【プレ公演レポート】橋本祥平「さざ波だけじゃつまらない、刺激的な航海を」舞台『ヴィンランド・サガ 海の果ての果て篇』プレ公演レポート

レポート

舞台『ヴィンランド・サガ〜海の果ての果て 篇〜』が4月19日(金)、東京・こくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて開幕した。

今作は、舞台企画集団DisGOONie初の2.5次元作品として、西田大輔が脚本・演出を務め、主人公・トルフィンを中心とした「海の果ての果て 篇」、デンマーク王子・クヌートを中心とした「英雄復活 篇」の2本立てでの上演となる。

この記事では、初日に先駆けて行われた「海の果ての果て 篇」プレ公演の模様をお届けする。

『ヴィンランド・サガ〜海の果ての果て 篇〜』プレ公演レポート

「海の果ての果て 篇」では、現在軸のストーリーとトルフィン(演・橋本祥平)の過去の記憶がクロスオーバー形式で描かれ、現在をタテ糸に、トルフィンが復讐鬼に変貌した経緯やアシェラッドとの出会い、父トールズへの想いなどを横糸に、物語が綴られていく。

舞台は11世紀初頭の北ヨーロッパ。ヴァイキング(海賊)の首領・アシェラッド(演・萩野崇)と、その右腕・ビョルン(演・磯貝龍乎)が、丘の上からフランク族同士の砦攻防戦を眺めている。アシェラッドは眼下の戦況を飄々とした態度で分析すると、年若い青年・トルフィンを呼びつけ、攻め手側の首長に会って共同戦線を張る算段をつけてくるよう指示を出す。


ストーリーに引き込まれながらもつい目を引かれてしまうのが、迫力あるセットだ。ステージの上手・下手、客席に張り出すように置かれたセットは人間の背丈2人分ほどの高さがあり、登場人物がそこに立つと、まるで客席が戦場や海になったような臨場感を味わえる。


今作の舞台装置には、観客が思わず声を上げそうになるようなサプライズも満載だ。とくに「沈める」「掘る」「死角から飛び出す」といった動作を表すシーンでは、独創的なセットが一役買っている。演劇ファンの方は、ぜひ舞台装置も含めて楽しみにしてほしい。

物語はどんどん進んでいく。攻め手の将軍・ジャバザに話をつけたトルフィンが合図の矢を放つと、意表を突く形で現れたアシェラッド兵団が見事に勝利をおさめ、風のごとく、いや暴風に乗った竜のごとく荒々しくその場を去っていく。原作の第1話を忠実に描いたこの冒頭シーンで、早々に「これは面白い」と確信を持った観客も多いのではないだろうか。

脚本・演出の西田が原作の大ファンということもあり、今作ではあらゆる要素が「原作に不要な改変を加えないこと」を強く意識しながら作られている。なにげないセリフの1つ1つや、キャラクターの細かい表情、動作など、全てにおいて「原作に忠実に」という意志が貫かれているのだ。

と言っても、もちろん原作をなぞるだけの舞台ではない。オリジナル脚本から2.5次元まで経験豊富な西田だからこそ、また、演劇表現のプロフェッショナルであるDisGOONieだからこそ実現できる、舞台ならではの『ヴィンランド・サガ』が表現されている。

過去と現在をスイッチしながら(ときに融合させながら)描かれるスタイルは、原作をより魅力的な形で板の上に立ち上げるために考え抜かれた選択だろう。また、現在のトルフィンが記憶の中のシーンにも常に登場し、ときに記憶と一体化して感情を表出させていく描き方からは、トルフィンにとって全ての記憶が深い心の傷と一体化してしまっていることが伝わる。

百戦錬磨の演劇人が、原作に忠実に作り込んだ結果、原作ファンにも演劇ファンにも見応えのある濃厚な作品が誕生した。実力派揃いのキャスト陣も西田の意図をしっかりと汲み、それぞれの個性をフル活用して、表情豊かで生々しい『ヴィンランド・サガ』の世界を作り上げている。

日常シーンの会話はもちろん、戦闘シーンのアクション(殺陣)からもキャラクターの個性や息遣いを体感できるので、とくに原作が好きな方はぜひアクションにも注目してみてほしい。

たとえばトルフィンの戦闘シーンでは、演じる橋本の身体能力を活かしたスピード感のあるアクションを堪能できる。2本の短剣を武器に相手の懐に飛び込むトルフィンの戦闘スタイルは、橋本が得意とする、手数が多く緻密な殺陣と相性抜群だ。橋本の殺陣は、驚くほど敏捷でありながら、旋回や静止、蹴りの高さなど細部まで油断がなく美しい。今作では、バリエーション豊かな数々のアクションシーンでトルフィンの疾さと強さを実感できるはずだ。


対するトルケル(演・林野健志)は、「のっぽのトルケル」の異名そのまま、巨大な体躯から大斧・大槍を振り降ろす豪快なアクションを披露してくれる。身長差があるトルフィンとの戦いはもちろん、他のどの戦闘でも相手が小さく見えるほどの迫力だ。天下の豪傑トルケルは、戦闘が始まると子どものようにはしゃぐが、その戦い方や表情、発する言葉には、兵士として50年間最前線で生き抜いてきた大樹のような年輪が刻まれている。林野が見せるそんな「芝居の厚み」も、アクションとともにぜひ堪能してほしい。


一方、トルフィンが行動をともにしているヴァイキングの首領・アシェラッドは、一見ユーモラスで気さくな人物だが、その内側にはある種の非情さと老獪な知略を秘めた策士だ。強烈な魅力と底知れない恐ろしさを併せ持つ、この原作きってのカリスマを、萩野はまるで素のように「さらりと」演じる。この技術とセンスは、千言万語を費やしてもなかなか表現しがたい。この唯一無二の鬼才が繰り出すアクションには、まさにアシェラッドでしか実現し得ない良さが詰まっている。さすがの一言だ。

そんなアシェラッドと見応え抜群の決闘シーンを繰り広げるのが、トルフィンの父親・トールズ(演・中村誠治郎)だ。JAC出身で殺陣師も務める中村の殺陣は、共演者や演出家からも一目置かれる存在感。「ヨームの戦鬼(トロル)」と呼ばれた最強の戦士・トールズを、その身のこなしと圧倒的なアクション技術で見事に体現してみせる。トールズの信念を表す素手でのアクション、アシェラッドとの鬼気迫る決闘、そしてトルフィンに向けるあまりにも温かな愛情を、ぜひ劇場で体感してほしい。

芝居、脚本、演出、照明、音響、セット、特殊効果……そして、客席に座る観客の存在。まさにすべてを駆使して『ヴィンランド・サガ』を表現している今作。2次元と3次元の壁を破ろうと、もがきながら挑みかかってくるような、凄みのある作品である。演劇ファンはもちろん、舞台作品を見たことがない人にもおすすめしたい。「原作の面白さ」と「舞台の良さ」の相乗効果を体験できるはずだ。

また、物語のキーマンの一人であるクヌート(演・北村諒)とその周辺人物については、4月23日(火)から上演される「英雄復活 篇」にてじっくり描かれる予定だ。「海の果ての果て 篇」に続き、「英雄復活 篇」への期待も高まる。

カーテンコールでは各キャストが挨拶と意気込みを語った。中でもDisGOONieの主要キャストとして西田とともに全作品に携わってきた村田洋二郎(フローキ役)は、「DisGOONieは集団を1隻の船と考え、みんなで航海して1つの場所を目指す場です。そんなDisGOONie初の2.5ジゲン作品が『ヴィンランド・サガ』で本当に嬉しい」とコメント。さらに主演の橋本祥平について、「稽古場で"まずは段取りを確認するだけでOK"というときであっても、祥平くんは一度として手を抜いたことがありません。彼の汗の素晴らしさをたくさんのお客様に見てほしい」と続けた。


クヌート役の北村諒は、「自分の好きなものを他の人にも見せたい、友達に共有したい、と思うのと同じ気持ちで、僕はこの作品をたくさんの人に広めたい。観ていただいて感じたことがあればSNSにたくさん書いて紹介してくださったら嬉しいです。あとできれば僕(クヌート)については、"存在感は放ってたよ〜"って書いておいてください」とユーモアたっぷりのコメントで会場の笑いを誘った。

トルフィン役の橋本は、「まずはみんなでここに立てていることを本当に幸せに思います。今日に至るまで荒波の連続でしたが、でも航海というものはやっぱりさざ波だけじゃつまらない。刺激的で濃い時間を過ごしてここまで来られて、本当に嬉しいです。(アンサンブルメンバーや舞台装置、照明などを見渡しながら)見えないところでも、本当にみんなで色々なことをやっている。その努力が報われてほしいという思いが強いです。僕らが一番報われるのは、やっぱりお客様に見ていただくこと。原作はもちろん素晴らしい、そして舞台も頑張った、と言われるように、一球入魂だましいで毎公演頑張ります。よろしくお願いします」と締めくくった。

舞台『ヴィンランド・サガ』は、「海の果ての果て 篇」が4月19日(金)〜28日(日)、「英雄復活 篇」が23日(火)〜29日(月・祝)、それぞれこくみん共済 coop ホール/スペース・ゼロにて上演される。

取材・文:豊島オリカ

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【公演概要】
舞台『ヴィンランド・サガ』

原作:幸村誠『ヴィンランド・サガ』(講談社「アフタヌーン」連載)
脚本・演出:西田大輔
企画・製作:舞台『ヴィンランド・サガ』2024製作委員会
主催:DisGOONie/講談社
出演:トルフィン/橋本祥平 クヌート/北村諒
トールズ/中村誠治郎 トルケル/林野健志 ビョルン/磯貝龍乎
フローキ/村田洋二郎 ユルヴァ/山崎紗彩 ※「海の果ての果て篇」のみ ラグナル/佐久間祐人
ヴィリバルド/林田航平 アスゲート/加藤靖久 アトリ/澤田拓郎
耳/本間健大 ハーフダン/書川勇輝
アシェラッド/萩野崇

※山崎紗彩の「崎」は「たつさき」が正式表記

公式サイト:https://disgoonie.jp/vinlandsaga
公式X(Twitter):https://twitter.com/disgoonie
権利表記:©幸村誠・講談社/舞台『ヴィンランド・サガ』2024製作委員会