【レポート】須賀健太「言葉の持つ力を大事にしていきたい」演劇ユニット『Octolibre』初イベントレポート+インタビュー

7月19日(土)、演劇ユニット『Octolibre(オクトリーブル)』初のイベントが東京・目黒中小企業センターホールにて開催された。
『Octolibre』は、俳優・演出家の須賀健太と、俳優・プロデューサーの桧山征翔が結成した演劇ユニット。同い年、同じ10月(October)生まれの2人が「天秤座(Libra)の天秤のようにバランスを取り合い、自由(libre)に伸び伸びと創作活動に励み、自由に演じられる環境を作りたい」との思いから立ち上げた。初イベントとなる今回は、須賀健太による生演出での公開本読み(脚本:黒沢ともよ)。
須賀・桧山と縁の深い役者たちをゲスト・MCに呼んでのイベントの様子をレポートするとともに、イベント後に2人におこなったインタビューをお届けする。






イベントのMCは芦沢ムネト(パップコーン)。芦沢の呼び込みで舞台に現れた須賀と桧山に、早速芦沢から「(緊張した桧山の顔色が)床と同じ色」と突っ込みが入る。人前に立つのは2年ぶりだという桧山は緊張のあまり登場早々水を飲み、須賀もまた「緊張がうつった」と、芦沢いわく“ヨガのような呼吸”に。
この日のイベント内容は「本読み」。舞台を作っていく上で、顔合わせの後におこなわれるものだ。稽古の前にそろって台本を読む、いわばゼロのものを1にしていく工程。ここで、須賀いわく「縁(ゆかり)しかない」ゲスト、猪野広樹、小坂涼太郎、武子直輝、永田崇人が客席からの拍手で迎えられた。






イベントへのコメントなどで少し緊張をほぐしたあとは、早速本読みへ。席に着いた須賀、桧山、ゲストの4人、MCだが、注目ポイントは須賀と武子のタブレット。紙の台本に加え、最近ではデータ化された台本を入れたタブレットを手に稽古する役者も多い。「本読みなので稽古のような感じで来て」と言われ素直にジャージで来た永田のスタイルとともに、普段どのように稽古しているのかを知れる機会となった。
舞台上の役者たちがあらためて台本をめくりはじめると、客席でも、入口の物販で購入した本日の台本を取り出す動きが。ゲストたちからは「すごい数のスタッフさんがいるみたい!」と声が上がる。テキレジ(台本の訂正や手直し、修正など)の指示が須賀から入り、役者たちはそれぞれペンなどで台本に書き込みをする。これも通常では見られない光景だ。
「通常の本読みと同じように」とそのまま本読みが始まり、役者たちがセリフを読み進めていく。読み聞かせや朗読劇とも違う、新しい感覚だ。ときに読み間違えやつっかえが起きてもそれはご愛嬌。場内から笑い声や拍手が生まれながら、順調にまずは1周目が終了した。






黒沢ともよが今回のイベントのために書いた物語は、100~150席ほどの劇場で観たくなるような、ハートフルで不思議なストーリーだ。「頭のモノローグは、導入でもあるけれどもセリフの速度感を」「面と向かって喋っているのではないイメージで」「立ってやるとしたら、うつむいている感じかな」といった須賀の指摘によって、文字だけではわからなかった、登場人物たちの感情の動きがどんどん見えてくる。役者としてのキャリアが長い須賀ならではの、具体的かつ明確な「こうしてほしい」が伝わる、役者たちにとって納得できるであろう指示ばかりだ。
ときに「声量は上げずに、声色(こわいろ)でテンションを上げてほしい」「用意した言葉じゃなくて、とっさに出てきたものを喋っているように」といった、繊細な指示を出し、役者たちは「わかりました」と納得して台本に書き込みをしていく。いったん全ての提言を終えてから、「ここだけは聞きたい」という箇所のみをもう1度読むことに。
須賀の演出家としてのアドバイスにより、人物たちがより生き生きと動き回っているように聞こえた2度目の本読みは、笑いどころはさらにはっきりとし、メリハリがついて物語に一気に色がついたように感じた。
武子は「お客さまがいる中での本読みは、不思議な感じだと思っていたのですが、やってみるとがっつりと普通に本読みをしていました(笑)」と、集中していつもどおりのパフォーマンスができた様子。永田は「いつもの読み合わせの緊張感はありつつ、それをお客さまに見ていただけるのは、こそばゆいですがおもしろかったですね。それから、健太くんの(演出家として)気になった部分などが、なるほどね! と思いました」と感服。
演じたキャラクターの立ち位置的にも笑いを取ることが多かった小坂は「俺、こんなもんなんですよ…」と、自虐気味に。しかし続けて「俺がどういう芝居をするのか気になった方は、舞台に来てください」と客席へアピールした。犬役として須賀から「言うことは何もない」と絶賛されていた猪野は「楽しかったです。お客さんの反応を見て、同じ時間を共有できた感じがあります」と、普段の本読みでは得られない“観客の反応”に新鮮さを感じたことを口にした。
桧山は「僕も含めて、(ゲストの)皆さんも健ちゃん(須賀)の演出を受けるのは初めてだろうし、健ちゃんがひとこと言うたびに“締まるなぁ”と思っていました」と須賀の演出に触れ、それを受けて須賀は「普段は役者として接しているから緊張しました」と告白。役者たちがみな桧山の言葉に「そうだね」とうなずく中、小坂は「昔から健太くんに相談していたから」と長く須賀からアドバイスを受けていたことを披露。しかし、小坂の言葉にゲストたちが「それで“こう”なっちゃったの?」「“こう”なるんなら、もう(須賀の演出を)受けたくないな!」と食いつき、仲の良いメンバーならではのいじりあいで観客席は笑いの渦に包まれた。
続けてMCの芦沢から「ちなみにこの演目、続きは…」と話を振られた須賀、「実は来年10月に…本公演をやる調整を進めています!」と衝撃の発表。日程やその他の情報はまだだが、楽しみに待とう。
最後に芦沢からコメントを求められると、桧山は「これから須賀健太くんと一緒にお芝居を作っていきます。今日は『本当にやるんだ…!』と緊張感でいっぱいでした。皆さまの思いやご期待に応えていかなければ、と改めて思いました」と、イベントを終えて思いを新たにした模様。須賀は「僕たち2人は、演劇(界)的には、まだ若手と言われる世代です。この年代の僕たちがどう演劇と向き合っていくかで、この先の未来の演劇が変わっていくと思っています。僕たちは、演劇のおもしろさを身をもって体感しています。それを1人でも多くの方に味わっていただくのが、演劇への恩返しだと思っているんです。それができるようになるのが目標です」と力強くコメントを寄せ、イベントは終了した。






また、イベント後に須賀と桧山へインタビューをおこない、イベントの感想や今後どうなっていきたいかなどについて話を聞いた。
――『Octolibre(オクトリーブル)』初のイベントお疲れ様でした! まずはご感想をお聞かせください。
須賀健太:まずは、緊張しました! 自分が役者として本読みに参加するときは「こう読もう」と準備してから行くのですが、演出家の立場では、役者さんそれぞれがどういうものを持って来てくれるのか、その場になってみないと分かりませんからね。役者さんたちの本読みを聞いて感じて瞬時にフィードバックして、かつ、お客さまにそれらを見ていただく…。とても緊張しましたが、役者の皆さんはのめり込んでくれていましたし、お客さまにも喜んでいただけてよかったです。
普段の本読みはカンパニーのメンバーだけでおこなうので、笑いどころなどがあっても反応がわからないんですよね。でも今日はお客さまの反応を肌で感じられましたし、何よりも、お客さまがすでに「聴く姿勢」で、積極的にこのイベントを楽しんでくれたのが心強かったです。
桧山征翔:プロデューサーとしてこのイベントを企画して、やっとたどり着いた…という思いや、いろいろな感情が織り交ざった本番の時間でした。この2年ほどはプロデュース業に専念していたために皆さまの前でお芝居をするのは本当に久しぶりだったので、表に立つ緊張感と、イベントを成功させなければというプレッシャーで大変なことになっていて(笑)。でもふたを開けてみれば、達者なゲストの方々とMCの芦沢さんに助けていただきながら、客席の皆さんの反応も見られてとてもよかったです。
「来年の10月に本公演を調整中」と発表させていただいたように、公演を打つにはとても時間やさまざまな努力が必要で、1年に1本作れるかどうか、というものです。そんな中でも皆さまに演劇を身近に感じていただける機会になれるのであれば、また単発でこういったイベントをやりたいですね。
――『Octolibre(オクトリーブル)』初のイベントを「本読み」にしたのはなぜでしょうか?
桧山:僕が別件で公開本読みのイベント(本読みLIVE『すりあくっ!!!』)をプロデュースしているのも理由のひとつではあるのですが、何よりも、“須賀健太の演出”を皆さんに見ていただく機会を作りたかったんです。
須賀:演劇のおもしろさにはいろいろな形があります。完成された作品を観て「美しい」「楽しい」と感じるストレートなもの。身近に感じながら、構えずにもっと気楽に観る楽しみ方。それから、創作のおもしろさ。僕自身が感じているそういった楽しみ方を、皆さんにも感じていただきたくて。それから、演出家としての度胸や自信をつけていくためにも、こういったイベントで感覚を磨いていく必要があると考えています。
――今回のイベントが「本読み」でしたから、今後、舞台制作の経過を追うようなイベントが開かれたらおもしろいですね。
須賀:ドキュメンタリー性がありますね! ゼロから公演まですべての過程をお見せしていくのも、ひとつの取り組みかもしれません。
――須賀さんは劇団「ハイキュー!!」にて演出をされましたが、今回は原作のないオリジナル作品でした。原作のある作品とオリジナルの作品では、どのように違う印象を受けましたか?
須賀:原作のある作品でもキャスティングはもちろん大事なのですが、オリジナルではさらに「キャスティングの妙」を感じました。初めて台本を読んだときにわいたインスピレーションに役をあてはめていったら、見事にきれいにはまってくれて。それから、感情の流れや動きに関しても違いがありますね。原作のある作品はお手本や参考となる“元”があって、その中でさまざまな工夫をしながら舞台ならではの作品を作り上げています。でもオリジナル作品には“元”がないので、“正解”がないと同時に可能性が無限大だと、今回認識しました。
桧山:みんなナイスキャスティングだったよ!
須賀:夜の部では配役をかえて公演をおこなうので、そのパターンではどうなるのか今から楽しみです。
――桧山さんは、須賀さんの演出の特徴や特性をどのようにとらえていますか?
桧山:言葉・セリフに対しての感覚が優れていますね。今日のイベントでのノート(演出家の意向を伝える時間や、指示・指導そのもの)でも、自分では思ってもみなかった解釈や発想があって驚きました。いくつもの場面で「なるほど、その言い方なら作品にもっと深みが出る」と思ってシンプルにすごい! と。それは健ちゃんが、役者経験が豊富かつ現役で芝居をしているプレーヤー型の演出家だからかもしれません。これから一緒にお芝居を作っていけるのが楽しみです。
――須賀さんは、桧山さんをどんな役者だと感じていますか?
須賀:どう料理しようかな…! と思わせてくれる役者です。彼の特性をひとつずつ拾い上げてお芝居を作っていけたらと思っています。彼のお芝居はとてもはっきりしているのと、お客さまへの伝え方が丁寧なんですよ。気持ちや伝えたいことを漏らさず、そして嘘にしないように表現しようとしている。
桧山:そうだね。今まで、耳でセリフを聞くだけでは理解が難しい戯曲にたくさん向き合って演じてきたからかも。そういう作品の中でセリフが聞こえない、というのはお客さまにとって1番ストレスになると思って。お客さまにストレスを与えないためにはどうすれば…? を大前提にお芝居をしてきたからこそ、「気持ちを漏らさず伝えている」と感じてもらえるようになったのかもしれません。
須賀:今までも彼の作品をいろいろと見てきましたが、これからもっと彼のお芝居を見て、引き出しをたくさん開けていきながらお芝居を一緒に作っていきたいと思っています。
――最後に、この『Octolibre(オクトリーブル)』をどうしていきたいか、イベントやユニットの方向性やビジョンを教えてください。
桧山:『Octolibre』なりのイベントにしていきたいですね。他でも、自分がプロデューサーとなって本読みのイベントを企画運営していますが、それとはまた違う魅力のある、僕らなりのものに。今日のイベントでの手ごたえや反省、改善点などを踏まえて、今後さらに新しい形を探しつつ作っていけたらと思っています。
須賀:お互いに楽しみながら、「作る」ことに純粋に向き合っていきたいです。それから、言葉の大切さと、言葉の持つ力を大事にしていきたい。それは、演出家であると同時に役者としても、今後大切にしていきたいと思っていることなんです。それから、演出をさせていただいた劇団「ハイキュー!!」でも感じたのですが、体の持つエネルギーと心のつながりも同じように大事にしたいです。今回は本読みのイベントでしたが、この先、心と身体のつながりを見せるお芝居を『Octolibre』で作って、僕たちが向き合ったものを皆さんに伝えていきたいですね!
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完成された「舞台」を作品として享受することが圧倒的に多い観客としては、文字である台本のセリフが、演出家の言葉でどのように変わっていくのかを知る、貴重な体験となるイベントだったのではないだろうか。ひとつのセリフにこめられた思いを、演出家がどのように受け取って解釈し、役者にそれを伝えていくのか。ト書きにも書かれていない状況や登場人物たちの気持ちを、演出家がどう判断して世界を作り上げていくのか…。演出家の頭の中や世界観、大事にしていることや、演出家自身の価値観や演劇に対する思いなども知れるイベントだったと感じる。
また、脚本や演出家の思いを汲みながらその要求にこたえ、書かれている世界を表現していく役者たちの瞬発力や対応力の高さも見事だった。「本読み」から始まり、この先、舞台がどのように作られていくのかをリアルタイムで追いたくなった人も多いのではないだろうか。舞台の魅力を伝えるために、また『Octolibre』がこのような機会を作ってくれることを期待したい。
取材・文・写真:広瀬有希
































演劇ユニット『Octolibre(オクトリーブル』結成記念公開本読みイベント
《日時》
2025年7月19日(土)
14時/18時(開場は30分前)
《会場》
目黒中小企業センターホール
《出演者》

GEST
猪野広樹、小坂涼太郎、武子直輝、永田崇人(50音順)
Octolibre
須賀健太(演出)、桧山征翔
MC
芦沢ムネト
《チケット代》
全席¥6,800
《チケット販売スケジュール》
・一般先行:7/6(日)19:00〜
《チケット販売URL》
■14:00公演
https://t.livepocket.jp/e/ltmus
■18:00公演
https://t.livepocket.jp/e/pc238
《公式X》
@Octolibre_0719



