【ゲネプロレポート】Superendroller LIVE“scene06”「雷に7回撃たれても」
脚本・演出家の濱田真和が率いるSuperendrollerの新作舞台『雷に7回撃たれても』が、11月3日(木)より横浜・赤レンガ倉庫1号館3Fホールで上演された。
本作品は、“雷に7回撃たれても生き延びたが、失恋により拳銃自殺をした”と言われる実在した人物を源流に描くオリジナル作品だ。
数奇な人生を歩んだ主人公・田中八起を演じるのは、俳優・大下ヒロト。映像作品やアーティストのMVへの出演をはじめ幅広いジャンルで活躍する大下は、本作で初主演を務めた。ヒロイン・清澄美波は元BiSHのセントチヒロ・チッチこと加藤千尋が演じる。俳優名義である「加藤千尋」として本格的に舞台に立つのは、大下と同じく今作が初めてだ。
他にも今後の日本演劇界を担うだろう俳優陣に加え、照明や音楽まで、素晴らしい才能が揃っている。
メディアクトでは、初日に先立って行われたゲネプロ公演の様子をお届けする。
本作は、「災害と再生」「生と死」「夢と現実」「人間と自然」などの複合的なテーマを掛け合わせた物語だ。
幼少期に雷に撃たれ母・多由子(演:北村優衣)を亡くして以降、父・和道(演:テイ龍進)とふたりで育った八起。学生時代に二度、三度と雷に撃たれた八起は“人間避雷針”と呼ばれ一時期は周囲にもてはやされるが、次第に忌避されるようになってしまう。孤独や葛藤を抱えながら生きてきた八起は、母子家庭という似た境遇で生きながらもしっかりと芯を持った美波に惹かれ、夢を追いかけるようになる。お互いに支え合い、信じ合い、幸福を掴みかける八起。しかしその後も八起の進む道を遮るかのように、雷は幾度も落ち続ける。
“雷に7回も撃たれた”というワードにあまりにも強烈な印象を受けるが、今作でフォーカスされるのはその衝撃的な事実自体ではない。雷に撃たれても死ななかった男が自らの手で死を選ぶまでの半生が、この物語の核となっている。
人間ならば誰しもが抱えるであろう弱さや迷いと対峙しながらもがき続ける八起を、大下が熱演。八起は、雷に撃たれ続けたという事実以外は至って“普通”の人間に見える。友人や家族との関係、将来、恋に悩み、苦しみながら生きる意味を探す姿は、見ていて胸が苦しくなるほど。生きた人間の生々しい感情の発露に、終始目を奪われる。
ヒロインの美波も、どこまでもリアルな人間だった。周囲からは特別に見られがちな少女の強さや弱さといったアンバランスさを描く芝居が、役に命を吹き込んでいた。また、劇中での歌唱シーンにも注目したい。心臓の柔らかな部分を撫でるような、澄んだ歌声が観客の心を掴む。
八起や美波をはじめとした登場人物たちは、ひとりひとり個性が際立つ。八起の幼馴染、楠本春一(演:富田健太郎)は矛盾や葛藤を抱えた人間味が光る。わかりやすく悪役の象徴のように思える所沢誠二(演:見津賢)のことも、憎みきることが出来ない。
ともすれば身近に存在するかもしれない、自分がそうであるかもしれないと思わせる登場人物たちの誰かに感情移入をしてしまう観客も多いのではないだろうか。そのリアルさも、実力ある俳優陣たちが演じているからこそだ。
舞台を支える音楽やアンサンブルキャストの存在も欠かせない。ドラム&俳優としても出演する岡山健二(classicus)の生演奏が、舞台上に鮮烈な光を放つ。過去にもSuperendrollerの作品に出演している島田惇平は、今作では身体表現・振付指導・アンサンブルリーダーを務める。年々研ぎ澄まされる表現は今作でも無二の存在感を放ち、決して忘れられない刹那の衝撃を生み出していた。
舞台はナマモノである。今作では目の前で繰り広げられるすべての芝居、――表情や息遣い、目線の動きといったひとつひとつの機微が息苦しさを覚えるほどの純度で胸に突き刺さる。
観劇後は自分の歩んできた軌跡とこれからの未来、あらゆるものをひっくるめた「生きる意味」について考えるきっかけを与えてくれるような、心に刺さる舞台だった。
この瞬間にしか見られない景色を、現代を生きるすべての人に、ぜひその目で見届けてほしい。
記事/写真:水川ひかる
公演概要
■ Superendroller LIVE“scene06”「雷に7回撃たれても」
日程:2023年11月3日(金・祝)~12日(日)
会場:神奈川県 横浜赤レンガ倉庫1号館 3Fホール
脚本・演出:濱田真和
出演:大下ヒロト、加藤千尋、富田健太郎、小槙まこ、見津賢、北村優衣 / 笈川健太、平山由梨、古角貴弘、田原未梨 / 島田惇平、岡山健二、テイ龍進