【ゲネプロレポート】舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場(いくさば)―「賢者の石」を巡る物語が複雑になる舞台化第二弾!

レポート

6月8日(土)、東京・日本青年館にて舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場(いくさば)―が開幕。初日に先立ち、前日に公開ゲネプロがおこなわれた。本作は、2001年~2010年まで月刊「少年ガンガン」(スクウェア・エニックス刊)にて連載された大人気作品「鋼の錬金術師」(荒川弘・作)の舞台化作品。第1弾公演は2023年3月に大阪・東京で上演された。錬金術を扱うシーンや炎などの視覚効果、劇場内を埋め尽くすほどの役者たちの熱量高い芝居、臨場感をさらに高める迫力ある生バンド演奏などが話題を呼び、大好評のうちに幕を閉じた。

第二弾である本作では、「賢者の石」の秘密をめぐってさらに深まっていく物語が描かれる。

エドワード・エルリックは一色洋平・廣野凌大、ロイ・マスタング役は蒼木陣と和田琢磨が、それぞれWキャストで続投。(公開ゲネプロのエドワード・エルリック役は廣野凌大。ロイ・マスタング役は和田琢磨)


第二弾は、前作のストーリーを軽くさらいながらテンポよく物語が始まる。グリード、リン・ヤオ(演:本田礼生)、メイ・チャン(演:柿澤ゆりあ)といった新キャラクターが続々と登場し、物語序盤からキング・ブラッドレイ(演:谷口賢志)のすさまじいアクションが舞台上に竜巻のような力強い旋風を巻き起こす。別の場所で同時期に起こっている事象も、コミックスの同ページ内に存在しているかのように提示されるので、時系列の記憶を頭の中で整理することもない。


今作では、エドとアル(アルフォンス・エルリック/演:眞嶋秀斗・スーツアクター:桜田航成)の兄弟関係の描写にもより深みが出ている。アルの身体をもとに戻すために、頭をフル回転させてさまざまな事象からその方法にたどりついていく、エドの推理と判断力。国家錬金術の称号を持ち、体術も優れたヒーロー的な存在でありながら、大人の軍人たちやピナコ・ロックベル(演:久下恵美)たちからは、きちんと“子ども”として扱われているのも良い点だ。

本作では、戦争や人種間問題、陰謀、人間愛なども描いており、エルリック兄弟はさまざまな体験を経てさらに強くなっていく。第二弾である今作では、圧倒的な強さと存在感を示すふたりであっても、大人たちから見れば“子ども”であり、いくら強くても庇護するべき存在なのだと感じるいくつものシーンが印象的だ。


また今作では、ロイ・マスタングを軸とした軍のチームが大きな役割を持っている。あるシーンでのリザ・ホークアイ(演:佃井皆美)の動揺と絶望、慟哭。いつも飄々として明るいジャン・ハボック(演:君沢ユウキ)が見せる、やりきれない無念さ。普段は邪険に扱っているようで、実はロイを強く慕っている部下たちと、そんな部下たちを信じて自分の背中を預けているロイの絆を強く感じ取れた。リン・ヤオとランファン(演:星波)の関係性にも、軍の彼らの関係と同じく強い尊敬と愛情を感じる。リン・ヤオを演じる本田礼生とランファン役の星波は、さすがの身体能力で優れたアクションシーンを見せてくれる。芝居面でも表情や表現がキャラクターにぴったりで、まさにはまり役と言えるだろう。


舞台版の特徴として、「原作のページどおりに話が進んでいくのではない」ことが挙げられる。だいぶ先のエピソードであっても、大胆に前の方の展開の中へ組み込まれているのだ。しかしそれは、良い意味での原作再構築だと感じる。原作のストーリーをただなぞっていくのではなく、時間制限がある中で1本のストーリーとしてまとめ、人間が演じる舞台として作り上げるための再編集だ。原作を愛し、そこで描かれている根幹であるものは外さない、という強い意志を石丸さち子の書く脚本から感じた。いわば、舞台版の本作を生み出す錬金術だとも言える。

メインキャラクターであるエドとロイがダブルキャストである本作。少年らしさとクレバーさが同居する廣野エド、そのすぐれた身体表現で少年漫画を3次元に再現する、熱い芝居の一色エド。威厳と冷静さを持ち、上にのし上がろうという気概を強く感じる蒼木ロイ、飄々としていながらも芯の強さと求心力を持つ和田ロイ。どの組み合わせで見ても異なる良さを発見できるはずだ。

さらに物語の核心へ進んでいく第二弾。続く(とすれば)今後の物語では、どのような彼らの成長を見せてくれるのか楽しみでならないが、まずはこの公演でしっかりと彼らの生きざまを心と目に焼き付けたい。

また、舞台上の熱気を中和するかのように日本青年館の客席空調はしっかりめだ。蒸し暑い時期の公演ではあるが、観劇時に羽織るものをもう1枚足せるように、荷物に入れていくのもいいだろう。

公演時間は、休憩をはさんで約3時間。6月16日(日)までは日本青年館で、6月29日(土)と30日(日)は、大阪・SkyシアターMBSにて公演がおこなわれる。

取材・文:広瀬有希/撮影:ケイヒカル

公演概要
舞台『鋼の錬金術師』―それぞれの戦場―

原作  「鋼の錬金術師」 荒川 弘(「ガンガンコミックス」スクウェア・エニックス刊) 
脚本・演出 石丸さち子
音楽監督 森 大輔 /
作詞 石丸さち子 作曲 森 大輔 /
美術 伊藤雅子 照明 日下靖順 音響効果 天野高志 音響 増澤 努 映像 O-beron inc.
舞台監督 今野健一 / ヘアメイク 馮 啓孝 井村祥子 衣裳 渡邊礼子 小道具 羽鳥健一 殺陣 新田健太 演出助手 矢本翼子  楽器 中平チェリー皓也/ 制作進行 麻田幹太 / 宣伝デザイン 山代政一 
グッズデザイン 山代政一 石本寛絵 デザイン協力 石本茂幸 フォトグラファー TOBI

出演 エドワード・エルリック  一色洋平/廣野凌大(Wキャスト)
   アルフォンス・エルリック 眞嶋秀斗ウィンリィ・ロックベル   岡部 麟
   ロイ・マスタング 蒼木 陣/和田琢磨 (Wキャスト) 
   リザ・ホークアイ 佃井皆美
   ジャン・ハボック 君沢ユウキ
   ヴァトー・ファルマン 寿里 
   デニー・ブロッシュ 原嶋元久 
   ハイマンス・ブレダ 滝川広大
   ケイン・フュリー 野口 準  
   マリア・ロス 七木奏音
   リン・ヤオ 本田礼生
   メイ・チャン 柿澤ゆりあ
   フー 新田健太
   ランファン 星波
   ティム・マルコー 阿部 裕
   ヨキ 大石継太
   イズミ・カーティス 小野妃香里
   ラスト 大湖せしる(※※)
   エンヴィー 平松來馬
   グラトニー 草野大成
   ピナコ・ロックベル 久下恵美
   キング・ブラッドレイ 谷口賢志
   傷の男(スカー) 星 智也 
   ゾルフ・J・キンブリー 鈴木勝吾
   ヴァン・ホーエンハイム 鍛治直人
   ※Wキャストは五十音順
   ※※出演者が変更になっております

   SUIT ACTOR アルフォンス・エルリック 桜田航成
   ENSEMBLE 真鍋恭輔 田嶋悠理 榮 桃太郎 丸山雄也  
   BAND MEMBER Band Master & Key. 森 大輔 Gt. オオニシユウスケ Dr. 直井弦太 Ba. 富岡陽向


主催 舞台『鋼の錬金術師』製作委員会