【ゲネプロレポート】ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise 開幕

ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Repriseが、2025年5月16日(金)に幕を開けた。


原作は、2016年より「ジャンプSQ.」(集英社)で連載中の人気漫画『憂国のモリアーティ』。ミュージカル版は2019年5月に第1弾を“ピアノとヴァイオリンの生演奏”による公演でスタートし、大きな話題を呼んだ。
その後シリーズを重ね、2023年には原作第1部のクライマックスを描いた第5弾「Op.5 -最後の事件-」、2024年にはシリーズ5周年を記念したコンサートが上演され、毎回熱量を増しながら満員御礼の大盛況で幕を閉じてきた。
今回挑むのは、2020年7月に上演され好評を博した「Op.2 -大英帝国の醜聞-」編の再構成。W主演の鈴木勝吾(ウィリアム・ジェームズ・モリアーティ役)と平野良(シャーロック・ホームズ役)を中心に、新たなキャスト陣を迎えての再演となる。
メディアクトでは、初日に先立ち行われたゲネプロ公演の模様を劇中写真と共にレポートする。
物語の舞台は19世紀末、大英帝国最盛期のロンドン。
完全な階級制度により、上流階級が絶対的支配を誇るこの社会で、下層階級の民は希望を持てずに生きている。
そんな腐敗した社会に対し、“犯罪卿”として暗躍するウィリアム・ジェームズ・モリアーティ。その存在を追うのは“名探偵”シャーロック・ホームズ。抜群の観察力と推理力を武器に、犯罪卿という謎に迫っていく。
本作では「大英帝国の醜聞」に加え、「バスカヴィル家の狩り」や「二人の探偵」といった原作の人気エピソードも盛り込まれ、濃密なドラマが展開する。
陸軍省情報部長官マイクロフト(伊藤裕一)から、重大な“機密文書”の奪還任務を受けたアルバート(廣瀬智紀)。そのターゲットは、“The Woman(あの女)”と称されるアイリーン・アドラー(彩凪翔)だった。
アルバートから内容を知らされたウィリアムは、“犯罪卿”として密かに策略を巡らせる。一方アイリーンは、シャーロック・ホームズに接触を果たし、駆け引きは複雑に絡み合っていく。
脚本・演出を手がけるのは西森英行氏。原作へのリスペクトに満ちた脚本は、原作ファンはもちろん、初めて本作に触れる観客も物語に入り込みやすい仕上がりとなっている。音楽はシリーズを通して担当するただすけ氏が手がけ、物語の緊張感と情感を巧みに支えている。
演者たちの熱演と緻密な演出、そして音楽によって、複雑なトリックや頭脳戦も観客に分かりやすく伝わってくる。前作よりも一層ブラッシュアップされた本作は、シリーズの中でも高い完成度を誇る公演といえるだろう。
今作の魅力を語る上で外せないのが、ピアノ(境田桃子)とヴァイオリン(林周雅)による生演奏の存在だ。幕が上がると同時に響き渡る旋律が、観客を19世紀末のイングランドへと誘い、劇中の駆け引きをより鮮烈に浮かび上がらせる。
生演奏ならではの緊張感とライブ感が張り詰めた空気を生み出し、そこにキャスト陣の力強い歌声が重なって、舞台全体を一つの“音楽劇”として昇華させている。
また、アンサンブルの存在感も健在だ。市民として物語に溶け込みながら、物語世界にリアリティを与え、ウィリアムやシャーロックによる社会の変化を際立たせる。まさに“民衆の物語”としての象徴であり、舞台全体に厚みを持たせている。
主演の2人──鈴木勝吾と平野良は、長年「モリミュ」シリーズを支えてきた経験と実力で本作を牽引する。
鈴木演じるウィリアムは、芯のある高音が彼の信念の強さを如実に語っており、美しく凛とした佇まいの中に時折見せる冷徹さが“犯罪卿”としての本質を鮮やかに浮かび上がらせる。その瞳の奥に宿る覚悟や哀しみの表現は圧巻で、一挙手一投足から威厳が感じられる。静かな狂気と確固たる理念を併せ持つ存在を、説得力と美しさをもって舞台上に体現していた。
鈴木の演技には長年モリミュと歩んできた積み重ねが如実に感じられ、シリーズを超えてキャラクターと共に成長してきた俳優としての深みがある。
一方の平野良が演じるシャーロック・ホームズは、変人奇人の代名詞のような存在でありながら、その中に潜む鋭い洞察力や人間らしさが繊細に描かれていた。面倒臭がりでぶっきらぼう、そんなだらしなさや粗雑さすらも、すべてが魅力的に映る。むしろその不完全さが彼の天才性や人間味を際立たせ、荒っぽいけれどかっこいいという絶妙なバランスを生み出している。
相棒のジョン・H・ワトソン(橋本真一)やミス・ハドソン(能條愛未)とのやり取りでは、そんな飄々とした一面がユーモアと共に滲み出ており、観客の共感と笑いを誘うことも。
平野の演技は、キャラクターの複雑さと愛嬌を絶妙に共存させており、観る者を惹きつけてやまない。時に粗暴に、時に切実に、そして核心では鋭く──、平野が演じるシャーロック像はただの名探偵にとどまらず、人間味にあふれた生きた人物として舞台に息づいている。
また、両者の感情を旋律に乗せて届ける表現力に心を打たれる。台詞だけではなく歌で語ることで、ウィリアムとシャーロックの間に交錯する思想や情念がより深く伝わってくる。
今回の鍵を握るアイリーン・アドラーを演じる彩凪翔は、元宝塚男役スターとしての華やかさと演技力で、美貌の悪女というキャラクターに説得力を持たせている。内に秘めた信念の強さも、彼女が演じるからこそ際立っていた。
新キャスト陣も、それぞれに存在感を放っている。
アルバート・ジェームズ・モリアーティは、長男として物語の軸を締める重厚な演技が光る。ルイス・ジェームズ・モリアーティ(百名ヒロキ)は、兄ウィリアムへの忠誠を繊細に表現。セバスチャン・モラン(佐々木崇)は、長い手足を活かした戦闘シーンと共に、腹心の部下としてウィリアムを支える説得力に満ちている。フレッド・ポーロック(横山賀三)は、葛藤と静かな覚悟を丁寧に演じていた。
シャーロックの相棒であるジョン・H・ワトソンは、物語の“善性”として観客の心を救う存在だ。ミス・ハドソンもまた、シャーロックたちとの掛け合いに温かみを添え、舞台に癒しをもたらしていた。マイクロフト・ホームズを演じる伊藤裕一は、“政府そのもの”と呼ばれる存在にふさわしい重厚さと知性をまとい、シャーロックの兄として物語に深みを加えている。
本作は、過去作の再演にとどまらず、シリーズのすべてを受け継いだ作品だと感じることができた。これまでの積み重ねがあるからこその重厚さ、深みを増したしたキャラクターたちの関係性、新たな息吹を吹き込むキャスト陣──。そのすべてが融合し、今作ならではの“モリミュらしさ”を生み出している。
年月とともに愛されてきたことが舞台全体の厚みに繋がり、観る者に「この作品が今も続いている」ことの意味を強く実感させてくれる公演となっていた。







ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Repriseは、東京・シアターHにて5月18日(日)まで、京都・京都劇場にて5月23日(金)〜25日(日)、東京・天王洲 銀河劇場にて5月30日(金)~6月8日(日)まで上演予定。
緻密な構成、圧巻の歌唱、生演奏による極上の臨場感──。シリーズの真価が結集した本作を、ぜひ劇場で体感してほしい。
取材・文:水川ひかる/写真:ケイヒカル
≪ライブ配信公演≫
2025年5月17日(土) 13:00【全景映像】/18:00【スイッチング映像】
2025年6月8日(日) 12:00【全景映像】/17:00(大千秋楽)【スイッチング映像】
■配信サイト: シアターコンプレックスTOWN
■販売・配信ページ:https://www.theater-complex.town/ja/articles/87PfrJ1yXbp6WMrQMfEcCA
■販売価格:
全景映像:各3,000円(税込)(アプリ購入価格:3,700円)
スイッチング映像:各4,000円(税込)(アプリ購入価格:5,000円)
※アプリで購入した場合は、手数料が含まれたアプリ購入価格になります。
※購入した配信公演はウェブ・アプリのどちらでも視聴が可能です。
≪海外アーカイブ配信公演≫
2025年5月17日(土) 13:00【全景映像】/18:00【スイッチング映像】
2025年6月8日(日) 12:00【全景映像】/17:00(大千秋楽)【スイッチング映像】
■配信サイト ZAIKO
■販売・配信ページ https://marv.zaiko.io/item/371731
■配信公演
2025年5月17日(土)13:00【全景映像】/18:00【スイッチング映像】
2025年6月8日(日)12:00【全景映像】/17:00(大千秋楽)【スイッチング映像】
■販売価格 全景映像:各JP¥3,000 スイッチング映像:各JP¥4,000 ※別途手数料が発生いたします
≪Blu-ray/DVD≫ 2025年11月5日(水) 発売決定
ミュージカル『憂国のモリアーティ』大英帝国の醜聞 Reprise
発売日:2025年11月5日(水)
価格・品番:〈Blu-ray〉10,780円(税抜価格9,800円) TCBD-1779
〈DVD〉9,680円(税抜価格8,800円) TCED-8153
発売元:株式会社マーベラス 販売元:TCエンタテインメント株式会社
仕様:Disc2枚組
収録内容:
〇本編 〇バックステージ映像 〇歌唱シーン全景映像(数曲抜粋)
封入特典:ブックレット
■初回生産限定特典:
①ランダムブロマイドL判2枚セット(全7種)
■特設サイト予約特典:特設サイトより予約の方対象
特設サイト:https://tce-25jigen.jp/shop/moriarty
予約受付期間:2025年5月1日(木)12:00~2025年7月31日(木)23:59
①ダイジェスト・ビジュアルコメンタリー配信番組視聴券(期間限定)
配信期間:2025年11月5日(水) 12:00~ 2026年11月4日(水)23:59
②メインキャスト集合ブロマイド 2L判1枚
■モリミュ公式SNS
HP:https://www.marv.jp/special/moriarty/
X:@mu_moriarty
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ⓒ三好 輝/集英社 ⓒミュージカル『憂国のモリアーティ』プロジェクト