感しています。
いまの自分たちだからこそ生まれる「生の感情」を、しっかりとお届けできればと思います。
最後までご声援のほど、どうぞよろしくお願いいたします。

■エルンスト・レーム:小松準弥
いよいよ初日を迎えると思うと、胸が高鳴っています。
稽古では、戯曲と共に心の繋がりや思いを大切に積み重ねてきました。稽古場で得た多くの感触に加え、新国立劇場小劇場ではまた新しい感覚と出会える気がしています。
早速劇場の洗練された空気を感じていますが、そこにお客様が加わることで、さらに新しい景色が広がるのだと思います。
カンパニー一同、一瞬一瞬を丁寧に、真摯に板の上に立ちたいと思います。

■グレゴール・シュトラッサー:小西成弥
グレゴール・シュトラッサー役の小西成弥です。
約1ヶ月にわたる濃密な稽古を経て、無事に初日を迎えられることを嬉しく思います。
前回から続投の谷さん・森田さん、そして今回からの小松さんとともに、4人だからこそ生み出せた『わが友ヒットラー』になったと感じています。
ぜひ楽しみにしていてください!

■グスタフ・クルップ:森田順平
いよいよ再演の初日を迎えることが出来ました。
前回よりも更に掘り下げた取り組みが出来、より深いものに出来ていると確信しています。
劇場も、空間が大きくなり、より広がりのある世界をみせられると思います。
体調を整えながら千秋楽まで頑張ります。

■演出:松森望宏
いよいよ三島由紀夫生誕百周年二作品同時公演『わが友ヒットラー』×朗読劇『近代能楽集』が開幕します。世界が揺れる現在、三島の問いは鮮烈です。権力の影と孤独を描く『わが友ヒットラー』、愛の痛点を照らす『近代能楽集』。息を飲む瞬間、思わず前のめりになる瞬間を、どうか全身で楽しんでください!

取材/文:広瀬有希 撮影:阿部章仁

【公演概要】
〈『わが友ヒットラー』〉

◆上演日時・出演
12月11日(木)18時半/12月13日(土)18時半☆/12月14日(日)12時
12月16日(火)18時半☆/12月18日(木)13時☆/12月20日(土)12時
12月21日(日)12時
☆出演者全員によるアフタートークあり

アドルフ・ヒットラー 谷佳樹
エルンスト・レーム 小松準弥
グレゴール・シュトラッサー 小西成弥
グスタフ・クルップ 森田順平

◆スタッフ
作:三島由紀夫 演出:松森望宏
美術:平山正太郎 照明:小原ももこ 音響: 青木タクヘイ 音楽:西川裕一
衣裳:藤崎コウイチ ヘアメイク:ナリタミサト 舞台監督:筒井昭善 演出助手:石川大輔
制作 間宮春華 製作:児玉奈緒子 票券:サンライズプロモーション 著作権管理:酒井著作権事務所
主催・企画・製作 一般社団法人CEDAR/株式会社MAパブリッシング
◆公式WEBサイト https://cedar-produce.net/mishimakinen/
◆Twitterアカウント @cedar_engeki
◆料金 9,000円(全席指定・税込)
「わが友ヒットラー」 18歳以下:無料(19歳以上の同伴者 4,500円)
◆お問合せ
 サンライズプロモーション 0570-00-3337(平日12:00~15:00)