【観劇レポート】ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』東京・帝国劇場公演

レポート

ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』が、東京・帝国劇場にて2月28日(水)に千穐楽を迎え、3月26日(火)からの札幌公演、4月9日(火)からは兵庫公演を控える。

原作は、シリーズ累計発行部数1億2,000万部を誇る荒木飛呂彦の大人気コミックシリーズ。人間の誇りと勇気を描き上げる〈人間讃歌〉をテーマに、頭脳戦と肉弾戦で織りなされる熱いストーリーテリング、独特のポージングに代表される大胆にして緻密な画力と色彩、独創的にしてインパクトのあるセリフ回しと擬音の数々など、唯一無二の世界観が多くのファンを魅了し続けている。

メディアクトでは、ジョナサン・ジョースターを松下優也、ウィル・A・ツェペリを廣瀬友祐が演じた公演の様子をお届けする。


物語の舞台となるのは、19世紀末のイギリス。ジョースター家の一人息子、ジョナサン・ジョースター(演:松下優也)と、スラム街で生まれ育ったディオ・ブランドー(演:宮野真守)。二人の少年の出会いから、物語は始まる。二人は対等に育てられ逞しく成長していくが、ディオは“ジョジョ”の全てを奪おうと画策していた。しかし、その計画に綻びが生じた時、ディオは禁断の「石仮面」の力に手を出してしまう。


今作では、“ジョジョ”とディオの長きにわたる因縁の発端が描かれる第1部を舞台化。

独特の世界観は、壮大なセットや照明、プロジェクションマッピングを用いて舞台ならではの表現がされており、そのスケール感に目を奪われる。一瞬たりとも目が離せないほど、すべてのシーンが見どころと言えるだろう。特に1幕終盤、ジョースター邸でのシーンの緊迫感や迫力は凄まじい。映像とセットが組み合わさった演出に、息を飲む観客も多いだろう。

暗転がほとんどなく物語が進むのも、大きな特徴だ。アンサンブルの動きや照明、音楽などが緻密な計算の上に成り立っており、抵抗なく物語にのめり込むことができる。

また、今作は生バンドによる演奏も魅力のひとつ。“ジョジョ”の世界に欠かせない特徴的な効果音をはじめ、キャストの動きに合わせてバンドが音を添えている。聴覚からも、新たな“ジョジョ”の世界に出会うことができる。

『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』には、個性豊かなキャラクターたちが数多く登場する。唯一無二のキャラクターは実力のある俳優陣によって息が吹き込まれ、今作ならではの輝きを放っていた。

主人公の“ジョジョ”を演じるのは松下優也。勉学や作法が不得手だった少年が立派な紳士へと成長していく過程を、眩しく凛々しく演じていた。今までも数多くのミュージカルに出演し、その実力は折り紙付きの松下。今作では、観客の期待を更に上回る歌唱力を披露。安定した低音をはじめ、ノンビブラートの力強い歌声や、決して乱れることのない高音に心が震える。

ラスボスであり、もう一人の主人公でもあるディオは宮野真守が熱演。多彩な声の表現はもちろん、歌唱力、身体表現など、どれをとっても圧巻の存在感を放っていた。「悪のカリスマ」「邪悪の化身」であるディオだが、今作ではその繊細な内面も際立つ。アニメでディオを演じる声優・子安武人へのリスペクトを取り入れつつ、オリジナリティも出した無二のディオが発する「人間をやめるぞ」に胸が熱くなる。

ヒロイン、エリナ・ペンドルトンは清水美依紗が演じる。エリナの気高さをそのまま表現したような、美しい歌声に終始心を奪われる。凛とした姿はもちろん、“ジョジョ”とふたりで過ごす青春時代はとにかく可憐でかわいらしい。原作にはないエリナの心情も歌唱中に表現されているため、より“ジョジョ”との恋物語が愛おしく彩られていた。


裏社会から飛び出してきたスピードワゴン(演:YOUNG DAIS)は、クールに去るしラップも披露する。冒頭から惜しみなく披露されるラップに驚いた観客も多いだろうが、ストーリーテラー的存在を担ってくれるスピードワゴンのおかげで物語の内容がすっと頭に入ってくる。

廣瀬友祐が演じるジョジョの師匠、ウィル・A・ツェペリはまずその立ち姿に目を惹かれる。凛とした佇まいが、イタリアの貴族という説得力を加速させていた。安定感のある歌唱力に加え、長い手足を惜しみなく使った戦闘シーンにも注目したい。


“ジョジョ”の父親、ジョースター卿を演じる別所哲也の存在感はさすがの一言に尽きる。劇場の空気をがらりと変えてしまうような、深く渋みのある歌声に聞き惚れてしまう。厳しいだけではなく、慈愛に満ちた父親の姿は別所が演じてこその愛を感じられた。

ダリオ・ブランドーを演じるのはコング桑田。ディオの実父であるダリオの出番は、原作よりも多い。常にディオの背後に影のように付きまとう姿は、どこまでも不気味で憎たらしい。そのおかげでディオの家庭環境や親子関係への理解度が深まり、その内面もより深く理解することができるのではないだろうか。

ダリオをはじめ、切り裂きジャック(演:河内大和)やワンチェン(演:島田惇平)といった敵役の描かれ方も今作ならでは。

切り裂きジャックは、舞台上でディオと歌で対話をするシーンがある。原作では知り得なかった切り裂きジャックが抱く恐れが描かれており、その生い立ちまで垣間見えるような気がする。ただの悪役では終わらない切り裂きジャックは、河内が演じるからこそのキャラクターに仕上がっていた。馬の中からの登場シーンは、劇場で見届けて欲しい光景のひとつだ。


“ジョジョ”に欠かせない身体性を担う島田は、登場から観客の度肝を抜く。まさに“人間をやめた”動きは重力を感じさせず、指先や視線の動きひとつに至るまで“ジョジョ”の世界から飛び出してきたような不気味さを纏う。ディオに付き従う姿には一本の芯のようなものも感じられ、原作から地続きとなる魅力を引き出す手腕が凄まじい。

公演時間は、休憩25分を含む3時間30分。頭のてっぺんから爪先まで、唯一無二の世界観にどっぷりと浸ることができる。

2人の青年の数奇な運命を追う冒険譚、ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』。その情景は最後まで一貫して強く美しく、胸に刺さるものがあった。運命と向き合う人間讃歌の物語を、どうかその目で見届けてほしい。

今後の公演

北海道公演(札幌文化芸術劇場hitaru 3月26日〜3月30日)
兵庫公演(兵庫県立芸術文化センター KOBELCO大ホール 4月9日〜4月14日)を予定。
4月13日(土)17:00兵庫公演、14日(日)12:00兵庫大千穐楽公演のLIVE配信を予定。
https://www.tohostage.com/jojo/stream.html

記事:水川ひかる

公演概要

原作:荒木飛呂彦
「ジョジョの奇妙な冒険」(集英社ジャンプ コミックス刊)
演出・振付:長谷川寧 音楽:ドーヴ・アチア 脚本・歌詞:元吉庸泰
音楽監督:竹内 聡
アレンジメント・バンドマスター:蔡 忠浩
歌唱指導:山川高風/西川光子
美術:BLANk R&D
照明:齋藤茂男
音響:山本浩一
映像:上田大樹
衣裳:久保嘉男(yoshiokubo)
ヘアメイク:奥平正芳
特殊メイク:快歩
アクションアドバイザー:HAYATE
振付助手:田路紅瑠美
演出助手:末永陽一/時枝正俊
舞台監督:菅田幸夫
舞台監督補:足立充章
編曲:長谷部光祐/竹内秀太郎
音楽監督補・稽古ピアノ:若林優美
稽古ピアノ:境田桃子
音楽コーディネート:東宝ミュージック(株)
制作:中谷佑子
アソシエイトプロデューサー:渡邊 隆/塚田淳一
プロデューサー:鈴木隆介/馬場千晃
宣伝フォトグラファー:間仲 宇
宣伝アートディレクション:三嶋章義

【東京公演】 帝国劇場
2024年2月6日(火)初日~2月28日(水)千穐楽
※【2月10日~11日】は製作体制の事情により公演中止。
【全国ツアー公演】
札幌文化芸術劇場 hitaru
2024年3月26日(火)初日~3月30日(土)千穐楽
兵庫県立芸術文化センター KOBELCO 大ホール
2024年4月9日(火)初日~4月14日(日)大千穐楽

製作:東宝
ミュージカル『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』 公式サイト
https://www.tohostage.com/jojo/


©荒木飛呂彦/集英社