【体験レポート】『-記憶の質屋- ほの灯り堂』人の記憶を追体験する、街歩き型イマーシブシアターレポート

レポート

東京・神楽坂の街を舞台に、観客自身が物語の当事者の代わりに歩く物語。『-記憶の質屋- ほの灯り堂』は、街そのものを使った街歩き型イマーシブシアターである。
現実の街並みと耳元に流れ込んでくる声、そして出会うキャラクターに心を寄せながら体験は進んでいく。本作は「記憶を質に入れる」という幻想的な設定を通して、参加者に「やり直したい記憶」と向き合う体験を提供する。

メディアクトでは本公演に先駆けて実施されたプレ公演に参加。その模様をお届けする。
なお、本質的なネタバレには触れないよう配慮しているが、先入観を一切持たずに体験したい方は、ここから先の閲覧を控えてほしい。

昼の部レポート

芸者:華子、作曲家:千賀、旦那:小野寺の三人を軸とした物語が展開される。

筆者は2通りあるルートの南ルートでのプレイした。
耳に届く声に導かれて歩いていくと、飲食店が立ち並ぶ通りの中に、どこか異質な空気をまとった質屋が現れる。店内に足を踏み入れ、店主とのやり取りを経て、参加者は他者の記憶を追体験し、その記憶をやり直すことになる。


筆者が選んだのは芸者(華子本人ではない別の芸者)の記憶だった。

その記憶を辿り神楽坂の街を歩くと出会うのが旦那である小野寺だ。
花街で顔の利く彼との会話を通して、華子との関係性、そして作曲家・千賀の存在が浮かび上がってくる。

参加者が体験するのは、あくまで小野寺という人物を通して語られる物語の一側面だ。他のルートを選んだ参加者は、華子や千賀から見た世界を知ることになるだろう。同じ街、同じ時間でありながら、視点が変わることで物語の意味が変容する。まさにイマーシブシアターならではの体験だと感じた。

また、昼公演の設定は「雪の降る日」。アプリ「Locatone™(ロケトーン)」を通じて再現される雪を踏みしめる音が、存在しないはずの雪景色を聴覚から立ち上がらせる演出は非常に印象的だった。

夜の部レポート

夜の部では、昼とはまったく異なる物語が用意されている。
登場するのは、悩める小説家の弟子・鮎見鏡水、師匠・沢崎、そして弟子の内縁の妻・さちという三人。
師匠との絆と、妻への愛、愛情と現実の狭間で揺れる感情。物語が進むことで、それぞれの事情が静かに浮かび、衝突していく。

筆者は北ルートで、小説家の弟子を体験していく。そこでは、同じ師匠を持つ鮎見鏡水の葛藤を垣間見ることとなった。同じ弟子という立場で、より踏み込んだ会話を交わすことができた。自分たちがかけた言葉が物語に影響を与えているという実感も得られ、独特の体験を得られた。

夜の神楽坂は異質だった。
明治時代を彷彿とさせる神楽坂の路地、静かな空気、耳元で囁かれる声。昼とはまったく違う没入感が包んでくれる。
ロケーション、シチュエーション、そして多くを語らないエンディング。最後まで満足のいく体験だった。
筆者は昼・夜どちらも体験したが、個人的には夜の部の方が強く印象に残り、終わったあとも、感情の余韻が長く残り続けた。

まとめ・注意事項等

体験の中核を担うのが、位置情報連動型音声サービス「Locatone™(ロケトーン)」である。あらかじめ設定された場所に到達すると、位置情報に反応してイヤホンから音声が流れる。
それは登場人物の声であり、心の内を語る独白であり、あるいは次に進むべき場所を示す道案内や行動指示でもある。音声は単なる演出ではなく、没入感の向上と進行管理を同時に成立させる装置として機能していた。
「次に何をすればいいのか」を意識することなく、自然と物語の流れに身を委ねられる設計は非常に完成度が高い。

また本作では世界観没入の一環として、参加者は用意された和服を羽織り、片手に提灯を持って街を歩く。加えて、実際に体験した感想としては、想像以上に歩く。提灯を持った状態での移動、坂道や階段の上り下りもあるため。本作への参加を予定している方は軽装での参加を強く推奨する。

どちらの物語もすべて一期一会。
キャストも交代制であるし、たとえば同行する参加者一行だって変わる。その時の空気とその時の時間。すべてが一致することのない体験である。もちろんそれがイマーシブシアターというものではあるが、最終的には、自分自身の心に静かに問いを投げかけてくる体験でもあった。
可能であれば、ぜひ昼夜両方の体験をおすすめしたい。

取材・文:木皿儀

■公演概要
『-記憶の質屋- ほの灯り堂』

期間:
・プレ公演:2026年2月5日(木)~2月8日(日)
・本公演:2026年4月下旬~5月上旬予定

体験時間:
約90分(10分の説明+約80分の体験)

場所:
学校跡地 飯田橋でっかいレンタルスペース(東京都新宿区揚場町2-28)ほか、神楽坂周辺の街並み一帯

料金:5,200円(税込)
※オープンイヤーイヤホン貸出料金込み

キャスト(登場人物/俳優例):
質屋の店主:内山智絵、AGATA、大塚由祈子
芸者/女:石田迪子、石田佳名子、小林未往、スガヌマショウコ
作曲家/愛弟子:市川真也、上原徹也、塚越光、河合国広
旦那/師匠:角川裕明、金川周平、窪田道聡、熊野善啓
※昼公演と夜公演で物語・登場人物が異なる構成となる場合あり

公式HP:
https://honoakarido.com/